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八話「文化祭の幕引き」

午前11時45分。

黒木がお客さんの相手をしている間、清水はパニックを抑え込み思考を巡らせていた。

手元にはフライヤー、余った食材、そして基本的な調味料しかない。


「ほぼ振り出し状態ね…得意なメニューから派生するしかない…か」


清水は頭の中で自身のレパートリーを羅列する。


(和食は仕込みに時間がかかりそうね…)


(ブラウンシチュー、ラザニア、リゾット、パエリア、あとは中華系なら比較的早めに作れるかしら)


思いついた選択肢をホワイトボードに書き出す。


・・・


「ありがとうございました。差し支えなければなぜうちのブースに来られたのか教えていただけませんか?」


黒木は牛すじコロッケセットを手渡しながら、お客さんに声をかけ続ける。

「なんとなく人が並んでたから」「おいしそうだったから」「SNSで見たから」

曖昧な回答が並ぶが、店頭での簡単な質問では掘り下げができない。


だが、確信をもってウチを選んだお客さんの意見を吸い上げると、ある程度共通した回答があることに気が付く。

・本格的な料理であること

・それを手軽に味わえること

という、牛すじコロッケのコンセプトそのものが成功要因だったということだ。


(手に収まる形状というのは変えずに、本格的なメニュー…か。本格的ってのはまた曖昧な意見だが…清水さんを信じるしかない)


黒木は急いでバックヤードに顔を出す。


「黒木君、何か分かった?」


清水が訪ねる。


「お客さんが求めているのは、本格的な味と手軽さのハイレベルな両立だ。曖昧な情報だが…行けるか…?」


清水は黒木のフィードバックを受け、羅列したレパートリーを見直す。


「やっぱりコロッケみたいな形状は正解ね」


手のひらに収まる程度の形状にアレンジ可能か?で選択肢を考え直す。


「ブラウンシチューは中華まんに入れられる…かしら。ラザニア、パエリア、リゾットあたりもコロッケにできそうね。中華系だったら春巻きってところね。どれも何とか出来てしまうけれど…」


清水の瞳は一点に集中する。


「本格的…か。手間がかかる?特別感があるってイメージの方が近いわね」


「シチューの中華まんは特別感があるけれど蒸し器が用意できないな」


「そうね。そこから考えると…パエリアしかない。パエリアのライスコロッケね」


「パエリアか…パエリアなら見た目の鮮やかさや、ムール貝という食材の特別感がある。

午後からは一般客も多く参加するし、大人向けのメニューでも問題ないだろう」


「よし、決まりね。ムール貝を包んだパエリアのライスコロッケよ。今から食材のメモを渡すから二手に分かれて買いに行くわよ」


時間は12時15分。


昼休みまで残り15分だが


昼休みの間の体育館の特設ステージに人が集まるおかげで客足は遠のいている。


ブースには「新メニュー準備中」の張り紙を掲げ材料調達に取り掛かった。



・・・



13時15分


約一時間の調達時間がかかったが、二人の役割分担は完璧だった。

スーパーなどで身近に手に入る食材は清水が調達し、早めに調理に取り掛かる。

ムール貝など特別な食材は黒木が鮮魚店へ走り、何とか調達した。


調理場では清水が驚異的な集中力で作業を進める。


「(僕の役割はここまでか…)」


午前中の残りの牛すじコロッケの販売に移り、時間を繋ぐ。



・・・



13時45分

昼休み明けから30分遅れ、新メニューの販売を開始する。


「なんとか間に合ったか…」


新メニュー"特性パエリアのライスコロッケセット"の告知がお客さんの好奇心を刺激する。


「え、パエリア!?コロッケになってるの?」

「午前中買いそびれたんだけど、こっちも美味しそうじゃない?」


お客さんの反応は上々。


午前中に購入できなかった人に加え、午前中にコロッケを食べた人も新たな味を求めて並び始めた。


新しいメニューも大盛況となり、売上は急加速した。



・・・



午後5時、文化祭終了時刻。


黒木と清水は片づけを終えた調理場で静かに売り上げを計算した。


最終的な売り上げは、目標の30万円をはるかに上回る50万円。

控えめに言って大成功だった。


「やったわね、黒木君!」


清水は夕暮れと熱気で顔を紅潮させながらも、満面の笑みを浮かべた。


黒木は静かに椅子に腰かけ、ふうっと一息つく。


途中の予期せぬトラブルもあったが、慣れない客商売で正直かなり疲れた。


だが、一番頑張った功労者に一言声をかけなければならない。


「ああ…大成功だ。君のおかげだよ」


二人は、静かな中で深い達成感と倦怠感を共有し、文化祭の売り上げ100万円プロジェクトは幕を閉じた。

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