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一話「ある夕暮れ、名も知らぬ少女と思いがけぬ勧誘」

二学期の始まり、金曜日の放課後。穏やかな週末の始まり・・・のはずが、今は学校の小さな面談室の中。しかも、そこにいたのは呼び出した対象ではないであろう一人の女子生徒だった。


「(個人面談だったはずだよな……?)」


女の子はちらりとこちらを一瞥して、呼び出してきた対象ではないことを確認するとすぐに前を向き直した。


窓から見えるグラウンドには、部活に励む生徒たちの声が響いている。ここ、私立秀央学院高校では、文武両道で部活動参加が絶対的なルールだ。そして僕がなぜここに呼び出されているのかというと……その部活動に入らずに一年生の一学期を過ごした、ということだ。


ガチャ、と音を立てて扉を開けたのは、白髪交じりの頭の男性だった。

その表情には威圧感はなく、むしろ腰の低そうな穏やかな笑みを浮かべている。


「本日はわざわざありがとうございますね」


その男性の声は擦れた紙のようだが、確かに芯のある声だった。

その声色から、どうやら説教をしに来たわけではなさそうだ。


「いえ」


隣に座る女子生徒が答える。

きっと彼女も僕と同じような理由で呼び出されたのだろう。


「私はこの学校で教頭を務めております、津村と申します。いえ、名前は覚えていただく無くても結構です」


そう言って教頭先生は僕たちをじっと見つめた。


「お聞き及びかと思いますが、部活動の件です。ですが、特にお咎めをするつもりはございませんので、ご安心ください」


「今の時代、熱中できるものは何も学校の中にあるとは限りませんから。その人がやりたいことが見つかれば、私はそれでよろしいと考えております」


「(なるほど、理由さえつけてしまえばよいということか)」


適当に何かでっち上げてしまおうか、そう思った矢先に教頭先生は少し熱を込めて話しを続けた。


「お二人の担任の先生から、お話を伺いました。特進クラスの中でも優れた学業成績の二人だが、クラスにはあまり馴染めていないと」


「いえっ・・・!私は、馴染むつもりがないだけで・・・」


反射的に女子生徒が反論した。というかこの人、同じクラスだったのか。知らなかった。


教頭先生は静かに頷き、僕たちに視線を向けた。


「私から見ると、お二人とも一人で生きていく"べき"人間ではないように思えます」


「・・・?」


僕は首を傾げる。

教頭先生は面談室から見える茜がかった窓の外に目をやった。


「私が担当している『経済同好会』というものがありましてね。一人の熱意ある学生が立ち上げた同好会なのです」

「そこの部長さんがね、優秀な学生さんを探しているんです。なにやら『尖りすぎてて孤立しているくらいの生徒の方がいい!』とのことなので」


教頭先生は再び僕らの方に振り返り、温かく笑った。

ただその瞳の奥には揺らめく夕焼けのように強い意志が感じられた。


「あなたたちの話を聞き、今実際に直接お会いして、確信いたしました。あなた方、経済同好会に入ってみませんか」


これは、僕の人生が変わる、最初の一歩。

そして、経済同好会の物語の始まりだった。

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