第六十九話:修羅の食卓! 故郷の味は「数値1億」を超えた先にあるのか
魔王を倒し、神の権限さえも一部手に入れた姉妹。 しかし、そんな最強の二人が今、かつてない壁にぶち当たっていました。
「……お姉様。私、どうしても『あの味』が忘れられませんの」
リナ様が、遠い目をしながら呟きました。 それは前世、騎士団の食堂で皆と笑いながら食べた、素朴な「王都風ハーブチキン」。
「分かるわ、リナ。この世界の肉は……レベル9999の猛獣肉ばかり。 一口食べるごとに、胃の中で魔力が爆発して、味どころじゃないものね」
(……確かに。昨日の夕食のドラゴンステーキも、 フォークを刺した瞬間に『断末魔の咆哮(物理衝撃)』を放っていましたからね)
姉妹は決意しました。 「今日こそ、あの懐かしい、普通の、平和な味を再現するわよ!」
二人は早速、修羅の街の市場へ。 しかし、そこには「普通」などという概念は存在しません。
食材探し: 「普通の鶏肉はないかしら?」と尋ねるアイリス様。 店主(レベル9995)が出してきたのは、「極光のフェニックス」のモモ肉。 「嬢ちゃん、これなら焼いても再生するから、無限に食べられるぜ!」 (アイリス:……それ、食べるたびに口の中で火炎放射されるわよね?)
調味料探し: 「爽やかなハーブが欲しいですわ」と言うリナ様。 渡されたのは、「世界樹の若芽(激レア)」。 「これ一葉で、知能指数が300上がる代わりに、3日間眠れなくなるぞ!」 (リナ:……今は知能より、爽快感が欲しいのですけれど)
「……ダメね、リナ。素材が強すぎて、料理が『格闘』にしかならないわ」
アイリス様が、暴れるフェニックスの肉を聖光で無理やり押さえつけながら嘆きます。
(お二人とも、お任せください。 私が吸収した神の権限の一部を使い、 素材の『攻撃性』を強制的にデバッグして、肉質を『普通』に書き換えます!)
私は全身から浄化の光を放ち、凶暴な食材たちを優しく包み込みました。 すると、どうでしょう。 火を吹いていた肉はしっとりとした鶏肉へ、劇物だったハーブは芳醇な香草へと変わっていきます。
「すごいわ、タナカ! あなた、洗濯だけじゃなくて『下ごしらえ』まで完璧なのね!」
「流石は私の伴侶……。いえ、私たちの至高の装備ですわ!」
こうして、修羅の世界のど真ん中で、奇跡的に「普通のハーブチキン」が完成しました。
一口食べた瞬間、姉妹の目から涙がこぼれます。 数値1億。神に等しい力を得ても、彼女たちの心を満たすのは、 タナカが守り、作り出した、温かな「日常の味」だったのでした。
あとがき 聖騎士 アイリス・ライト
……おいしい。 本当に、ただのチキンの味がするわ。 修羅の世界に来てから、ずっと「戦い」の味ばかりだったけれど、 タナカのおかげで、自分が人間だったことを思い出せた気がする。
リナ、これ……次はレオンハルトお兄様やアメリア様にも食べさせてあげたいわね。 あの人たちも、今頃なにしてるのかしらね。
(タナカ:……ええ、お二人ならきっと泣いて喜ぶはずです!)
あとがき 観測者 ナルミ
ひゃーっはっは!! 神の権限を使って「肉のレベルを下げる」なんて、 姉貴が見たら腰を抜かすような贅沢な使い方だね!
でも、そのおかげでアイリスさんたちの「精神数値」が、 かつてないほど穏やかに、かつ強固に安定したよ。 結局、最強のパワーアップっていうのは、 こういう「安心感」から生まれるものなのかもねー。
タナカ君、次はデザートに「神界のイチゴ」を 「普通の甘さ」に調整するミッション、期待してるよ!




