我と、魔王でハネムーンにでかける。
世の中にははねむーんというものがあるらしい。それは、結婚式を挙げた男女が新婚旅行を行ったりするものらしい。ヴァーリスは結婚式を終えたあと、我と旅行に出かけたいといっておった。人がやるそういう旅行に出かけたいということだったのだ。
我はそういう旅行はあまりしたことがない。我一人でぶらぶらすることはあるけれど、それは本当に我が望むままにうろうろしているだけであるし、誰かと共に行く旅行はいったことがない。人形で旅をすることもなかったし、ヴァーリスとならば楽しいのではないかと思ったのだ。だから我は了承した。ヴァーリスは喜んでいた。我はその笑顔を見て、ちょっと嬉しくなった。
「ヴァーリス、どこにいくのだ?」
「どこにいこうか? アーシェナは何処が良いとかある?」
今、我らはどこにいこうかという話をしている。我としてみれば、正直どこがいいのかというのは我にはさっぱり分からない、ヴァーリスが望んでいる場所でいいと思うのだが、ヴァーリスは我の意見も聞きたいらしい。
「うーん、我は人の街はほとんど降りたことがないから何処でも楽しいだろう」
そういえば、ヴァーリスは魔王として忙しいのだ。我もヴァーリスの仕事の手伝いをしているのだが、結構な量の仕事だと思った。新婚旅行に行くために、仕事の調整をしたりとしてくれているらしい。ヴァーリスの側近たちは、慌ただしく新婚旅行に行きたいというヴァーリスの願いを叶えるために調整してくれているらしい。うむ、我のヴァーリスはとても慕われているのだな。一匹で生きてきた我とは違い、とても慕われている。うむ、そんな風に人の上に立ち、慕われているヴァーリスの番が、ずっと一人で生きてきて、とくに協調性の何もない我というのもなんか不思議な気分になる。
「そっか。俺はアーシェナとならどこでも幸せだしなぁ」
「なにをこっぱずかしいことを……」
「あ、照れてる! アーシェナ、可愛いね」
そういえば、我とヴァーリスは、まだ番同士の営みとはいうのはしていない。ヴァーリスがちゃんと段階を踏みたいといったからである。我としてみればそんなものさっさとしてしまえばいいと思うのだが、ヴァーリスはちゃんとむぅどなるものを感じながら、ちゃんとしたものにしたいらしい。恥ずかしい話だが、我は今まで番がいなかったのもあり、そういうことの経験はない。そのこともあってヴァーリスはきちんとした思い出にしたいらしい。愛い奴よの。新婚旅行なるものでは、男女の営みをするのではなかろうか。
「我は何処でもよいので、ヴァーリスがその新婚旅行先は決めるが良い」
「うんうん、アーシェナが楽しめるような場所を探すよ」
「楽しみにしておる」
我がそういえば、「頑張ってさがすね!」と笑ったヴァーリスに口づけされた。ヴァーリスは我と口づけをするのが好きらしい。……我も、嫌いではない。
それから一週間後、我とヴァーリスはハネムーンなるものにでかけることになったのだが、飛竜で移動する予定だというのを事前に聞いた我は……「いや、我がいっそのこと飛ぶ。他の竜にのって移動など、竜として嫌である」といってしまった。いや、だって我だって飛べるし。そもそも我がいるのだから番のヴァーリスが他の竜に乗るというのもなんか嫌である。
というのを告げたら、
「じゃあアーシェナが俺を乗せてくれるの?」
とキラキラした目で言われた。
我がそれに頷けば、ヴァーリスは喜んでいた。そして飛竜便なるものをキャンセルしていた。それにしても、確かに竜種の中には、人を乗せることで金銭を得ているものがいることは知っていたが……誰でも乗せるなどと、何とも言えない気分になる。我は誰でも乗せたくない。というか、我の背に乗ったことがあるものは現状いない。ヴァーリスが初となるだろう。そう思うと本当にヴァーリスと出会ってから初めてのことばかりだ。この年になってこうして初めてのことを沢山経験していけるなんて我は思ってもいなかった。
「ヴァーリス、我の背に乗れるのはヴァーリスだけだ。我は、人を乗せるのは好かん」
「アーシェナ!!」
また抱きつかれた。本当にヴァーリスは我を抱きかかえるのが好きだ。我の小さな人形の体はすっぽりとヴァーリスの腕の中に納まる。うむ、居心地は悪くはない。
「嬉しいよ、アーシェナ。アーシェナの背に乗って新婚旅行とか凄くいい。アーシェナ、大好き。可愛い。最高の奥さん」
「……ほめ過ぎである」
ああ、もう口を開けば可愛いとか、大好きとか、本当にヴァーリスはまっすぐに我に思いを告げてくる。その真っ直ぐな言葉が、心地よく感じてならない。
「アーシェナの背に乗れるのが俺だけとか、凄いいい。俺だけ特別って感じで」
「……番なのだから、他とは違って特別なのは当然であろう」
その当たり前の事実がヴァーリスは嬉しくてたまらないらしく、また抱きしめる力が強くなった。
それから、我は竜体に戻った。竜の姿に戻った我のことも、ヴァーリスはキラキラした目で見る。人の姿の我も、竜の姿の我も好きだと、ヴァーリスは笑う。
ヴァーリスが我の背に乗ったのを確認して、我とヴァーリスは新婚旅行へと出かけるのだった。




