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後編


 ちょっと待ってはくれなかった。

「できた」

 ものの五分でホタルは準備万端だと告げた。天才と謳われるだけのことはある。

 いやいや、天才にもほどがある。

「おれ、まだ、世界政府に返信もしていないんだよ?」

「それなら先ほどわたしがやっておきました」

「油断も隙も無いっ」

「では、ご依頼のあった軍事衛星をすべてセットして、いざカウントダウン」

 小癪とコインが楽しげに数え始める。三、二、一。

「ぽち」ホタルが起動装置ボタンを押した。

 その瞬間だ。

 制御モニターからも部内モニターからも地球をぐるりと取り巻くように花火が弾けるのが見えた。まん丸く開いた何重もの花火もある。芯からヤシの葉のように伸びていく花火もあった。

「おおお」

 小癪とコインが頬を染めてモニターに見入る。無数のフラッシュのように銀色の千輪花火が小さく花開いている。不覚にもモジャモジャ頭の営業部員も見入ったほどだ。

「ん」

 モジャモジャ頭の営業部員はホタルに顔を向ける。

 ホタルは無表情で白衣のポケットに両手を入れていた。

 なんだ? 意味深な。

 そう訝しんだのが遅かった。自分を罵りたくなる。ホタルは技術開発部の中でも新作アイテム製造係の係長ではないか。

 何もしないわけがない。

「おおお?」

 小癪とコインが怪しげな声を出し始めた。

「おおお……」

 小癪とコインは声を鎮めてホタルを見た。モジャモジャ頭の営業部員はすでに頭を抱えていた。

 青かった地球はどういうわけか橙色になっていた。

 あたかも火星のごとく。




「どうしてくれるんですかっ。地球の大気構造が変わっちゃったじゃないですか。冗談じゃないですよ」

「まあまあ落ち着いてくださいモジャ毛さん。大丈夫です。むしろ環境的には状況は好転しているくらいですよ?」

「どこがだ」

「わたしが察するところによると、あの橙色の成分は大気汚染の原因のノックスと結合して、えっと、大気がきれいになるんですよ」

「ノックスって窒素酸化物の? 本当ですか? ホタルさん」

「ああ」

 それならいいかと思いかけて、モジャモジャ頭の営業部員は恐る恐る尋ねた。

「で。それって収まるのはいつですか」

「百年後」

「え」とモジャモジャ頭の営業部員と小癪とコインは揃ってホタルの顔を見た。ホタルは何が問題だという顔つきをしている。

 そのときだ。

 管理営業部の外から「モジャ毛ー」と碓氷部長の声がした。

「ヤバい」「ヤバいですね」「ホタルさん、早くなんとかしてください」

「どうしてもか」

「どうしてもですっ」三人は声を揃えた。

「あ、でもその前に」とコインがホタルに揉み手をする。

「営業を兼ねてお願いが。格安で」

 ホタルはふうむと鼻を鳴らした。「止めて」とモジャモジャ頭の営業部員が手を伸ばしたときには遅かった。

「わかった」とホタルはうなずいてあっという間に作業は終了した。




「で、ああなったと」

「はい」

「ワタシの指示を待たずにやっちゃったと」

「申し訳ありませんっ」

 モジャモジャ頭の営業部員は碓氷部長に土下座する。

「小癪とホタルとコインは?」

「逃げました」

「ほほう」と碓氷部長の目が吊り上がる。ひい、とモジャモジャ頭の営業部員は身を縮ませた。

「あいつらはまかせろ。モジャ毛はいいからアレを取れ」

 管理営業課は電話にファックス、メール着信音であふれていた。

 あわわ、とモジャモジャ頭の営業部員は受話器を取る。社員の罵声電話から仕事依頼の電話まで、数日間着信音は止まることがなかった。

 何がいけなかったのか。

 世界政府からのファックスか?

「たそがれるな。働けモジャ毛」

 碓氷部長が投げつけた三角定規をかわしつつ、モジャモジャ頭の営業部員はモニターの地球を見た。

 地球の大気には大きな橙色の雲が千切れることなく北半球の偏西風帯をたゆたっていた。

 橙色の雲の形は会社のロゴマーク『RWM』。

 社員の間でこの事件は『スペースデブリ撲滅キャンペーンの悲劇』として長く語り継がれることとなる。




(おわり)


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