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きゅんって音がするらしいです

「そういえばなんで寿直って放課後に教室で宿題してるの?」

HRが終わった放課後。

教室を出ていこうとしていたけいすけが振り返った。

「家だと落ち着いてできないからかな」

「ふうん」

どうでもいいような顔をしてけいすけは出ていった。

まあ、そりゃ不思議かもね。

遊びたい盛りの高校生がわざわざ放課後の教室で宿題なんてさ。

せめて図書室とかだったらまだわかるんだろうけど。

でも教室がいいんだ。

だってほら、あの子が嫌そうな顔でこっちにくるから。

「今日の宿題」

「はいはい、お願いします」

仏頂面のいいんちょうは朝からさっきまでの全授業の宿題の範囲を教えてくれる。

それをメモしてみせると彼女は視線だけでうなづいて出ていった。

まったくもって不愛想だよね。

もうちょっとおれに対してかわいくしてくれてもいいと思うんだけど。

それからおれはそのメモに従って黙々と宿題をこなす。

今日は量が少ないからすぐに終わるな。いいんちょうが戻ってくるまで時間が空いちゃうかも。


そもそもなんでこんなことをしてるんだっけか。

放課後になったらいいんちょうに宿題の範囲を教えてもらう。

おれが宿題をこなす。

いいんちょうがそれを写す。

そういう謎の関係。

ていうかいいんちょうになるくらい真面目なんだから自分でやればいいのにね。

そう言ったこともあるけど、答えはそっけないものだった。

「宿題までやってたら自尊心が傷つく」

だったっけ。

まったくもう全然意味わかんないんだけど。

宿題やったくらいで傷つく自尊心ってなに。

それなら毎日せっせと宿題してるおれの自尊心はどうなるの。

それについては、

「新崎君は授業中寝てるし、人間関係にも問題ないから大丈夫」

とのことで。

なんだろーか。やっぱりよくわかんないんですけどーー?

それでもおれが毎日いいんちょうに付き合っているのはささやかな、ほんっとうにしょうもない理由があるからで。


なんてぼんやり考えていたら、教室のドアがガラッと開いていいんちょうが戻ってきた。

「おかえり、いいんちょう」

「ただいま」

「宿題どうぞ」

「ありがとう」

宿題を終わらせたノートを彼女に渡すと、相変わらずの微妙な顔で受け取ってくれた。

いつもあまりに嫌そうな顔だから、そのうち受け取らなくなるんじゃないかとドキドキしてたりもする。

「新崎君さあ」

「うん?」

「律儀なの? 馬鹿なの?」

「馬鹿なんだと思う」

いいんちょうはおれに対して言葉が足りていない。

今聞きたかったのは、毎日毎日欠かさずに宿題をいいんちょうに提出するなんて律儀なの? 馬鹿真面目なの? と聞きたかったんだと思われる。

その答えはやっぱり馬鹿だからだ。

別におれは律儀でも優しくも真面目でもいい人でもない。

ただ、馬鹿だから。

「恋するときゅんって音がするらしいんだよ」

「なにをいきなり」

「まあ聞いてよ。2年になって最初にいいんちょうが教室に入ってきたときさ、きゅんって音がしたんだよ」

「告白?」

「そこまでじゃない。けど放課後にいいんちょうが宿題を写しに教室に入ってくると毎回きゅんって音がするんだよね。

その音を聞きたいがためにおれはこうして毎日毎日飽きもせずに宿題をしてる。

ね、馬鹿でしょ」

そう言ってへらっと笑ってみせたら、いいんちょうは無表情で「本当に馬鹿だね」と言った。

それが恋なのかどうかはわからないし、そうだったとしてもきっといいんちょうはおれのことなんとも思わないっていうか、むしろ宿題してくれる都合いいやつくらいにしか思ってない、

だとしても聞きたいと思うくらいにはいい音なんだよね。

「いいんちょうはそういう音を聞いたことある?」

「きゅんって?」

「そう」

「……どうだろう」

「言いたくないならいいよ」

ただの興味本位だから。

あーー、でも。一個だけ言ってもいいかなあ。

「もし今後そういう音が聞こえたとしても、けいすけとなおやはやめときなね?」

「なんで」

「あいつらと友達やめたくないから」

「やっぱり私のこと好きなんじゃない」

「まだ違うって」

いいんちょうは呆れたような顔で宿題に戻った。

こういうのを脈なしっていうんだろーか。

まあいいんだ。今、おれが楽しいから。


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