行きつけのラーメン屋での小噺
一話完結ですので、お時間は取らせないかと存じます。
俺は行きつけのラーメン屋の店長と相変わらず話していた。
「相変わらず、ここのラーメンうっまいよなあ。いっつも思ってるんだが何でこんな客いねえんだ?いつ来てもすっからかんじゃねえか」
「うるせえな、坊主。お前の舌が狂ってるだけだ。俺の作ってるラーメンは世間様からすればまずいんだよ」
「いやいや、おやっさんは自分の作ったラーメンの事をいつも馬鹿にしてるような言い方してるけどよ、本当にうまいぜ。一回食べたら病みつきになるっていうかよお。引っ越したばっかでいい店見つかるか心配だったが、おやっさんの店があったら他の店なんて行く気がしなくなったぜ」
「そりゃどうも。ていうか、お前さん引っ越してきたばっかだったのか。冷静に考えたらそうか。そりゃそうだよな」
「そりゃどういう事だよ。おやっさん」
おやっさんはいつもへらへら話してるっていうのに、俺が投げかけた質問に対しては少しだけ時間を置いて
「いやな、別に何でもないんだがよ。でも、そろそろ客足も何とかしなきゃなあ。そろそろ自分のことだけじゃなくてかみさんにも迷惑かかっちまうからよ」
「ちょっと待てよ、おやっさん奥さんいたのか?初めて聞いたぞそんなこと」
「ああ、言ってなかったっけ。そうだよ、俺のラーメン屋開きたいなんて夢を聞いて馬鹿にしなかった唯一の女だよ。甲斐甲斐しいというか、献身的というか。俺は口下手だからこれ以上かみさんのことはお前さんに話せねーぞ」
「へえ。んで、この閑古鳥も大合唱しそうなお店の状況を嫁さんは知ってるわけ?」
「残念ながら、な。そしたら、私が何とかする、とか言ってたけど結局どうしたんだろうな。まあ、自分のお店をかみさん頼りなんて情けないことこの上なしだが」
「まあまあ、けどそりゃいい嫁さん持ったじゃねえか。そんなに切羽詰まってるんなら、俺のダチ誘って一緒に来るか、ここの店紹介しといてやるよ。このお店の状況も一緒に伝えたらきっと一回ぐらいは同情して来てくれるって」
「本当か、わざわざありがとうな、坊主」
「いいってことよ。こんなにうまいラーメン作ってんだから、一回来ちゃえさえすれば病みつきになる事間違いなしだ。お礼は一食タダでいーぜ」
「満席になったら考えといてやるよ。こっちも苦しいもんで」
後日、ダチにこのお店に行って欲しい事を伝えたら、多少困惑していたが俺の顔に免じて行ってくれたらしい。それが功を奏したどうかは分からないが、ダチからまたそのダチにこの店のラーメンの美味しさが広がったらしく、一ヶ月後には長蛇の列が並ぶほど人気になっていた。
しかしそんな列が並び始めた1週間後ぐらいにおやっさんの店は閉店することになったらしい。
店の出入り口には、諸事情により店を閉店することになりました、とだけ書いてあったらしい。一体何が起こったのだろうか。閉店以降、おやっさんのことは一切見かけていない。
もっかいだけでいいから、あのラーメンが食べたいなぁ。
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