十二話「深刻な状況、チーム再始動」
週明け月曜日の放課後。
「いやー、商工会とのプロジェクトの仕切り直しは中々ピリピリしたよ〜」
藤井代表は先週末の商工会との打合せの結果を報告するため、全メンバーを招集した。
「結論から言うと、プロジェクトの方向性の変更は呑んでもらえた。SNS集客なんて悠長な話は引っ込めて、抜本的な課題解決に貢献したい。そのためにも予算を割いたプロジェクトに方針転換をしたい、とね」
小寺先輩は呆れたように付け加える。
「予算を要求された時のご年配の方々の真剣な目つきに変わる瞬間は二度と体感したくないよ〜」
清水も相当怖い思いをしたのだろう、小寺先輩の言葉にブンブンと首を縦に振る。
「最初はムッとした顔をされていたけれど、藤井代表が用意されていた過去の実績を見て一気に話が変わったのよ」
「資料を用意したのは俺だけど、一番評価されていたのは直近の文化祭の実績だよ。2人が丁寧に原価計算してくれたおかげだ」
どうやら先方から突き返される可能性もあるギリギリのラインで交渉を進めていたようだ。
「ただし、ここからがさらに難しいポイント。前回の打合せで雪村が要望していた商店街全体の経営状況だが、思っているより深刻な状況だった」
藤井先輩は1枚の収支報告書を見せながら説明を始めた。
「内容は各店舗の経営情報を反映している。事前に秘密保持契約書を交わしているから合意蘭にみんなの名前を書いてから聞いてくれ」
藤井代表が話した経営数値は以下の内容だった。
* 現在の商店街の年間売上は約3億円
* 売上は年々減少し、毎年30%減のペースで急速に衰退している
* 今の商店街全体は年間1,500〜2,000万円の赤字
* 過去の栄えていた時期の積立金が約1億円あり、商店街の固定費をここから賄うことで店舗を維持している
説明が終わると、小寺先輩は頭を抱え、雪村先輩は爪を噛みちぎる勢いで噛んでいた。
藤井代表は説明にさらに話を付け加える。
「このままでは数年で来る建物の建て替えタイミングで多くの店舗は撤退を余儀なくされる。現に呉服屋などの需要が急速に減っている店舗は既に何店舗か閉店している」
「ただし状況悪いことばかりじゃない。現在残っている店舗は評判のいい飲食店が多い。ただし夜営業の居酒屋が中心で、若者や家族層のリーチは壊滅的。広告を上手くかけたとしても集客を見込むのは厳しい状況だな…」
全然悪いことばかりじゃないかと思ったのは僕だけではないはず。
商店街がなんとなく厳しそうな一般的な感覚はあったが、
数字で見るとその厳しさを一層体感することになった。
この商店街は何も手を打たなければ3年と絶たず潰れてしまうことが容易に想像ができる。
藤井代表は重苦しい雰囲気の中で更に厳しい条件を提示する。
「今回の予算は先ほど言っていた積立金の1億円から捻出される。ただし商工会は今回のプロジェクトを転換点として、継続的に収益改善が見込める。それもある程度の確証を持たなければ承認できないそうだ。その代わり、上限500万円の予算を割いてくれた」
雪村は爪を噛むのをやめ、口を開いた。
「500万の投資資金で2000万の赤字を改善する…店舗も原価を持ってくれるだろうが、厳しい条件を提示されてしまったな」
雪村は冷静に状況を受け止めると、すぐに実務的な指示に移る。
「小寺先輩と…あー…」
「清水です」
「そう、清水。商工会から各店舗の過去三年間の財務諸表、特に変動費と固定費が分かる損益計算書を貰ってきてしてほしい。なかったら店の帳簿からまとめてほしい」
雪村先輩は次に必要な情報を窓口の二人に伝える。
言葉ぶりから二人が交渉役であることは認めているようだった。
「なあ、雪村」
様子をおとなしく見ていた藤井代表が声を掛ける
「後輩の黒木と一緒に戦略立案をやってもらえないか?お互い学びになるところがあると思うんだ」
「…ああ、俺もそう思っていたところだ」
雪村はそう応じると、僕に視線を向ける。
「一年坊、お前には核店舗の財務状況からは分からない環境要因を調査してほしい。具体的には、年間30%減の売上衰退要因を分析しろ」
「は、はい」
まだお前は名前を覚えるに値しないということか、
それとも単純に人の名前を覚えるのが苦手なのかもしれないが
今回のプロジェクトでは雪村先輩と一緒に行動することになった。
500万円という予算規模のプロジェクト。
改善しなければいけない売り上げ規模は数千万円。
前回の文化祭からは一桁上がったそのスケールに背筋を一層伸ばし、
まずはこの先輩から信頼を勝ち取ることを第一目標とすることにした。




