我、魔王の側近の前に立つ。
「……森を焼野原にした理由が、その少女と結婚するためですと? その少女と決闘をしてこうなったと?」
目の前の魔族が魔王に抱えられている我をまじまじと見ながら、そんなことをいう。我、決闘に負けたあと初めて負けてしまったことにショックを隠せずにおった。しかし、我の人形の姿は、本当に、我の本来の姿とはかけ離れているから、我が魔王とこのようになるまで戦い合ったとは信じられないのであろう。我はこれでもそれだけの実力を持ち合わせているというのに。
「そうだ。この子と——と、そういえば名前は?」
そういえば、我、名前いっていなかった。魔王の名前も聞いておらぬ。それでいて婚姻を決めるとは、不思議な事かもしれぬが、我は我よりも強い相手で、これだけ美しい魔王を気に入っている。我より強い相手など初めてあるし、正直ちょっとときめいた。
「名前も聞いていない相手と結婚を?」
顔をしかめているこの側近の後ろには、焼野原になっている周りと、魔王に抱えられている我と、いい笑顔の魔王を驚いた顔で、なんといっていいか分からない様子で見つめている魔族たちも多く居る。うむ、こうして話しかけてきている側近は、魔王の一番の側近なのであろうか。
「魔王よ、我の名はアーシェナ・リベリオじゃ。アーシェナと呼ぶがよい。魔王の名は?」
「アーシェナか、可愛い名前! 俺の名はヴァーリスだよ、アーシェナ!」
「ふむ、ヴァーリスか」
「か、」
「か?」
「可愛いいいいいい。やばい、アーシェナの声で俺の名前を呼ばれるとやばい。凄い、やばい。可愛い。もっと俺の名を、その可愛い声で呼んで!」
「ふむ……ヴァーリス、ヴァーリス、ヴァーリス、これでよいかの? と、なんて顔をしておる……」
魔王——……いや、ヴァーリスな何だか悶えたような顔をしておる。ふむ、我の言動でそのような態度をするとは、少しだけ愛い奴であると思った。我、ヴァーリスをじっと見ていた。そしたら、ヴァーリスの側近が我に向かって声をあげる。
「貴方が、アーシェナ・リベリオ!? 竜族最強の女帝? 全戦全勝を誇る? こんな少女が?」
「ふむ、ヴァーリスの側近よ、我に喧嘩売っておるのか? 我の人形の姿は確かに幼いかもしれぬが、我は確かにアーシェナ・リベリオである」
「滅相もありません! 貴方様がアーシェナ・リベリオであるというのならば、喧嘩など売るはずはありません!! それで、何がどうなって魔王であるヴァーリス様と竜族最強のアーシェナ・リベリオが結婚などということに?」
ふむ、この魔王の側近、中々突込み力というものが高いのぉ。そんなことを思いながら我は、その側近をじっと見てみる。ヴァーリスの側近も、人型の姿をしておるが、頭には角が生えておる。魔族というものは、決まった見た目ではない。ヴァーリスには、角とか生えておらぬからな。
眼鏡をかけていて、中々知的に見える側近だが、この側近もヴァーリス同様に残念なところがあったりするのかの。そんな気分にちょっとなった。
「我、魔王に攫われた」
「可愛かったからさらった」
「何してるんですか!! アーシェナ・リベリオをさらうとか、彼女を慕っている竜族から戦争をふっかけられてもおかしくありませんからね!」
「可愛くて、仕方なくて、結婚したいと思ったから。俺は絶対結婚してもらうって決めてたからな」
「…魔王様は、女性に執着しないのではないかと思ってたのですが」
「アーシェナが可愛いから。可愛すぎて、お嫁さんにしたいって思ったから」
「……それで、結婚をするのはともかくとして、何故、戦うなんて真似を?」
「アーシェナが自分より強ければ結婚してくれるっていったから」
「……自分より強い相手としか結婚したくないって言い張ったけっか、孤高の女王みたいになっていたと噂で聞いておりましたが、事実なのですね。それでは、魔王様はアーシェナ・リベリオに勝利したと」
「そうだ。だから俺のお嫁さんにアーシェナはなる」
ヴァーリス、凄く嬉しそうである。ふむ、我と結婚するのがそれだけ嬉しいというのは、我的にも嬉しいのである。
「ヴァーリス様とアーシェナ・リベリオ様の結婚となると……外野が煩くなりそうですね。ヴァーリス様もアーシェナ・リベリオ様も人気者ですから」
ふむ、確かに我への求婚者もそれなりにおるからの。ヴァーリスも人気だと聞いておるし。となると、我もヴァーリスに恋焦がれる女子から喧嘩を売られたりするのだろうか。その場合は容赦せん。我にとって番となる存在に手を出す奴は許せるわけない。
「まぁ、これだけ可愛ければ当然だな。竜体も凄い綺麗なドラゴンだったし」
「そうかの?」
「うん。可愛いね、照れてて」
「……というか、いい加減我を下してほしい」
「嫌。俺はアーシェナを抱えていたい」
そんなに我を抱えていたいのか。幸せそうな顔をしているヴァーリスに駄目とは強く言えずに結局魔王城に戻るまで我はヴァーリスに抱えられたままになってしまった。