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異世界のんびり生活

お餅がなければケーキを食べればいいじゃない 異世界のんびり冒険者生活

作者: みやび

気が向くままに書いた掌編

「お餅が食べたい」


新年になったその日。暖炉の前で丸くなっていたお姫がいきなりそんなことをつぶやいた。


前世は異世界のおっさんだったと自称する、頭ゆるふわ系のこいつは、一応帝国の継承順位3位の竜人のお姫様である。生まれながらの勝ち組のくせに、何を考えたのか冒険者などという無法者の職業につき、おっさんに交じって普通にどぶ攫いとかをしているわけのわからないやつだ。仲間内ではお姫と呼ばれている。


今日も雪かきという雑用依頼を嬉々としてこなし、子供たちと雪兎を量産した後、冷えたーとか言って暖炉の前で丸くなっていたのだが……

急にそんなことを言い出した。


「ひとまずお前はもっと厚着しろ、なんだその恰好。風邪ひくぞ。それともアホだから風邪ひかんのかよ」

「ふっふーん、かわいいでしょ。それよりもお餅食べたいんですよ」


白のワンピース一枚という見てるこっちが寒くなる格好についてのツッコミは華麗にスルーされて、続くのは「オモチ」が食べたいというその一言だった。


お姫は1月に一回ぐらいの頻度で謎のことを言い出す。前世の記憶がーとか言うが、たんに頭のねじが緩んでいて変な神託を拾ってきているとかだとおもうんだけど。

何にしろお姫が妙なことを言い出すと……


「よっしゃー!!! オモチ狩りだぁ!!!! お姫!! オモチってなんだ!!!」


おっさんたちが無駄に張り切りはじめるのだった。




雑用を文句も言わずに確実にこなし、愛想もよくて依頼者対応のいいお姫は、ベテランのおっさんたちに非常にかわいがられている。

元々見た目だけはかわいらしい少女のお姫が、何かが欲しいというと、おっさんたちが謎に張り切って筋肉だけの脳みそをフル回転させた挙句、絶対にそれ違うだろうっていう脳筋的回答を持ってくるのだ。それはさながら大喜利である。冒険者ギルドの風物詩でもあった。


「お餅はねぇ、白くて、柔らかくて、びろーんって伸びる食べ物だよ。味はほのかに甘いの」


竜の尻尾をパタパタさせながら、嬉しそうにおっさんにこたえるお姫。お姫は筋肉とオヤジ趣味なので、ベテランのおっさんたちには基本愛想がいい。これが若い男だと、特にイケメンには途端に塩対応になるんだから趣味が悪い。


テンションが高いおっさんたちは、「白くて伸びて甘い食いもんだー!!!!」と叫びながら、外に出ていった。きっと夜には戻るだろう。






お姫とコボルドのルーちゃんと3人で夕飯のシチューを作っていると、おっさんたちが帰ってきた。


「これだけとってくれば一つぐらいあたりがあるだろ!!!」


どや顔して、おっさんたちがおのおの机の上にいろいろなものを広げていく。

白くないものもいっぱいあるんだが……


「エントリーナンバー1番、疾風のヴォルヴがもってきたものはこれだー!!!」

「あれは、スライムの死骸ですね」


細マッチョのおっさんが掲げるのは、水色のスライムの死骸である。

いやそれ、柔らかいけど伸びないし、甘くないし、そもそも食えねえよ。

周りからも「ひっこめー」と野次が飛ぶ。お姫は死骸を持ち上げて手のひらから炎を出して焼却処分にした。失格のようだ。


「エントリーナンバー2番、ギルドマスターの持ってきたものは!!」

「白銀堂の新作ケーキじゃ」


髪も髭も真っ白なゴリラマッチョのギルドマスターが、どや顔で掲げるのは町の有名菓子店の新作ケーキだ。真っ白な丸っこい、雪兎をモチーフにしたケーキで、絶対美味しいやつである。

お姫もルーちゃんも満面の笑みでギルドマスターに飛びついた。ちょろすぎる。絶対「オモチ」のことは忘れてるだろ。汚い、さすがギルドマスター汚い。

ただ一言、ボクはギルドマスターに伝えておかなければならないことがある。


「それ、経費じゃ落ちないからね」


ギルドマスターは悲しそうな表情をするが、ギルドの受付嬢兼金庫番としては当然のことである。というかケーキぐらい自腹で買えよ。

そのままギルドマスターの持つ領収書を破り捨てるついでに、ケーキを一つ奪い取る。そのまま口に運ぶと、甘さが雪のような儚さで溶けていった。


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