6/12
第6章 書かないこと
奈緒はある日、カフェにいた。
由香が扉を開けると、奈緒が窓際に座っていた。
「すみません」
「どうしたの」
「場所、岸本さんに聞いて」
由香は向かいに座る。
片桐がコーヒーを置く。
奈緒が店内を見る。
「静かですね」
「うん」
奈緒はノートを見る。
「それ、毎日書いてるんですか」
「うん」
「何を」
「光」
奈緒は少し黙る。
「なんでですか」
由香は窓を見る。
「忘れないように」
「何を」
「今日」
奈緒は少し考える。
「じゃあ、人は書かないんですか」
由香はすぐ答える。
「書かない」
「どうして」
由香はノートを閉じる。
「人は変わるから」
奈緒は首をかしげる。
「光も変わるじゃないですか」
由香は少し笑う。
「人は、わかんないから」
奈緒は黙る。
窓の外を人が通る。
奈緒が言う。
「でも、書けばいいのに」
由香は何も答えない。
書けば残る。残りすぎることもある。
光は消える。人は消えない。だから書かない。
由香はそう思っていた。




