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七話「予測不能」

文化祭当日。午前10時、会場と同時に経済同好会のブースは行列ができ始めていた。


人脈も交友関係もない僕たちのブースにここまで人が集まっているのは、生徒会とのコネクションを活用したSNSの宣伝による効果だろう。


事前に生徒会と文化祭実行委員の数名に試食をしてもらった。


それぞれイソスタやバツッターに写真と口コミをアップしてくれたおかげで評判が広がっているはずだ。


事前の評判も相まって、特製牛すじコロッケセットは飛ぶように売れた。


黒木は接客を済ませつつ、携帯端末で売り上げ状況を確認する。


(このペースなら午前中だけで目標の半分、いや、六割は達成できるな。この売れ行きは予想以上だ)


・・・


午前11時半、目標売上30万円に対し、約20万円を突破した。


「清水さん、売れ行きが予想以上だ。そろそろ次の発注をかけないと間に合わなくなる」


少し手が空いた清水さんの様子を見て、僕は口をはさむ。


「ええ…今ある資材分は調理が済んだから…あれ?」


清水さんは携帯の通知を見逃していたようで


「ごめんなさい」


すぐに電話をかけなおす。


「…はい、先ほど出られなくてすみません、清水です。…はい。…えぇ。えっ??」


清水は焦った様子で応答し、少したってから通話を切る。


「…大丈夫か?」


「ごめんなさい、肉屋さんから連絡があって。追加の牛すじは売れないらしいの」


「…元々話はつけていたんじゃなかったのか?」


「ええ…話はつけていたのだけれど…お得意先のホテルからステーキの大量発注が入っちゃったらしいの」


「ステーキ?牛すじと何か関係があるのか?」


「…そうね、説明してなかったけれど。そもそも牛すじなんて部位はないのよ、お肉のトリミングした余りを牛すじと言っているの」


「で、このお肉屋さんは、ある日若い店員さんに高いお肉のトリミングの練習をさせていた時に、普段より余分に肉が付いた牛すじを売ったところ評判だったそうなの」


「そこからお得意のお客さんには肉屋のプライドを捨てて提供してくれるようになったそうよ」


「…さっき言っていたステーキの発注ってのはその余分にとった肉ってのを許してくれないと…そういうことだな?」


「えぇ…その通りよ。流石に本業の発注を削ってまでお願いはできないわ…」


「牛すじの追加調達は不可能…か」


黒木は感情を抑え込んでいたが、声にはわずかな動揺が混じった。


「このままでは、売上は24万前後で頭打ちになる。目標達成は不可能だ」


「えぇ・・・わかってるわ」


「さっきの話を聞く限り、高い肉を混ぜれば同じ味は再現できるんだよな?」


「…そうね。コロッケにするなら混ぜ込めば同じ味になるはずよ」


「なら選択肢は三つだ。一つ目は簡単で、諦めること。このまま午後分の売り切れを宣言し、在庫が切れたタイミングで店を閉める。二つ目は、赤字覚悟で高い肉を混ぜ込む。三つ目は代替品のメニューを考える。これは時間的にかなり厳しい」


普段なら迷わず二つ目の「諦める」を選ぶ。


今の売り上げ合計は90万円と少し、結果だけで言えば御の字だ。


しかし、清水さんは自分の担当分の売り上げで足を引っ張るのは許せないはずだ。


何より彼女は目標を達成するのに強い情熱を持っているようだ、だから


「僕は二つ目の赤字覚悟の案が良いと思っている。売り上げ目標も達成できる上にお客さんには同じ味で満足してもらえる…原価は嵩むが。清水さん、どうする?」


清水は黒木からの意外な提案を受け少し驚いたように目を見開いたが、すぐに首を横に振った。


「黒木君、ありがとう。でも、赤字を出すのは私の目標とは違う。計画の時にも話はしたけれど、商売としてなりたつラインからは外れたくないの」


清水の瞳は、焦りの中でも輝いていた。


「私は、三つ目の案の代替品のメニューを目指したい。今から、何とかして見せる」


黒木は、リスクも承知の上で三つ目の案を迷いなく選んだことに驚愕した。


「…分かった、だが本当に時間はないぞ。僕は今の在庫をさばきつつ、お客さんの意見を吸い上げてみる。君は代替案を考えてくれ、12時半には在庫分はショートして昼休憩に入る。それまでには代替案が決まっていないと間に合わないぞ」


「…えぇ、あなたって意外といい奴ね!一緒にギリギリの文化祭を楽しみましょう!」

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