我、魔王とでぇとなるものをする 1
「アーシェナ、一緒にデートしない?」
「でぇととは、あれか、恋人同士がするというあの……」
でぇとなるものの存在を我は知っておる。我より後に生まれた同じ竜族たちがしておった。空を飛行して空のでぇとなるものをしたといっておったから。我はでぇとなるものとは無縁だと思って聞いていたが、我もでぇとなるものをするのか。
「そうそう。というか、デートの言い方可愛い!」
抱きつかれた。ヴァーリスは我を抱きしめるのが好きらしい。抱きしめられるのもまぁ、悪い気はしない。しかし、我が異性に抱きしめられるとか考えていたことはなかった。今まで何を好んでくっつきあってるのだろうなどと考えていた我だが、くっつかれていると何だか良い気分になるとヴァーリスと結婚することになって初めて知ったものである。
「うむむ、それで、でぇとなるものはどこでするのだ?」
「どこでもいいけど、そうだなぁ。魔王城の麓の城下町がいいな。俺の奥さんになるわけだしね」
ヴァーリス、にこにこしている。
我は正直でぇとなるものをしたこともなければ、でぇとの話は適当にしか聞いておらんかったし、正直なんとなくしか知らない。だからヴァーリスに任せることにした。だって我分からん。
「じゃ、それでよい」
「デートならアーシェナに似合う可愛い服用意するから!」
「ふむ? この服じゃ駄目なのか?」
「駄目ではないけれど、俺が可愛い服装みたいんだよ」
そんな風に言われたら我は、ちょっと恥ずかしいではないか。ヴァーリスは凄い素直で我は時々恥ずかしくなる。
「うむ、では用意せえ」
我、自分で服などちゃんと持っていない。竜体から人形になる時は毎回、魔力で服を作っていたからの。そんなわけで我はヴァーリスに衣装を用意してもらって、でぇとに出かけることになった。
でぇとはその三日後に行われた。
衣装はひらひらしたものであった。ワンピースである。ヴァーリスが「アーシェナに似合うと思って」と渡してくれたそれは、ひらひらしているけれど動きやすそうなものであった。真っ白なワンピースである。
生地がさわり心地が良かった。
「似合う!!」
ヴァーリスは、そのワンピースを着た我を見て興奮したように叫んだ。ヴァーリスは人形の我を抱きかかえて、ぐるぐる回った。
周りの魔族たちは、「何をやっているんですか」とヴァーリスの態度に呆れていた。我も呆れている。抱きかかえてぐるぐる回って、子供みたいにはしゃいでいるヴァーリスを見ると悪い気持ちはせぬが。
そして我とヴァーリスは城下町に降りることになった。我らに護衛などいらないから、我ら二人だけでのでぇとである。ヴァーリスは我と手をつなぎたがった。別に拒否する必要もないので手を差し出したらなんか手を絡められた。
「なんでそんな手のつなぎ方をするのだ」
「恋人つなぎだよ、恋人つなぎ」
「ふむ、そんなものがあるのか」
こいびとつなぎ、はじめて聞く単語だ。恋人同士での手のつなぎ方らしい。
我とヴァーリスは身長差があるから、正直恋人には見えぬかもしれない。我は、人形だと残念なことに幼体だから。
番というより、親子に間違われるのではないかと正直思ってしまうが、まぁ、いいだろう。我は初めてのでぇとに挑むのである。魔王城を出て、魔族たちが魔都と呼んでいる城下町に我とヴァーリスは降りる。ヴァーリスは魔王であるが、城下町によく降りてきているらしく「あ、魔王様だ」と特に驚いた様子もなく、城下町の連中はヴァーリスがそこにいることを受け入れているようだった。
ヴァーリスは本当に我と違って社交的である。
そしてやっぱり我とヴァーリスを見て「親戚の子ですか?」とか聞いてくるものはおった。我は……もう成体なのである。そのたびにヴァーリスが「俺のお嫁さんになる子!」と凄く嬉しそうに笑って告げていた。
我とヴァーリスは注目されている中を二人で歩んでいく。
「ここの景色いいんだよ!」
とヴァーリスが時計台に連れて行ってくれた。基本的に人形に我はならない。人の町に降りたりもしない。だから時計台というものに上るのも初めてだった。確かにこの場の景色は素晴らしいものだった。時計台の上からは魔都がよく見える。
これだけ建物が密集していて、ここには魔族たちが多く住んでいるのだ。翼を広げて、竜体で空から見下ろすのとまた違った光景だと思った。ヴァーリスはこの時計台がお気に入りなんだと嬉しそうに笑っていた。
「うむ、良い景色じゃ」
「気にいってくれて嬉しいよ」
目の前で屈託のない笑みを浮かべるヴァーリスは、魔王に見えないけれど確かに魔王なのだ。魔族たちをまとめる王。自由に生きてきた我とは正反対のように見える。
番になるヴァーリスのことを我はもっと知りたいと、ヴァーリスを見ながら思う。
「ヴァーリス、我にもっと魔都を案内してほしい」
「当然だよ! いっぱい案内するよ!」
ヴァーリスは我の言葉に笑みを零して頷いた。