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泥棒つかまえました

直哉が陸上部マネージャーの相内と部活に行くのを見送ってから昇降口に行くと、そこには怪しい影があった。

俺の下駄箱を覗いてそわそわする人影。

どうする俺。

逃げるか逃げるか、声をかけるか逃げるか。

ほとんど逃げる一択じゃねえか、ヘタレか俺は。

とはいえ関わりたくない。

だというのにその人影はあっさりと俺を見つけた。

「あ、笹井君」

「人違いです」

全力ダッシュで逃げる俺。

同じ速度で追いすがる嘉木。

なんだってこいつはそんなに俺にかまうんだ。

放っておいてくれよ! 謝ったし謝罪も聞いてやったろうがよ!


「ちょ、ま、む、り」

情けないことに先に根を上げたのは俺だった。

インドア高校生舐めんなよ。俺の体力のなさはガチだぞ。

「話、聞いてくれる気になった?」

「な、ならねえ、よ」

「どんだけ息切れてるの」

嘉木は呆れたように眉間にしわを寄せる。

ていうかなんでこいつは息ひとつ乱してないんだよ。

「わたしは中学の時に陸上やってたから体力はあるんだ」

「そうかよ」

「こんなところで立ち話もなんだから移動しよう」

そう言って嘉木は歩き出した。方向的には近くの児童公園にでも行くのだろう。

俺の予感は大当たりで、児童公園に着くと、嘉木はベンチに俺を座らせどこかへ消えた。

しばらくすると戻って来て手には炭酸飲料を二つ持っている。

「どっちがいい?」

「どっちもいらねえ」

「毒とか入ってないよ」

「息が切れまくってるときに炭酸とか鬼だろ」

「そう? 全然いけると思うけど」

そう言って嘉木は俺に片方押し付けると、もう片方をぐいっと一気飲みする。

まあ、そういう炭酸に強い人種なんだろう。

今更突っ返すのもなんなのでもらった炭酸飲料を開ける。

ちまちま飲んでいると嘉木がぽつぽつと話し出した。

「さっきも言ったけどさ、わたし中学のころ陸上やってたのね。

結構本気でやってて部活とかじゃなくて実業団みたいなところに混ぜてもらってたわけ」

なんかもうこれだけで話が見えてきて続きを聞くのが嫌になった。

しかしここで逃げてもまた追いかけてくるだろうし、その結果は見えているので逃げるのも馬鹿らしい。

「そこで笹井祥子さんに会ってさ。いい人だよね。優しいしかわいいし。でもわたしは祥子さん嫌いだった」

「ほう」

てっきり姉をほめたたえまくった挙句に故障した話に落ち着くのかと思ったけどそうでもないのか。

ちょっと聞く気になった。

「だってそうじゃん。涼しい顔でどんどん成績伸ばして、当たり前みたいな顔で誰にでも親切にして、そんなんだから誰からも好かれて。

わたしとは正反対だ。

だから、ちょっと嫌がらせしようとしたんだ。

スパイクの裏にガムでもつけちゃえって思ったのね。

でもできなかった。それをやろうとしてロッカー室に行ったら先に祥子さんがいてさ。

笑顔で言われたんだ。

『ガムくらいでなにか変わると思う?』って。

そしたらもうダメだよね」

あーー、なんか姉貴なら言いそう。

誰からも好かれる反面、一部からはすげえ嫌われるから、俺とは違った意味で嫌がらせ慣れしてるんだよな。

俺はそれから逃げたけど姉貴は違う。

真正面から受け止めて見下すんだ。

我が姉ながら本当に性格悪いよな。

「なんつーか、姉がすまなかった」

「笹井君はなにも悪くないでしょ。で、笹井君に声をかけた理由なんだけど、祥子さんの弟なら同じ気持ちを味わったことあるかなって思ったんだよね」

「へえ」

「ない? どうしようもく恵まれた才能に嫉妬したけど、歯牙にもかけられない感じ」

「あるよ」

「やっぱり」

「でも、それをどうしたいんだ。傷でもなめ合いたいか?」

そんなことしてなんになるよ。

余計にむなしくなるだけじゃねえのかそれは。

「まさか。わたしと同レベルにかわいそうだなって思って安心したいだけ」

わあ、思ってたより屑いぞこいつ。

傷をなめ合うより余程残念だし下等だし。

気持ちはわからなくもないが、口に出しちゃう辺りがますます残念だ。

「そういうわけでありがとう。わたしの劣等感をかすかに癒してくれて」

「癒されたのか」

「多少ね」

それはたぶん嘘だろう。

いや、本人にはそう見えているかもしれないが、それが癒しであるはずがない。

ただちょっとばかり薄く見えただけだ。

しかし俺がそれを嘉木に教えてやる義理はない。

嘉木もそんな説教じみた話を聞く気はないらしく、鞄を持ち上げると「じゃあまたね」と去っていった。

ふざけんなっつうの。またなんかねえよ。


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