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十四話「絶望の終着点、狩りに出る戦略」

三日後、経済同好会の部室に全メンバーが集っていた。

前日に清水と黒木から、各々が抱えていたタスクに目途が立ったと連絡があったからだ。


静寂の中、藤井代表が口火を切る。

「よし、それでは報告会を始めようか。まずは清水さんからお願いできるかな?」


「はい」

清水は自身がまとめた経営数値の資料を配る。


「まず、結論から言うと、コストカットによる赤字脱却は見込めません」


清水は、まとめた資料を見ながら詳細の説明を始めた。


「お渡しした資料に各店舗の変動費・固定費を分離して比較していますが、材料費は可能な限りで仕入れを工夫して抑えられています。人件費も店主自身が労働力の大部分を補うことで、極限まで切り詰めた店舗運営がされています」


清水がまとめたデータには、年々厳しくなる売り上げ環境に対し、各店舗の店主が長年にわたりコストを切り詰めてきた最大限の努力の結果が示されていた。


「何年も店を続けられてきた大先輩方だ。当然予想はしていたけれども…苦しい状況だね」

藤井は眉間にしわを寄せながら、悩ましい顔を浮かべている。


黙って資料を眺めていた雪村も、口を開く。

「かなり思い切ったコスト削減もしているようだな。特に人件費の削減は顕著で、現在では店主一人で回している店がほとんどだ。『撤退』の判断をしてもやむを得ない状況といってよいだろう」


自身でデータをまとめていた清水だが、思い入れのある商店街の現況に苦い顔を隠せていなかった。


・・・


清水のパートの総評も終わり、黒木の外部環境分析のターンに変わる。


「こちらの分析結果からも、商店街は極めて厳しい構造的な脅威にさらされていることがわかりました」


黒木は雪村から教わったフレームワークに基づきまとめた資料を皆に手渡す。


「構造的な脅威として最も大きいのは、やはり代替品と新規参入による脅威です。近隣のスーパー、コンビニ、そしてフードデリバリーサービスの拡大により、商店街からの顧客を奪っています。さらに、周辺企業の移転や人口減少といったニーズの減少も、さらなる売上減少を加速させています」


「ですが、わずかなチャンスも見えています」

黒木は少しだけ声を張った。


「二駅離れたところにビジネス街があり、企業数や昼間の人口も増加し、発展を続けています。この機会を取り込むことができれば、飛躍的な売上拡大が見込めます」


「あ、そのことについてなんだけど」

話を割り込むように小寺が口をはさむ。

「当然商店街の店主さんたちもそのことには気が付いているみたいでね。駅前で広告打ったり、一杯無料とかのキャンペーンもやってたみたいなんだけど、あまり結果がよくなかったそうなの」


「うーん、そうだよなあ…そもそもあのビジネス街にも居酒屋なんていっぱいあるしなあ」

悩ましそうに藤井代表が声を上げる。


「この路線はあまり利用客も多くないですからね…乗り換え駅でもないですし」

この商店街近辺に住んでいる清水は、実感を持って悲しそうに呟く。


確かに、この商店街にビジネス街の客を呼び込むのは相当難しい。

だから、攻撃的に"狩り"に出るしかない。


「ええ、言って頂いたように、"夜"の商店街に客を"呼び込む"のは難易度が高いでしょう。ですが、"昼"にこちらから客に"持ち込む"のはどうでしょうか」


「ふむ…」

「…」


「え?どういうこと?」

一人状況を呑み込めていなかった小寺が疑問を呈する。


「ビジネス街の平日のランチ時を、配達やキッチンカーなどで狙います」


「ビジネス街にはコンビニやチェーン店、ランチのお店もいっぱいありますが、味ではこの商店街に敵う店はいない。商店街の強みを、顧客が最も必要としている場所と時間へ、文字通り運び込むんです」


「ちょっとちょっと、何言ってるの!?だって今の商店街って"夜営業の居酒屋"ばっかりだよ!?」


「ええ…ですから、業態を変更してもらうしかない」


その大胆な提案に、部室の空気は意外にもゆったりと受け止めていた。


「黒木くんの提案には俺も賛成だ」

藤井代表はその空気を体現するかのように、一声を挙げた。


「雪村は?どう思う」


「ええ、俺も良いと思いました。大規模に撤退を決めるか、強力な企業を誘致するなどは考えていましたが、この提案であれば投資コストは低く抑えられる」


「いやいや、ちょっと待ってよ!」

一人、その空気に乗り切れていなかった小寺は同様の色を隠せない。


「それって誰が交渉するの!?今も切り詰めている店主さんに昼からも働いてほしいってお願いするわけでしょ?」


「私がやります」

その大きな課題に立ち向かうのは清水だった。


その決意を示してくれたのは嬉しいが、提案者としては黙っていられない。


「いや、提案したのは僕だ。責任をもって説明と交渉をするよ」


「この商店街に一番思い入れがあるのは私だから。この課題を一番自分事にできるのは私だけだと思う。だから…」


「うん、組み合わせとしてはちょうどいいんじゃないかな」

藤井代表が間に割って入る。


「商工会の代表への説明を黒木君と俺が、各店舗の店主さんへの交渉を清水さんと有紀で進めるのでどうかな」


「はあ…結局私も巻き込まれるのか~。まあ後輩ちゃんが頑張るんだからしょうがないね」


「小寺先輩が来てくださるなら頼もしいです」


「その役割分担で問題ないです」


「では俺はビジネス街側の営業エリアの分析を進める。具体的に顧客対象にできる企業もないかリサーチしておこう」


雪村のその言葉を最後に、今後やるべきことが定まる。


部室の外に夕日が差し込んだ。

経済同好会メンバーの胸中は、『業態変更』という前代未聞の提案を抱え、覚悟が決まったようだった。

彼らは、コストカットの限界という絶望の先に見つけた唯一の希望をつかむための準備を始める。

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