我と魔王のハネムーン 3
我とヴァーリスは港町を離れて、次の街へと馬車で移動していた。あえて馬車で移動していたのは、なんとなくの気分である。我は馬車に乗ったことが全然ないからの。このハネムーンは楽しい。ヴァーリスと共に色々な場所に行くのは楽しい。しかし、一つだけ不満があるとすればいまだに初夜というものを経験していない。
――理由はヴァーリスに聞いている。ヴァーリスは、我ときちんと心が通じない段階でそういうことをしたくないのだという。そのことに対して何とも言えない複雑な気持ちに我はなったりする。
それと同時に我は、ヴァーリスに対してどういう感情を抱いているのだろうか。嫌ってはいない。好いている。だけど、それがヴァーリスが我に抱いているものと同じなのだろうか。我は口づけをすることに抵抗はない。それだけでも我はヴァーリスに対して好意を抱いているのは確かだろう。
でも我はそういう誰かを愛するという気持ちに対してあまり理解がない。今までそういうことを考えてこなかった。我は誰とも番になるつもりはなかった。我は一人で生きていくつもりであったし、誰かとそういう関係になるつもりはなかった。
でもいざ、こうしてヴァーリスと番に我はなった。我を倒せば番になると我は告げ、ヴァーリスは我に勝利し、我らは番となった。
我はヴァーリスのことをじーっと見る。ヴァーリスは我に見つめられていることを気づいて、嬉しそうに笑みを零す。
我は、ヴァーリスが笑っていてくれて嬉しいと思っている。ヴァーリスの笑みを見て、何だか胸がぽかぽかする気持ちにはなる。それと、初夜を行ってもいい気持ちとは違うのだろうか。うむ、わからん。分からないものはどうしようもない。ひとまず、我は考えることを放棄した。
「ヴァーリス、今は何処に向かっているのだ」
「んー、炭鉱の街と呼ばれてるところ。武器とか陶器とか作るのが盛んな街で、ドワーフが大量にいる街だよ。アーシェナいったことないだろうから連れていこうと思って」
「ふむ、そんな街があるのか」
基本的に街などに降り立たずに過ごしてきた我なので、そのような街にももちろん行ったことがない。そんな会話をヴァーリスとしていたら乗合していたものが「あの街を知らないなんて、どんな田舎から来たんだ」とか言っていた。田舎……まぁ、我は自由気ままに空を飛んでうろうろして街に降り立つこともなく生きていたから田舎暮らしをしていたと言えるのかもしれない。
それにしても武器か。
我の武器は我自身である。人の子の持つような剣など持っていないが、こうして人形で過ごすことが多い今、そういうものを手に入れるのもいいかもしれない。
「ヴァーリス、我も武器手にしたい」
「武器が欲しいの? 街で買う? それともうちにあるの使う?」
「……んー、折角なので買ってみようかの。記念になるし」
魔王城にも武器が多くあるのでそれを使うかと聞かれたが、折角なので買おうと思った。折角のハネムーンなるものに来ているので、沢山の思い出を作りたいと我は思っているのだ。
たった一度のハネムーン。
楽しい思い出をいっぱい作りたいと思うのは当然である。
「俺も買おうかな。お揃いの武器とかにする?」
「それもいいの」
そんな会話を我らがしていれば、「お揃いの武器?」「どういう関係なのだろう?」とか目の前にいる連中がこそこそしていた。聞こえているが、反応する必要もないので反応は示さないが。
それにしてもお揃いの武器の何が悪いのだろうか。何かをお揃いにするのは仲が良い証だと誰かに聞いた気がするのだが。そうなると、お揃いの武器を持っている我とヴァーリスが仲良しだと周りに示すことになるのか。でもまぁ、それも悪くはない。
「ヴァーリスはどんな武器が良いのだ?」
「アーシェナが好きなのでいいよ。アーシェナには何が似合うかな?」
「我は武器は使わないからよくわからん」
「じゃあ、色々使ってみてアーシェナが気に入ったものでやろうか」
「うむ」
腕の良い鍛冶師が多く居るとヴァーリスがいっておったので、折角だから良い腕の者に作ってほしいものである。
ということをヴァーリスに告げれば、ヴァーリスははりきっていた。
「じゃあ、腕の良い鍛冶師を見つけて頼み込まないとね。折角の俺とアーシェナの初のお揃いになるわけだし」
「そうだの」
「腕の良い鍛冶師だと結構気に入った者にしか作らなかったりとかもするだろうけれど、絶対に作ってもらうようにするから」
「……無理強いは良くないと思うが」
「無理強いはしない。俺のことを認めさせればよいもの作ってくれるだろうからさ」
「力を示せば作ってくれるということか?」
「そうそう。簡単でしょ?」
「うむ、わかりやすい」
力を示せば作ってくれる、というのならば思う存分我の力を示して見せよう。そして良い武器を作ってもらうのだ。
そんな会話をしながら、道中は進んだ。




