十三話「経営数値と事業環境の解析手法」
放課後の経済同好会の部室。
最近は同好会メンバーも集まり、賑やかな日が続く。
清水は商店街の核店舗からかき集めた財務資料の整理を進めていた。
「うーん…」
「なんか困ってる?」
様子を見計らってか、藤井は清水に声を掛ける。
「藤井代表、実は経営数値をまとめるのに困っていて…それぞれの店舗で名目が違うのでよくわからなくなるんです…」
「あー、それは辛いな。ただ、財務帳票にはカテゴライズするべきポイントがあるんだよ」
「カテゴライズですか…?」
「清水は文化祭でも丁寧に利益計算をしていたけれども、今回は赤字の分析が目的だよね?」
「はい」
「その場合、まずコストカットを第一に考えなければならない。コストカットを考えるときは固定費と変動費に分けて考えるといい」
藤井は紙に書きながら説明する。
「固定費ってのは毎月ほぼ固定でかかってしまう費用。例えば店舗の家賃とか、人件費とかが該当する。設備投資をしている店舗では、資産の減価償却費等もここに分類される」
「変動費ってのは作る物の量によって変わる費用。例えば材料費が分かりやすいけど、外注で出してる加工費とかもここに該当する」
「固定費っていうのは販売実績に関わらずかかってしまう費用だから、下げれば下げるほど嬉しい。ただし、人件費を削ればそれだけ仕事は回らなくなるし、人も集まらなくなるし辞めやすい。家賃も抑えるとお客さんが集まらないかもしれない。要は無駄なお金は使うなってことだな」
「変動費は実際にものを作るために仕入れる費用だから、どれだけ売れても割合で費用がかかってくる。だから"比例費"とも言ったりするね。ここでは原価率が重要になってくる、要は安いものを仕入れればいい。ただし、安いものばっかりを選ぶと商品の品質も悪くなってしまう。まとめ買いをすると安くなったりするから、材料を共通化するのも手の一つだな」
「なるほど…その分類なら全ての店舗で共通して分析ができそうですね…やってみます」
・・・
雪村は黒木がまとめたデータに目を通していた。
「一年坊。君が集めたデータはネットニュースの『そうかもしれない』レベルの情報に過ぎない」
雪村先輩は一通り資料に目を通すと辛辣な評価を告げる。
僕がまとめた資料は『周辺の商業施設の建設時期と売り上げの推移の関係』、『周辺地域の人口の推移』の二つだった。
「お前に与えたタスクは、外部環境要因でどのようにこの商店街の収益構造が破壊されているかを分析することだ」
「お前がまとめたデータは細かくまとめられている上に、近隣のスーパーが設立された時期に売り上げが大きく下がっている"ように"見える。データと導き出したい結論が一対一になっているように見えるが、要因は本当にそれだけか?」
「そういった外部環境を網羅的に分析するためのフレームワークがある」
そういうと、雪村はホワイトボードにスラスラと書き始めた。
・PEST分析
「外部環境の変化をマクロ的に洗い出すために『PEST分析』が一般的な手法として取り入れられている。Politics(政治)、Economic(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字を取った分析手法だ」
「Politicsがどう作用しているかあまりイメージはしにくいだろうが、ビジネスを規制する法律や補助金が分かりやすい例だ。あとは関税なども材料費に直結する」
「Societyは人口動態。人口の増減などを指すが、流行り廃りのようなものもここに含まれる」
「他はなんとなくわかるだろう。周囲の環境を手っ取り早く4つに分解できる手法だ」
・ファイブフォース分析
「先ほどのPEST分析ではカテゴリーが広すぎるため、実際に関わる利害関係者に行きつかない。特に商店街のようなローカルな環境ではまた違った要因も想定される。そういったときに考える手法の一つが『ファイブフォース分析』だ」
「ファイブフォース分析では『売り手』『買い手』『競合他社』『代替品』『新規参入者』の5つに分け、それぞれが自社に対してどの程度の脅威を与えるかを分析する」
「お前が持ってきた資料の近隣スーパーの設立による売り上げの減少は『新規参入者』によって与えられた脅威の結果と考えてよいだろう」
・SWOT分析
「今まで説明した分析手法では現状の把握のみに留まってしまい、次に打つ手をどうすべきかまで落とし込めない。そのため、内部環境と外部環境を4象限で分析し、次の戦略を立てるための手法が『SWOT分析』だ」
「『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』の4つに分け、分析する。強み・弱みが内部環境、機会・脅威が外部環境だな」
雪村先輩はペンを置くと、僕の方に視線を戻した。
「ここまで理解出来たら、あとはこれらのフレームワークを使って外部環境を分析し、赤字脱却のための勝ち筋を見出してみろ」
悔しいが、この人にビジネスの知見では及ばない。
この人から学んで、自分にできることを見つけていくしかない。
「わかりました。やってみます」
清水もまた、経営数値の分析手法を学び、データを整理する作業に取り掛かる。
一歩一歩、だけれどもその身分にしては大きな一歩を歩み、
商店街とのコラボレーションプロジェクトは加速していく。




