第五十三話:爆上がり! 修羅の姉妹、キャラ崩壊からの「スンッ」
目の前で、レベル9999のウサギが鼻歌まじりに岩山を粉砕しています。
普通なら絶望して泡を吹いて倒れる場面。 しかし、アイリス様とリナ様の様子が……完全におかしくなりました。
「……ねえ、リナ。聞いた? ここ、レベル9999が『普通』なんですって。 つまり、鍛えればレベル1億とかも夢じゃないってことよね!?」
アイリス様の瞳が、見たこともないギラついた狂気で輝いています。
「お姉様……最高です。 前の世界ではもう、私たちが強すぎて『やり込み要素』が皆無でしたから。 ここは天国、いえ、最高の育成ゲーム会場ですわ!!」
リナ様が、普段のクールさをゴミ箱へ投げ捨て、 ガッツポーズをしながら絶叫しました。
「「ヒョォォォーーー!! テンション上がってきたわぁぁ!!」」
二人は突然、ハイタッチを交わし、 狂ったように謎のダンスを踊り始めました。
「見てなさいよウサギ! アンタを倒して、私はレベル100万の『絶対聖光・極』を手に入れる! そしてタナカを一生、誰にも指一本触れさせない!!」
「私はレベル1000万の『全時空予見』を習得しますわ! タナカさんの未来を1秒残さず私で埋め尽くすためです! うっひょぉぉ!! 滾る、滾りますわぁぁ!!」
アイリス様は鼻血を出しそうな勢いで笑い、 リナ様は奇声を上げながら猛烈なシャドーボクシングをしています。
……完全にキャラ崩壊です。 最強への渇望とタナカ愛が混ざり合い、脳内のリミッターが消し飛んだようです。
(……誰ですか、この人たち。 私の知っている凛としたアイリス様と、冷静なリナ様を返してください!)
その時。
ドォォォォォォォン!!!
先ほどのウサギが、二人の奇声にイラついたのか、 軽く後ろ足で地面を蹴りました。
それだけで、二人のすぐ横に直径5キロほどの巨大なクレーターが出現。 衝撃波で二人の髪が激しく逆立ち、土砂が弾丸のような速度で降り注ぎます。
「…………。」
「…………。」
次の瞬間。 二人は一瞬で、元の無表情に戻りました。
「……お姉様。今の衝撃波、私の予見によれば、レベル1の私たちなら細胞レベルで消滅していてもおかしくありませんでした」
「ええ、リナ。私も死を覚悟したわ。 ……でも、どういうことかしら。 なぜか、痛くも痒くもないのだけれど」
アイリス様が自分の身体を不思議そうにペタペタと触ります。
直撃したはずの風圧も、降り注いだ岩の破片も、 彼女たちの肌に触れた瞬間に**「ふにゃん」**と無力化されていました。
もちろん、女神が私に付与した**「衝撃吸収100%」**のデバッグ機能のおかげです。 ですが、彼女たちはそんなこと微塵も知りません。
「……まさか、リナ。 私たちはレベル1にリセットされても、存在そのものが最強すぎて、 この世界の理が通用しないということ?」
「その可能性が高いですわ。 さすがはライト姉妹。 レベル1でもレベル9999の攻撃を無効化するなんて、才能が恐ろしいわ……!」
(いや、違います。私の、私のデバッグ機能のおかげですってば!)
真実に気づかず、自分たちの凄まじさに酔いしれ始めた姉妹。 冷徹な「最強の狩人」の目に戻った二人が、 私をぎりぎりと締め付けながら、ウサギへ歩み寄ります。
「スンッとしたけれど、無敵なら話は別よ。 行きましょう、リナ。まずはあのウサギを……素手でわからせてあげるわ」
「ええ、お姉様。タナカさんの目の前で、不様な姿は見せられませんから」
(……嫌な予感しかしません! 私の衝撃吸収には「限度」があるかもしれないんですよ!?)
タナカの心の叫びも届かず、 勘違いで無敵モードに入った姉妹の、無茶苦茶な初陣が始まりました。
あとがき
魂の伴侶 アイリス・ライト
少し取り乱しました。アイリス・ライトです。
レベル1からやり直すと聞いた時はどうなることかと思いましたが、 どうやらライト家の血筋は、世界の理さえも凌駕していたようです。
レベル9999の攻撃を受けて、微風ほども感じないとは……。 自分でも自分の才能が恐ろしいですね。
……え? さっきのダンス? 何のことかしら。 私は常に、聖騎士として、タナカの伴侶として、凛としています。
リナ、あなたもその奇妙なシャドーボクシングはやめなさい。 ……あ、ウサギがこっちを見ました。
さあ、行きましょう。 タナカ、私のこの「最強の肉体」を、特等席で見ていなさい。 レベル1の私が、伝説を作ってあげるわ。
(スンッ)
さあ、狩りの時間よ。




