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Ice ~ 僕はつめたくありません。  作者: 白金 ろろ
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プロローグ


自室の座椅子に背中を預け彼、(すず)鹿() ( )(しん)は、1人で旅行へ行こうと計画を立てていた。


在学中に無事内定先が決まり、もうすぐ上京することになる。自由に使える時間は限られてきていた。

社会人になると旅行などに行きにくいイメージがあったし。有給休暇は1年目でとっていいものなのだろうか、まぁ人の目を気にする僕からすると何かあったとき以外では、申し訳なくて言い出せる気がしない。

それに、上京するまで特にすることも...あったな。

「ビジネスマナーの勉強...」

会社からの課題があったが、今は考えないことにした。




どこへ行こうかと考え、部屋をを見回す。

充電コードが挿しっ放しになっているスマートフォンを手に取った。


なにか困ったことがあればすぐにGoo〇le様に尋ねればいい、便利だな本当に。

心の中でGoo〇le様に頭を下げ、こうべを垂れつつ検索欄にキーワードを打ち込み、適当なサイトを開く。


各地の名所をサラサラ流しながら見ていると、ふと「雪景色」という単語が目に入った。


僕が住んでいる地域で雪は身近ではない。

雪が降ることはあるものの、滅多に積もったりはしないので、見る機会はほぼなかった。


小さなころ、珍しく雪が何cmか積もったときに、友達と雪をかき集め雪合戦もどきをしたことがある。

途中、少ししかない雪をかき集めるのが面倒になり、最終的には泥だんごを投げ合っているような感じだったな...。


過去の思い出に耽りながらスマートフォンの画面をなぞる。


僕は直感的な人間だと自分では思っている。服なんかもピンとくれば迷わずに買うことが多い。

そう、簡単に決断できる。簡単に。


だから今回も迷わなかった。

大自然を肌で感じられるという謳い文句の、雪景色が綺麗に見える露天風呂のある温泉宿。

それに僕は人込みがあまり好きではないし、ちょうどいいだろう。

ポチポチと画面をタップしすんなりと予定を決めていく。新幹線のチケットを取り宿の予約を済ませた。


飛行機で行かず新幹線にしたのは、ただの気まぐれだった。




* * * * *



結論から言えば、来てよかった。あの謳い文句は伊達ではなかったな。


露天風呂からの景色を堪能した後、真は今、展望台へ向かって山道を歩いていた。

山道といってもコンクリートでしっかり舗装されていて道幅もあるタイプの方だ、街灯もポツポツ立っている。

たまに山道を下ってくる車ともすれ違った。展望台から下りてきた観光客だろう。

すれ違いざまに車内から視線を感じる。まだ夜遅くはないが辺りは真っ暗で、しかも寒い、当然雪も降っているし誰も歩いて向かおうとは思わないだろう。

そんな中、道路の脇を歩いている人影があったら、確認しようと見てしまうのも無理はない。

「...幽霊みたいだな」

フッと自虐的に鼻で笑いながら、真は呟いた。



結構上の方まで来ているのだろう、ガードレール越しに見下ろすと温泉街の明かりが見える。

まだ展望台へ着いていないがそろそろ引き返してもいいかもしれない。結構な時間歩いたし。

ぼーっと歩きながらカーブに入る。曲がったらどうせ坂だろう、坂だったら帰ろう。そう心に決めた。

カーブを曲がり切り、坂道か確認しようと顔を上げると真は何かの気配を感じた。


数メートル先に車体があった。目が慣れていたからか鮮明に見える。

排気音も聞こえてたかもしれないが全く意識していなかった。


当たり前だ、真は車にはライトがついているものだと認識していたのだから。

こんなとこでライトをつけていない車などあるはずないと。

人間は良くも悪くも思い込みに左右される局面があるだろう。今回の場合は運も悪かっただろうが...。


「こんなとこで無点灯とか頭おかしいだろっ!!」

珍しく声を荒げながら、とにかく衝突を避けようとボンネットに乗り上げ勢いを殺そうとする。

衝突を避けることはできたがそれでも乗り上げた勢いでそのまま車から落下する。

受け身を取ろうとしたが、地面にぶつかることはなかった。


自分が落下していると理解した瞬間、真は意識を失ったーーー




* * * * *




痛すぎる、まだほんの少し動けるがこのままだと凍死するだろう。


そういえばあの車はなにか理由があったのか。

ライトが壊れた、ブレーキが壊れた、ガソリンがなくなった、運転手が急死した...?。


ああ、こんな性格だから損をするのか。

なぜ人を気遣うことが悪なんだ。善人だとおもわれようとすることが悪いことなのか?

もうわからない。


悪人だったら悩まないのだろうか。

人の気持ちなんて考えてたらキリがない。わかっているけれど。

自分のことなら簡単に決断できる。でも他人が絡むとさっぱりダメだった。




「もっと冷たいやつだったらよかった...」

朦朧とする意識の中でーー



微かに揺れる()(のち)の明かりは消えることなくそのまま凍り付いた。

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