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十一話「新プロジェクト・新チーム始動」

放課後、いつものように経済同好会の扉を叩くと、室内に雰囲気が普段と明らかに違っていることに気が付く。


部屋の中央にソファにいつも見かけない男子生徒が座っていた。

座っていてもわかるすらりとした体躯、長く伸びたストレートの黒髪、銀縁の眼鏡は強烈な存在感を放っていた。


今日は新プロジェクトのキックオフの日。

ということは、この男子生徒こそが昨年一人で文化祭100万円ノルマを一人で達成した『雪村』という先輩に違いない。


「お、来たな、黒木と清水。紹介するよ、この間話をした雪村だ」

藤井代表が明るい声で場を取り持つ。


「どうも」

雪村は感情の読めない、静かな声色で応じた。

言葉は少ないが、この人も変わり者なのだと、そう予感させる。


「雪村先輩、よろしくお願いします!私は清水といいます」

清水はいつものように積極的だが、わずかに緊張の色が垣間見えた。


「黒木です」

とりあえず名前だけでも返しておこうと、僕も静かに応じる。


・・・


藤井代表はホワイトボードに向き直り、話し出す。

「さて、本題だ。今回のプロジェクトだが、文化祭で清水がやり取りをしていた精肉店のご縁で、地元の商工会とのコラボレーションが実現した」


僕と清水は顔を見合わせる。

やはり予想していた通り学外とのプロジェクトであったが、

文化祭の繋がりを活用していることは予想外だった。


藤井代表はしてやったりと少し僕らの方に目を配る。

「お題はシンプル。『商店街の活性化プロジェクト』だ」


商工会から受け取った依頼書を読み上げる。

「リクエストは『若い学生さんの知恵・知識を使って商店街を盛り上げてほしい』…とのことだ」


あまりにザックリとしたリクエストに、僕は突っ込まざるを得ない。

「藤井先輩、そのリクエストはあまりに漠然としすぎて分かりません。具体的に先方は我々に何を求め、どのような施策を期待しているのでしょうか?」


「ふむ…先方の担当者とはそのあたりは少し話しをしたんだけれども、具体的な要望は『SNSやインターネットを活用した何かをやってほしい』そうだよ。商店街でも高齢化が進んでいてネットには疎く、僕らのような学生に力を借りたいそうだ」


「なるほど、Web系で集客を見込みたいということですね。私は普段そういうの触らないんですけど…」

清水は予想が付かない今後の展開に不安を覚えつつも、頭の中で計画を練り始めているようだ。


SNSで集客をかける…か、老舗ばかりの商店街だと確かに不得手にしそうなところだが…


「雪村はこのプロジェクト、どう思う?」


藤井代表に意見を求められた雪村は、静かにその口を開く。


「…このリクエストからは、本気度が感じられない。金をかけずに学生に何かをやってもらって、地域活動で自己満足しているようにしか思えない。そんな活動に時間をかける意味はない」


雪村先輩の声は静かだが、確信をもって答えていることが分かる。


清水は驚きと同時に、その手厳しい意見に少し反発を覚えたようだ。

「そんな、せっかく商店街の方が期待してくださっているのに…」


しかし雪村先輩は清水の言葉に対して揺らいだりしない。

「意味が分かっていないようだが、『学生風情に金がかからない範囲で勝手にやらせとけ』となめられている、当然期待されてもいない。それをわかって相手のリクエストを鵜呑みにするチームなら、俺は今回は降りる」


雪村の反論に、清水は一瞬身構える。

その様子を見てか、藤井先輩が質問を投げかける。

「雪村、まあ落ち着けよ。じゃあ雪村はどうすべきだと考えているんだ?」


その問いかけに、雪村は当然といった態度で応える。

「施策を考える前に、確認すべきことがある。そもそもこの商店街の課題はなんだ?集客が足りていないことは分かったが、そもそも赤字なのか?商品力が足りないのか?そのあたりが分からないと施策を考えることすらできない」


「藤井先輩、まず確認すべきはこの商店街全体の経営状況だ。現在の売り上げ規模はどれくらいだ?利益は上がっているのか?固定費は?今回のマーケティング施策にいくらの予算が割ける?そしてそもそもマーケティングを仕掛けるだけの強い商品を持っているのか?それが分からないと次打つ手を判断しようがない」


雪村先輩の言葉を聞いて、僕はハッと気づかされる。

(ビジネスごっこ気分だったのは…僕の方だ)

僕の頭の中ではSNSというザックリとしたリクエストにも商店街の方々のお困りごとが詰まっているのだと思い、少し違和感を感じながらもその期待に応えるべきだと考えていた。


雪村先輩は、真剣に、そして対等に商店街の方々とビジネス関係を構築しようとしている。


この先輩はクールに見えるが、相手の立場に立って自分の価値を最大化させるパッションを持っていることに気が付く。


そして、範囲は広いながらも確認すべき経営指標を示し、次のアクションを見出した。

僕自身は、ただ受け身で言われたことを最大限上手くやろうとしていただけだった…

これが文化祭ノルマを一人で達成した先輩との差なのかもしれない。


「う、うん。思った以上のことを言われちゃったな」

藤井代表は雪村先輩に圧されつつも話を繋げる。

「俺もこのリクエスト通りだとこの同好会で受ける意味はないと思っていた。まずは先方と今回のプロジェクトの方向性について仕切り直したいと思う」


「そこで有紀と清水には商店街との窓口を担当してほしいんだ。最初のプロジェクトの仕切り直しはプロジェクトリーダーとして俺から説明するが、その後のやり取りは受け持ってほしい」


「は、はいっ!」

「確かに男性陣じゃ今みたいにいらんこと言いそうで不安だしね~、了解~」

小寺先輩が茶化しつつ応じる。


「じゃあ次は商工会担当者との打ち合わせ終了後にミーティングだな。予定が決まったら二人には連絡する」


「じゃあ今日はこれにて解散だ!」


藤井代表の号令でチームメンバーは動き始める。


藤井代表の統率力、小寺先輩のコミュニケーション能力、そして雪村先輩の事業推進能力を前に、自分自身に何ができるか、その役割を改めて考え直し始めた。

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