3/12
第3章 はじめての大阪
最初に住んだ部屋はもっと狭かった。窓の外には隣の建物の壁しかなかった。
朝でも暗い。光が入らない。その部屋で、由香は何度も目を覚ました。
朝なのか、昼なのか、一瞬わからない。冷蔵庫の音だけがする。
引っ越してきたばかりのころ、由香は町を歩くのが少し怖かった。
知らない町だからではない。行き先がないことが怖かった。
どこへ行くのか。どこまでが自分の町になるのか。誰も教えてくれない。
ある朝、歩道橋の上で立ち止まった。
白い光。電車の音。
ノートを取り出し、初めて書いた。
6:51 初めての大阪
その一行で、朝が少しだけ自分のものになった気がした。




