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エピローグ ホムンクルスで人類を救うことは可能なのか?

それから数日が経過した。


「おはよ、朱美さん」

「おはようございます、北斗さん」



私はそういいながら、いつものように彼が家に来たのを見て、思わず笑みが出た。

最近は、北斗さんが声かけをしたおかげもあってか、私に対する嫌がらせはすっかりなくなった。


また、単純に弁護士を恐れてのこともあるのだろう、北斗さんに対しても失礼な態度を取るものはいなくなった。



さらに北斗さんのお母さまも、以前のように教育に熱を上げることはなくなった。

そのこともあり、休日は私は北斗さんと一緒に過ごすことが増えた。……正直、私はこの時間がとても楽しい。



「はい、持ってきたよ。言われていたもの」

「ありがとうございます!」



北斗さんには最近、プラごみやアルミニウムをはじめとした、研究に必要なものを集めてもらっている。


元々一人で何もかもやるつもりだったが、やはり自分の手足が一つ増えるのはそれだけで研究がはかどる。


そして何より、北斗さんの方が近隣住民からの信頼が厚いこともあり、私は以前よりはるかに効率的に研究が進んでいる。



おかげで現在では、中学に進学してから行おうとしたホムンクルスの作成も、着手することが出来ている。


北斗さんは私に尋ねてきた。



「ホムンクルスの調子はどう?」

「ええ、やっぱり予算の問題でうまくいきませんね……こんな感じですわ?」



私は彼に、作りかけのホムンクルスを見せた。

ゼリー状の生物が、プラスチックをかじりながらニコニコ笑っているのを見て、北斗さんは驚きの表情を見せる。



「へえ……。なんか、プルプルしていて可愛いね……ゼリーみたいだけど……凄いな、表情もあるんだ!」

「ええ。『笑うことが出来る』のは絶対条件だと思いましたので」



だが、私はまだ納得していない。

このホムンクルスでは『プラごみ問題』しか解消できないからだ。



「本当は……人間型のホムンクルスを作りたいのですが、まだ予算も研究規模もたりないですから……」

「人間型?」

「ええ。私のように美しい美少女のホムンクルスを作って、その子に家事育児、更には労働も任せられるようなものを作りたいのですわ?」



私は自分の美貌を独り占めするようなことはするつもりはない。

十分な研究装置と、私の遺伝情報……まあ、髪の毛でいいのだが……を用いれば、私とそっくりなホムンクルスを作ることが出来る。



それをこの世界の全ての人々に提供するつもりだ。



「朱美さんのような、か……」

「ええ。北斗さんにも差し上げますから楽しみにしてください。毎日、私が作るような素晴らしいご馳走を作ってくれますよ!」

「そ、そうなんだね……」



そういうと、北斗さんはひきつったような顔をした。



……嗚呼、いけない!

北斗さんは、すでに私という素晴らしい人間に出会ってしまったのだ。


だから、ホムンクルスというある種のまがい物では我慢できないのだ!

彼のひきつった表情は、それを意味しているのだろう。


そう思った私は、また両手を広げて北斗さんを受け入れる準備をする。



「……すみません、誤解させましたね。……『本物の私』が好きなら、いつでもいいですよ? さあ、ハグする権利を差し上げますわ!」

「え?」



そういうが、北斗さんは抱き着いてこない。

……私が可愛すぎて、ハグだけではすまなくなるのを恐れているのだろう。



「安心してください! 北斗さんの傍に、わたしだって一生傍にいますから。ホムンクルスと3人で、楽しく過ごしましょう?」

「……う、うん……。僕が気になったのはそこじゃないけど……えっと……」



そういうと、少し悩んだ素振りを見せた後に北斗さんは答える。




「そうだ! あの、僕はさ! 朱美さんには僕の作った料理を食べてもらいたいから! だから、料理は任せてよ!」




嗚呼、なんということ!

私が北斗さんにそのようなことをしていただけるなんて!


北斗さんは、料理が上手だ。

そのため、今日も彼が作ったお菓子を後で食べるのを楽しみにしている。

それを毎日楽しめるというなら、正直嬉しい。


だが、そのことは後で話すとして、目の前にいるホムンクルスを見ながら私は呟く。



「まあ、私のホムンクルスを作るのは中学に上がってからにしましょう。……今のホムンクルスは、プラごみを食べながら、ニコニコしていることくらいしかできませんわね」

「それだけでもノーベル賞を総なめに出来ると思うけど……発表はまだしないの?」

「ええ。下手に出して、他所が特許を取得するようなことをされたら……私の最終目標が達成できなくなる可能性がありますもの」

「最終目標って?」

「ホムンクルスを使った、少子化の解消ですわ?」



そういうと、私はかねてから用意していたレジュメを見せてあげた。



天才の私は、自分のノウハウやスキルを独り占めするようなケチな真似はしない。



北斗さんにも、私の持つ錬金術の知識を惜しみなく伝え、ゆくゆくは自分でホムンクルスを作れるようになってもらうつもりだし、ホムンクルスの特許を取れた後は、それを世界中の企業にタダ同然で使わせるつもりだ。



そのレジュメを見ながら、北斗さんは驚いたような顔を見せた。



「すごいな……えっと、つまりホムンクルスの素に二人の髪の毛を入れると……」

「ええ。『二人の子ども』を作ることが出来ますの。勿論、その子どもも同じ方法で子を残せますから……人類、いや全生命体の永遠の命題である『遺伝子の継承』は、問題なく行えますわ?」



その方法で作ったホムンクルスは、外見も人間とほぼ変わらない。

更にレジュメを読み込むと、北斗さんは意外そうな表情を見せた。



「そうなんだね。……ん、出来たばかりのホムンクルスは、6歳児の見た目だけど……」

「ええ。一番面倒な『幼少期の育児』をしないで済めば、育児は楽しいと思いますので」



少子化の問題の本質は、女性が『妊娠・出産』をすることによってキャリアが途絶することだと私は思っている。



だが私の『遺伝子を残せるホムンクルス』ならば、妊娠どころか性交すらする必要がない上、不妊治療も必要ない。


そのうえ、一番子育てに手間がかかり仕事がおろそかになるであろう「幼少期」を飛ばし、小学校入学の歳から育児を開始できるのだ!



きっと、この素晴らしいアイデアを聞き、女性陣は喜ぶに決まっている。



しかも!

『この方法では、男性が性的充足を満たせない』という問題についても『私のホムンクルス』が性欲の解消をしてくれるため、そのあたりのフォローもバッチリだ。



おまけに、そのホムンクルスたちは『プラごみ』を食べさせることで生命の維持が出来るので、餌代もかからないどころかゴミ問題まで解決する!



嗚呼、なんと素晴らしいアイデアなのだろう。

セドナお父様もきっと、喜んでくれるに違いない。



「……うーん……」



だが、北斗さんは少し難しそうな顔をした。



「どうされました、北斗さん?」

「何となくだけど……。この方法だけじゃうまくいかない気がするな……」

「どうしてですの? この世界にある全ての社会問題は、この方法で解決できると信じていませんの?」

「うん……。なんか違うというか……ゴメン、説明は難しいんだけどね、この方法を嫌う人もいるかもしれないかな……」



そんなバカな!

……いや、天才で優しすぎる私であるがゆえに、凡人の気持ちを理解できていないという可能性は、万に一つあるかもしれない。



私は独善的な性格ではないし、自分の価値観こそが『普通』と考えるような傲慢さもない。

そのため、北斗さんの意見に素直にうなづく。



「北斗さんはそう感じたのですね……。であれば、もしこの方法でうまくいかなかったら……」

「うん、その時は僕が力になるよ! 朱美さんが分からないところは僕が力になれれば、嬉しいから!」



嗚呼、なんていうこと!

彼が私にわからない闇を照らす『月』になってくださるということなのね!



そう思うと、私は一瞬自分の心に、なにかドクンと高鳴る何かを感じた。



(……何かしら、今の……)



今まで、北斗さんにハグやキスの権利を与えることは『施し』だと思っていた。

……だが、今は少し違う気がした。



まるで、自分から彼に抱き着きたいような、そんな不思議な感覚だった。

そしてその瞬間、先ほどまで私が考えていた『ホムンクルスによる社会問題解消計画』の欠陥も、おぼろげながら見えた気がした。



……だが、天才の私の頭脳をもってしても『なぜ、この計画に穴があるのか』を言語化することができない。



(信じられないわね……。まだこの天才の私にも、分からない感覚があったなんて……)




どうやら、この世界はまだまだ研究できる余地がいくつもありそうだ。

そう考えながら、私は北斗さんが持ってきてくれたカステラを食べながら、研究を続けることにした。

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