我と魔王のハネムーン 5
愛とはなんぞや。
そのことを我は街に住まう者達に聞いて回ることにした。
「愛? 愛について聞きたいのかい? 嬢ちゃんにはまだ早いって……わしより年上でもう結婚している!? なのに今更愛について聞いているのか!? そ、それは無理やりというやつでは。何? 納得はしている? でも愛が分からない? 不思議な夫婦よのぉ。納得しているのなら何も言わぬが……それで愛か……愛とは相手を好いている好意の気持ち。そして共にずっとありたいという気持ちじゃろう。わしはばあさんにそれを感じたからこそこうしてしわしわのばあさんになっても共にいるのだ」
「な、何を恥ずかしい事をいっておる!!」
共にありたいと思う気持ちか。それにしてもこのおじいさんとおばあさんは我より年下だろうが、種族が人間だからかもう白髪になっていたりしている。でもそんな姿になっても愛し合っている。互いを思い合っている。うむ、それが愛か。
愛するということは、相手がどのような姿になろうとも愛を貫くこと。うむ、確かに愛と言えるだろう。
「相手にどうしようもないほど惹かれることだろうか。私は妻にびびっと来た」
うむ、確かにヴァーリスもそんなことを言っていた。我の事をお嫁さんにしたいと言っていた。我にびびっと来たのだな。うむ、我はびびっとはきていない。でもとても美しい見目をしていると驚きはしたが。
「相手を独占したい気持ちね! 誰にも渡したくないってそんな気持ちが沢山わいてくるの。だから私も彼を手に入れるために……」
なんだか娘の一人がとても怪しい笑みを浮かべていた。連れられている男が少しだけ目が虚ろだが大丈夫だろうか。それにしても誰にも渡したくない気持ち。独占欲というものか。
「愛とは、我慢ね。相手を思いやる気持ちを持って、妥協するの。相手が好きだからこそ、相手を思いやる。思いやって、我慢して、そして嫌な部分を見ても好きだという気持ちを感じるの。駄目な部分も含めて愛おしいと思うの」
全部が好き、ではなく妥協する。少し嫌な部分を見ても好きだと感じる。駄目な部分を見ても愛おしいと感じる。そう言われても正直、ヴァーリスの駄目な部分など全然思いつかないのである。
「愛とはなにか? また難しい事を聞くのだね。愛とは人それぞれ違うだろう。好意を抱いているとか、あとは口づけをしても気持ち悪いと感じないかなど。そもそも本当の意味で愛をもっている人などあまりいないのではないかい? 皆が愛情を真に持っているのならば浮気というものはないだろう。少なくとも浮気をされて怒れるのならば独占欲はあるだろうが」
愛。愛とはひとそれぞれ違うときざな男はいった。浮気か。竜族は番以外に手を出すという事はまずしない。番という存在を第一に考える生き物だ。そもそも番を作った後に他の異性に手を出したりは基本的にしない。中には本当の愛を見つけたなどといって番と別れて、新たな番を作るものもいるらしいがそんなものも稀である。だからその浮気という行為は一切理解出来ない。
口づけに関しては別に嫌ではなかった。気持ち悪いなどとは思わなかった。我は少なからずヴァーリスに好意は抱いている。我を見ながらにこにこと笑っているヴァーリスを見て、嬉しくは感じている。
人間や獣人の中では浮気というものを繰り返す存在がいるとは聞いた事があるが……そして魔族の中でも色々そういうことをやらかすのはいるはずである。となると、ヴァーリスも我以外に口づけをしたくなったりする日も来るのだろうか。……それはちょっともやもやする。
街の人たちに愛について聞いて回っても、我はヴァーリスを真の意味で愛しているのかというのが分からなかった。その辺にいる猫にまで「愛とはなんぞや」と問いかけてしまい、にゃーという声しか帰ってこなかった。周りに人が居なかったが、ちょっと誰かに見られたら恥ずかしいのでその後に誰もいないかきょろきょろと確認してしまったのは秘密だ。
結局、我はまだ愛というものが分からない。
そう思いながらとぼとぼと宿へと戻ろうとしていれば、騒がしい声が聞こえた。
きゃーきゃーという雌たちの声。
なんじゃ、騒がしいとそちらに向かってみれば、ヴァーリスが何人かの人たちと話していた。何を話しているのだろうか。笑みを零している。雌も雄もいるが雌の方が積極的に話しかけている。
ちょっともやもやする。
これは我がヴァーリスを愛しているからなのか、それともただ単に番としているヴァーリスに雌が近づいているのが気に食わないのか、よくわからない。
だけど———、
「ねー」
雌の一人が至近距離でヴァーリスの耳元に顔を近づけて何かを言って、ヴァーリスが我にいつも向けているような嬉しそうな笑みを雌に浮かべているのを見た時、何だかプツリときた。
—――そのような嬉しそうな笑みを他の雌に向けるではない。
「ヴァーリス、何をしておる?」
そんな感情が爆発して、我はそんな声をあげてしまった。




