異国で慈しみ中です
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「いないではないか!」
「王様?! どうなさいましたか?!」
勢いよく戸を開けて大声で責めてくる王に侍従長は机から顔を向ける。
「女が部屋にいなかったぞ」
王の新しい愛人が不在なのはおかしい、と侍従長は首を傾げた。
王の最近のお気に入りという事で、二週間前から囲い者になっている踊り子の娘。
自分が一番愛されているからと傲慢に振る舞っている身の程知らずの田舎娘。
娘自慢の踊りもあと一ヶ月しないうちに王が飽きるだろう、と予想出来る娘。
後見人がいない一般庶民は先々の保障がないので、保険として早く王の子を孕もうと必死なはず。
それなのに王が訪れるのを知っていてもいなかっただと?
「確かに今夜の訪れを伝えたはずですが。少しお待ち下さい。担当者を呼びます」
この国の公妾や愛人は、王と王妃が暮らす本城で等しく暮らせない。
彼女達が暮らせるのは、城内でも離れた敷地にある屋敷のみ。
どんなに王の寵愛を受けても、国が認めた国の母であり、王に次ぐ貴人である王妃より格段に下の者扱いである。
それに、彼女達が王の子を産んでも、その子は王夫婦の子として扱われ、基本的にはを育てる事も出来ず、後世に生母として名は残らないのだが、子を産んだら報酬や好待遇もあるので愛人希望者は絶えない。
今代の王は見目良い姿で、女達は彼との関係を望み、王もそんな女達を受け入れ易い者であった。
現在、離れの屋敷で暮らすのは、貴族の後見人を持ち王妃からも認可を受けた公妾三人に豪商の未亡人と踊り子の愛人二人。
公妾は、王政を支えてくれる貴族出身者なので簡単に切る事は出来ないが、愛人は王の気分次第で頻繁に替わっていた。
王が次から次へと女に手を出しては飽きるので、周囲の者達は「その色事さえなければ自慢の王様なのに」と残念がる。
そして「あんなに素晴らしい王妃様がいらっしゃるのに。何て贅沢な王様なんだろう」と不満を口にするのだった。
「王妃! こんな所に何故いる?! やはり、貴女がソレを連れ込んだのか?」
突然の王の訪問にその場にいた者達が一瞬、動作を止める。
「あら、王様。急に扉を開けないで? 皆、驚いているじゃない」
黒髪の美女が、仕方がないわねとばかりに息を吐く。
王は室内を見て眉を寄せる。
「お前達もいたのか」
そこ、第二公妾の部屋にいたのは、他の公妾と愛人全員に侍女数名。
「娘。お前は何しているのだ?」
王妃の前に床座りしている娘が、今夜の予定をすっかり忘れているかのようにのんびりと答える。
「王妃様に頭皮を揉んでもらっていまぁす」
王を部屋で待っていなければならなかった娘は、へらりと笑う。
侍女達は王の登場に慌てて床から立ち上がり、一礼したのだが……。
長椅子に座っている王妃の足の爪に色を塗っていた第一公妾。
菓子を切り分けていた第三公妾。
楽器を奏でていたもう一人の愛人。
第二公妾にいたっては、下着姿でお酒を飲んでいた。
「お前達。ここで一体何をしている?」
眉間にしわを寄せている王に笑顔を向けるのは王妃だけ。
「城内の乙女達の集い。今は、一緒に入浴して、のんびりしていたところなの。ちなみに男子禁制。だから、王様も今は入って来てはいけないのよ?」
王妃の目配せで、自分が追い払われていると知る王。
怒りを感じた王だったが、王妃の視線に色気を感じた彼は顔を赤らめる。
ただでさえ、今の王妃は絹のキャミソール姿で胸元も足元も露わなのだ。
久し振りに見る王妃の身体は相変わらず艶めかしい、と王は思わず喉を鳴らしてしまう。
沢山の女体を見て来た王にとって、一番好ましいと思えるのが王妃の姿なのだ。
王妃の顔も身体も声も全てが、他の女達よりも別格に見える。
「今夜、そこの娘と約束していたのだ」
「そうだったの?」
自分の太ももで囲っていた娘に問う王妃。
「ああっ。すっかり忘れていましたっ。ごめんなさい王妃様。私、準備しなきゃ」
起き上がった娘はようやく慌てた顔をし、そのまま部屋を走り去った。
「ごきげんよう。また一緒に過ごしましょうね」
王妃が微笑んで手を振る。
「あらあら。あの子、侍女と走って行ったけれど。王様にすぐに謝罪も出来ない子が、私達に別れの言葉も言えないのは仕方がないことかしら。ね、王様?」
王妃の憐れむような視線を向けられた王は、「何て、教育されていない無礼な娘に手を出したのかしら」と嘲笑されている気分になる。
急に新しい愛人と過ごすのが嫌になった王。
「お前はいつもいつも、私の女をかっさらっていくな? 王妃は女好きという噂が流れても、否定してやらないぞ?」
「女好きで有名な王様の前では、霞んでしまう噂ですね。恥ずかしいわ」
「ふんっ」
王はもう用がないとその部屋を出て行った。
「王様?」
踊り子の娘の部屋を通り過ぎ、城に戻って来た王を侍従長が呼び止める。
「もう今夜はいい。自室に戻る。それと、あの娘が孕んでいない事を証明した後、すぐに追い出せ」
妊娠の確認後、手切れ金を渡して愛人と別れるのが常な王。
侍従長は「もう、いい加減にして欲しい」と、心の中でため息を吐く。
「サラサラな金髪に切れ長の藍色の目の二十代の美しい王に集る女も仕方がないが。この節操なし王が」と、毒吐く侍従長は王妃ファンである。
自分の寝室に戻った王は、自分との約束を破った踊り子に苛立つより、先程の王妃の姿態に興奮気味だ。
王妃をもんもんと思い浮かべては、色々と妄想して眠りにつくのであった。
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<王妃・雪音>
異世界から来た私が王妃を続けていられるなんて……。
第二公妾の部屋から自分の寝室に戻った雪音は窓を開けた。
夜風を浴びるとモヤモヤとした気分が落ち着いてくる。
私が女好き、ですって?
ただ、彼女達を可愛がりたいだけなのに。
この国の人達は、身長168cmの私よりも背が低い人が多い。
成人女性の平均身長は140cm台で150cmあればかなり大きい。成人男性も平均が160cm程度。
この国で背が高い方の夫は、私より5cm高い。
でも、私が高いヒールを履いた時、彼の背を越してしまって、嫌そうな顔をされて……。
あれ以来、靴選びは慎重になったっけ。
自分でも失礼な事を思っていると自覚しているけれど。
この国の人達を見ていれば、幼い頃の妹や甥を思い出したり、子供がいたらこうするかな、って母性や保護欲がすごく強くなって。
つい甘やかしたり、世話を焼いたり、心配したり、子供扱いしてしまう時もある。
夫の新しい愛人は成人平均よりかなり小柄の童顔で、「ランドセルいけるんじゃない?」ってニヤニヤしちゃったわ。
大体、夫の愛人だなんて私が歓迎するわけないじゃない。
私と公妾達の前にようやく今日、ふて腐れた顔の新しい愛人が挨拶に来たけれど。
愛人の反抗的態度に耐えられない公妾の一人が、彼女に注意したにもかかわらず大人しくなるどころか、怒鳴り返してくるなんて。
あまりにも騒々しいから、「人の話も聴こえないなんて、相当耳垢が詰まっているのね。掃除してあげるわ」って、つい言って構ってしまったのよね。
そうしたら「ああん。耳の掃除も気持ち良い~」って、しがみつかれたの。
そして、気が緩んだ愛人は口も緩くなって「髪がよく抜けるんですぅ」と話し出した。
踊り子として長髪をいつもポニーテールにしていたからか、彼女の頭皮は固く強張っていて、これまたつい、入浴後に頭皮マッサージしてあげたのよ。
彼女、夫の愛人なのに……。
この世界に来てからよ。
ここに来てから年齢性別関係なく、皆を慈しみたいって気持ちが溢れてくるの。
小柄な人も私よりも背が高い人にも、当然のようにそう思ってしまうのよ。
性格悪い人に対しても、「どうしてこんな根性曲がって育ったのかしら? 魅力が半減しちゃってるわ。どうかこの人の失った魅力が戻ってきますように」って、頭撫でるか、抱きしめたくなっちゃう。
でも、不思議と夫だけには、他者への感情より何倍も特別な恋愛感情を抱けたのよね。
あの人だけ……。
元の世界にいた頃の私は、毎日が不安で、生きる気力も楽しみも失っていたのに。
そんなある日、朝、目覚めていたらこの異世界にいた。
辿り着いた町で鏡を見たら、髪の長さが変わって、容姿も四十代よりも若返っていて驚いたわ。
この髪型の時の年齢を思い出したら、丁度もとの年齢の半分、二十四歳に戻ったってわかった。
色んな変化の意味が解らず、ウロウロ歩いていたら、不審者として捕まって。
役人との話し合いの結果、私は異世界からの来訪者として、王の元へ差し出された。
城で滞在中の私は、第二王子のいささか強引な手で夫婦になったのよ。
ずっと愛に飢えていた私は、一途に私を大事にしてくれるのがわかったから、以前なら躊躇する六歳年下の彼をそのまま受け入れてしまって。
その彼の態度が、私が表舞台に立つ度に崩れていくようだった。
隣国がこの国を侵略しようとして、戦になった時の事も一因かもしれない。
当時、戦場に無理矢理ついて行って、傷つけられていく国民を目にした私は暴走してしまった。
手にした事がない武器を持って、敵に立ち向かって行ったの。
「私の子達に何してくれてんのっ」と叫んで行ったらしい。
子達って。彼等は同国の者達なだけなのに、何でそう言ったのか、自分でもわからないわ~。
あの時の私は超人的な力が湧き出て、蹴るだけでも相手は倒れて行くから、武器は不要だったのよね。
どうやら私は、何かを守ろうとする気持ちで力を得る事が出来るみたい。
敵国を負かした私を出迎えた夫の怒りはすさまじかったな。
でも、私が参加した事で、第一王子は病を理由に彼に王位を譲った時、戦で名を挙げた私は後ろ盾がなくても、国の守護女神として王妃になれた。
王になった夫はそれから、何か言いたげな視線をいつも私に向けていたけれど、顔を合わせる度に彼は無言のまま離れて行く事が多くなって……。
あの時から夫の側に女達が並び始めたんだわ。
貴族の派閥から一人ずつ娘を選出して公妾とする時に初めての喧嘩。
彼が愛人を連れて来る度に喧嘩したけれど、六人目から言い争う気も失せた。
今の踊り子で何十人目?
数えるのもうんざりなのよ!
「夫が彼女達の部屋へ行く日に泣くの過去の事。他の女達と浮名を流している夫にもう期待していない」
って、言えるようになったら、私も楽なのに。
裏切られて泣くの、疲れちゃった。
でも幸いな事に今の私には、心配るべき対象は沢山いる。
夫が王子の時に産んだ極上に愛しい息子もいるし……。
三十歳の今、前の世界で三十歳の時には持てなかった子供がいるだけで幸せ。
前の世界でこの年齢頃から、むしょうに子供を見ると笑顔になって、可愛がりたくてたまらなかった。
あの頃、無意識に子供を望んでいたのかもしれない。
この異世界では、夫に愛され、子がいて、と満たされた日々を過ごす事が出来た。
夢のよう、だったわね。
すっかり他の女達に心向けている夫といるのは苦痛だし、別れようと思ったけれど、王妃としての責任をすぐに放り出せないのよねぇ。
王が守護女神を蔑ろにしていると国民から今も批難されているのに、私が城を出たら、王の立場はかなり危うい。
だから、子供が成人したら、不誠実な夫と別れてこの城を出ようと考え直してみた。
その時、王の支持者が減ったら、子供が新たな王になればいいもの。
それに私が独身になったら、戦の時に知り合った傭兵団副長の人が私をもらってくれるらしいし。
いつまでも待っていると言ってくれる彼と今も文通中。
野性的なおじさんがロマンチストな詩人っぷりの手紙をくれるなんて。
読む度にちょっとうっとりしちゃうから、貰うの楽しみだったりするのよね。
他にも私と将来を願う手紙をくれる人達がいて。
私ってば、モテモテ。
「うん、寂しくない」
呟いた雪音は寝台に倒れ込む。
あの人、私の下着姿を見ても興奮しなくなったのね。
こっちを見ても表情全く変わらなかったもの。
もう私に関心がなくなったの?
やっぱり年下の若い子がいいの?
今は、誰を愛しているの?
貴方にとって私はもう不要?
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<第一公妾>
この国に突然起こった隣国との戦。
その戦を収束させる切っ掛けをつくったのが、国と国民を救った『守護女神』様。
彼女こそ第二王子の奥方。
第二王子が王位を継いだ時、奥方が王妃となる事に問題はありませんでした。
国内の有力な貴族の娘が王妃になるのが恒例でしたのに、『守護女神』様はそれ以上に価値がある女性として認められたわ。
彼女の功績は他国にも伝えられているので、「何かしたら王妃が黙ってないぞ」と牽制の意味もあったらしいわね。
新王の王妃への寵愛ぶりはこれまた有名話。
その二人の間に割り込む公妾に私がなるなんて……。
戦後だから余計、国内の結束を強めようという風潮が強まっていて、「貴族間で対立しあっている場合ではない」と、三大派閥代表の娘達が王へ差し出される事に。
今回選ばれた公妾は、王への忠誠の証しという意味を持つ。
本来なら、公妾は王の子を産んだら成れる地位。
いきなり公妾になった私達三人は、本来の公妾の名の通り、子を成す事を実家から頼まれていたけれど。
……無理です。
もともと私は、彼の兄であった第一王子様の方が好きでした。
第二王子様の爽やかな美貌の裏に粘着性と腹黒性が見えてましたから。
近づきたくないタイプでした。
それでも王様の気を惹こうと公妾一同かなり努力しましたが、王妃様以外との子を全く望んでいない王様なのよ?
仕事として私達に関わるけれど王妃の事ばかりなのよ、あの王様は。
「王様との事は王妃様に言わない」と、私達は秘密にしていましたが。
それなのに愛人ですって?!
私達を馬鹿にしているわ!!
邪魔な公妾の私達を恨む事なく、王妃様は親切にして下さった。
大きな体に大きな心を持つ包容力の塊のような美しい王妃様を悲しませるなんて!!
でも、現在残っている豪商の未亡人は、これまでの愛人の中で一番害にならなかった人。
商いに励み、王妃様と御子に貢ぐのが生きがいになったと言っているのだから。
王様の渡りがすでにない彼女だけれど、自ら、もう少し残りたいと王様に願っていました。
容認した王様も、未亡人の明るさが王妃の気分を軽くしていると知っていたのかしら?
今となっては、王様より信愛を抱く王妃様と過ごせる事が楽しい私達。
王妃様が、「愛する人がいるなら公妾を降りて、家庭を持ちなさい」と言って下さったけれど。
私達は当分、この地位を降りる気はないわ。
王妃様の御子様も私達に懐いてくれて、王妃様と一緒に子育て出来るのも楽しくってよ。
私は学問が、第二公妾は武術が、第三公妾は芸術事が好きだから、各得意分野を御子様に教えるのも楽しいわ。
もっと王妃様に御子様を産んで欲しいのに。
他の女に手を出している暇なんて、あの愚かな王様に与えるべきではないのに。
王妃様に手を出しなさいよ!!
王様の行事を決定する侍従長は一体、何しているの?!
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<侍従長>
侍従長である俺は王よりも年上だが、幼馴染でもある。
侍従長の母が城で女官長を務めていた縁で、幼い頃からの知り合いだ。
だから、臣下という立場ではなく、幼馴染として話す時は丁寧な言葉はなしだ。
「いい加減、態度をはっきりさせて、話し合った方がいいぞ?」
俺の忠告を無視して、王は書類に判を押していく。
「彼女が田舎の方に家を探しているの知っている? そのうち城から離れて暮らすよ?」
執務室に響いていた判子の音がピタリと止む。
「出てしまったら、もう戻って来ないかもな。最近、王妃はある男とこっそり会っていたと侍女が言っていたよ。これまた鍛えられた体格に大人の色気漂う人でさ、王妃とお似合いだったって」
「お前、うるさいんだよっ。出てけ!」
王の怒声と投げられた書類に追い立てられ、俺は王の執務室を離れた。
まったく。
もっと詳しく知りたそうな顔をして、追い出すなんて。
自分の執務室へ戻り、椅子に座って過去を思い出す。
異世界からきた彼女に一目惚れした第二王子。
うんざりする程、恋心をどうしたらいいか、俺に何度も相談しに来ていた。
「貴方、さんざん女遊びしてきたよな?」と言いたくても、真っ赤な顔でもじもじしている彼が面白くって、黙って見守っていたが。
とうとう彼女と恋人になったか、と喜んでいたら、告白して半年も経たないうちに妊娠発覚。
孫に喜んだ当時の王は、息子達の結婚を許した。
産まれた子より、妻重視は変わらなかった第二王子。
赤子の子育て中に戦が起きて、騎士総帥だった第二王子が戦場に行く時、後を追った彼女。
俺に赤子を預けて、突然叫びながら敵を倒して行った彼女には驚いた。
異世界から来た人には特別な力が宿ると言い伝えがあったが、彼女の強さはそこからきているのか?
それにしても、あ~あ。
男達と挨拶するだけでも嫉妬する彼の前で、敵の男達を蹴ったりするのは駄目だよな。
傭兵達と協力し合って動いたり、手や肩を叩き合うのも駄目。
彼の目がすごい事になっていた。
王妃がとかく人に親しげに接するのがいけない。
王よりも他人にかまけている時間が長く思われても仕方がない。
「他人と話すより、王に愛を囁いていろ。王妃の行動が王を狂わせるのだ」と、彼女に言うべきだったのか?
俺が早目に彼女に他者との接し方を変えるよう言っていたら、彼等もここまですれ違わなかったかもしれないな。
王が手を出す女は、王妃と関連している。
王妃の一部でも似ているところがある女。
爪の形やら歯並びやら黒子の位置やら、多少似ているだけの女。
この場合は、「王妃に似ているものを持っているなんて」って嫌悪してんだよな。
そんな理由で王から憎まれてるなんて、かわいそ過ぎねぇ?
あとは、王妃が話したり触れた男達と縁がある女。その男達の姉妹や彼女とか、が標的だ。
「馬鹿」としか言いようがない、王のうっぷん晴らし。
そのせいで、ますます王妃と距離が出来たくせに。
今度の愛人だって、王妃と肩を叩き合った傭兵男の妹だ。
王妃が男の肩に触れたの、かなり前の事だろうが。
そんなのに手を出して、何の意味があるんだ?
……。
さて、久し振りに王妃の膝枕味わってこようか。
王子は、日中、隠居した国王夫妻や公妾達のもとへ遊びに行っている事が多い。
結果、王との時間もなくなった王妃は一人の時が多い。
それを狙って、王妃のもとに誰かが寄って行くのは、当然だよな?
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<王>
散らばった書類を整えながら王は息を長く吐き出す。
雪音は本当に城を出て行くつもりだろうか。
食事時に顔を合わせるぐらいで、笑い合う事もない。
この生活、いつまで続くんだ?
彼女に関わった男が悔しがるかと縁がある女に手を出したりするが……。
二年以上も雪音を抱きしめてないなぁ。
触れたいなぁ。
避けられてから、触れるの怖いんだよなぁ。
息子にも妹が欲しいって頼まれていたなぁ。
大体さ、愛人って周りが言うけれど、あの女達とは子供が出来る行為はしてないんだよ。
ギリギリなところで止めているからな。本当、ギリギリ。
雪音と出会う前の遊びまくった自分を思い出すよな。
女を思いっきりいい気分にさせた後、残酷な言動で泣かす。
苛立った時、女を苛めて泣かすと少しサッパリするんだ。
女と過ごすのが嫌になったら、私の子だって後で言われないよう検査をさせて、王と過ごした出来事を公言しないよう書類作ってから、とっとと別れている。
雪音以外の女といても楽しくないし。
私の愛人はうさ晴らし用。
雪音こそ私の唯一の女。
彼女が、私だけに向いて、私だけと話して、私だけに触れてくたら、こんな事にならなかったのに。
人々の前にいる雪音を見ていると本当に不愉快な気分になってくるからな。
着飾った雪音は、眩しく輝く美しき女神!
跪きたくなるのを我慢する程、彼女は神々しい。
感動中の私を置いて、雪音は周囲の者に愛想を振り撒いて行った。
なぁ?
雪音が心配る一番は、私なんだよな?
私は特別なんだよな?
周りは雑魚なんだよな?
勘違いする雑魚が多くて困るのに。
今でも私だけを愛しているよな?
雪音~。
彼女は、まだ知らないだろうな。
彼女と文通している一人が私だって。
傭兵団の副長からの手紙をたまたま目にして、「こいつ危険だ、私の雪音を奪う」と不安になったから、差出人の名を乗っ取った。
副長の名を語り、私は彼女との手紙で交流していたのだ。
今度の手紙で、雪音が夫の事どう思っているか訊こうか?
その返事によって、行動が変わる。
拒否されたら、どんな手をつかっても離さない。
……そうだ。
昔、雪音に告白する前、こういう思考になったな。
断られたら、閉じ込めてしまおうって。
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<それから>
王子の愛人である踊り子が城を出た後、王妃は王にまた昔のように手を出されてしまいました。
ようやく王の独占欲と嫉妬心を理解した王妃は、深く愛されている事に喜び、益々艶めいた美貌を周囲に振り撒きます。
この世界に現れた時の王妃は地味でしたが、王に愛されている実感を味わう度に美しくなっていき、そこに妖しい色気が増加中の最近の王妃。
他国の王族や国民を籠絡しても、彼女は王だけに愛を囁きます。
その囁きで王の顔がくしゃりと崩れると、王妃の眼差しは「なんて愛おしいの。これって私のための表情よね。最高よ」と賞賛しまくり。
元いた世界の雪音が四十代の時、気が付けば無職の独り身。
肌のシミも白髪も増え、更年期に突入中でした。
人が善いから、家族や周囲にいいように使われ、騙され裏切られてばかり。
人間不信になった彼女に相談相手はいませんでした。
毎日生きる望みもなく、将来の闇底を憂いてばかり。
それが、この世界で四十代になった時、愛し合う夫がいて子供が四人、沢山の知人と自分の愛人希望者達に囲まれていました。
それに無職だった彼女が、国民を慈しむ生涯の仕事を得ています。
度々、王妃が国民を守る力を発揮する事がありました。
他国に誘拐された子達を単独で救ったり、と数々の王妃武勇伝は、この国の後世へと伝えられていきます。
色んな意味で充実の日々を過ごす彼女ですが、前の世界にいた雪音の時よりも老いは遅いよう。
五十代、六十代になっても若く美しいままの王妃を誰にも奪われまいと、王はいつまでも目を光らせていました。
王妃の容姿は、王の愛次第。
王の妻への想いは、ずっと続いていたのですね。
-♢-♢-
ねえ?
私をこの世界に召喚したのは侍従長なのでしょう?
魔術師であった貴方の実父が遺した本から、この国を守護してくれる者の召喚を。
え?
あと女遊びが激しい王子をこらしめる存在を、って?
彼に好きな人奪われた貴方の腹いせ?
……理由は何であれ、ありがとうね。
私をこの世界に招いてくれて。
御礼は何がいい?
私の膝枕?
そのまま眠ってしまってもいいか、って?
ええ、いいわよ。
私が貴方に感謝している間は。
いつでも、何回でも、私の膝にいらしゃいな。
涙?
気にしないで。
幸せな分、この現状を失うのが怖くって。
時々、不安で涙が溢れてくるの。
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