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プラごみはホムンクルスの餌ですわ! 最強錬金術師、朱美が青森県の小都市で始める『ファンタジー知識無双』  作者: フーラー
第2章 最強錬金術師はいじめも怖くありません

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2-5 これは恋愛感情ではないけれど

それから10分ほど、私は全力で夕焼けに染まる街を走った。



「はあ、はあ、はあ……」

「や、やっと追いついた……」



さすがの天才である私も、体力だけは人並みだ。

北斗さん達は肩で息をしながら、私に追いついてきた。



「よ、よく追いつきましたわね、北斗さん……それにお父様も……」



私の前に回り込んで逃げ場を塞いだお父様も、息が荒い。

まあ、運動不足なのだろう。



「そ、それで……どうしてこんなことをしたんだ?」

「ほ、ほんとよ……あんた、本当にわけわからないわね……」



ご両親は、私に対して財布を盗まれた怒り……ではなく、困惑の表情を浮かべていた。

……まあ、そうだろう。私のような天才の考えなど、彼らにすぐ、分かるわけがない。




「それはですね……私が『犯罪者』になるためですわ?」




そういいながら、私は財布を見せつけた後、交番を指さした。



「どういうことよ?」

「私は……財布を盗んだ窃盗犯ですわ? ……そういって、そこのおまわりさんにお話をして、被害届をお出しになって? ……そうすれば……」

「え? まさか、朱美さん……」


どうやら、北斗さんは感づいたようだ。

私は続ける。



「ええ。学校にもこのことを伝えて、私を※退学処分にさせることが出来ますわよね?」

(※本当に退学処分にできるかは、あえてここでは問わない)

「…………」




「もしそうすれば、北斗さんがまた学年一位に返り咲きますわ? それで中学の推薦もうまくいくはずです。……お母さま、それでよろしいでしょう?」



(嗚呼、なんて私は優しいのでしょう! 彼のために自分が学校を辞め、その道を彼に譲るなんて!)



思わず私は、自らの優しさに涙を流しつつ、まるで磔刑に上るキリストのように両手を広げた。

……そう、私は『美しき殉教者』だ。



嗚呼、夕日が美しい。まるで、今の私の底なしの慈悲深さに感激し、神が私を照らし出しているようだ。



……だが。

それを聞いてお母さまは私に尋ねてくる。



「……そんなことしたら、あんたはどうすんの? ……あんたの歳で小学校を辞めて、将来はどうするつもり?」



なんだ、そんなことか。

くだらない、天才の私には、本当は学校など必要ない。



「あら、私は天才ですもの。学校になんか行かなくても、世界一の学者として、世に名を馳せるつもりですもの! 舐めないで欲しいものですわね!」



「……え?」




「将来は、あなた方の生活の質を最高に高める発明をいくらでも作って差し上げますわ! ……私の才能、舐めないでくださいませんこと?」



まだ私の持つ技術『錬金術』については、この世界では浸透していない。

そのため、あえて学者という表現を使った。



そして、それを聞いたお母さまは、



「……ハハ……。どの学校にいっても、世に名をはせる、か……凄いな、さすが天才ってことか……」



そんな風に少し呆れた様子ながらも、感心したような笑みを浮かべてきた。

そして北斗さんの方を見て、



「ごめんね、北斗。……なんかさ、朱美ちゃんを見てたら、成績とかそういうのって、どうでもよくなったよ……」

「え?」

「点数にこだわるより、誰かと競争して勝つより、あんな風に『自分を信じられること』の方が大事だなって分かったよ。……あんたはいい彼女を持ったね」


それを言われて、北斗さんは顔を赤くする。

夕焼けに染まるその頬の色は、まるで日本にあるといわれる果物『柿』のような可愛らしさを見せていた。



「べ、別に僕はただの友達なんだけど……」

「アハハ、そうね。……私がずっと、異性交際を禁止していたものね。……ごめんね、北斗。……これからはさ。あんたに無理はさせないから……出来る範囲で頑張ってくれるといいな。朱美ちゃんから色々学んでね?」

「……うん……」



そして、北斗さんのお父様もそんなお母さまの肩をそっと抱きしめていた。



「……ありがとうな、朱美さん。……これからは私もこまめに家に帰るようにするよ……もう遅いから、夕食を食べていきなさい」

「……ええ、ありがとうございます」



嗚呼、私はやはり天才だ。

そんな風に思いながら、私は喜んで美しい笑みを浮かべて頭を下げた。





北斗さんのお父様が作ったカレーライスは、やはり美味しかった。

私の世界でもなぜか、やたらと転生者が作りたがっていた理由が分かった気がする。


そしてしばらくののち、私を家まで送ってくれることとなった



「ありがとう、朱美さん……」

「あら、礼には及びませんわ? 私が弱者を助けることなど当然のことですもの。何かあったら、この優しくて慈悲深い私が何でも解決して差し上げますわ?」

「うん……けどなんかさ、自分が情けなくなったよ……」

「え?」



それはそうだと思っている。

私のような完璧な人と一緒にいて、情けなく思わない人などいないのだから。



「朱美さんは、自分のいじめ問題で悩んでいるのに……僕が庇って上げないといけないのに……僕が逆に朱美さんに助けてもらったなんてさ……」

「あら、私はあなたに庇ってほしいなんていっておりませんもの。そんなことで気に病む必要はありませんわ?」



いや、違う。


男性は基本的に、自分以外の誰かを守ったり助けたりすること、或いは社会的に成功を納めることでようやく社会から認められる存在だ。


天才で、優しすぎる性格である故に、そんな機会を奪ってしまった私が、寧ろ反省するべきなのだろう。



嗚呼、私の頭がさえわたる!

私は次の瞬間、何をするべきか判断した。



「えい!」

「うわ! なに、突然抱き着いて……!」

「何ってお礼ですわ? ……私の記憶が戻るまでの間、ずっと私の傍にいてくれたじゃありませんか?」

「……お礼?」

「ええ。北斗さんは北斗さんで、素敵な方だって知っていただきたくて。ま、私ほどじゃありませんけど」



北斗さんは、美しい私に抱き着かれて困惑をしているようだ。

まあ、それは当然か。こんな僥倖など彼の哀れな人生の中ではなかったのだろうから。



「ち、ちょっと良いかな……離れてもらって……」

そして北斗さんは、私の体を引きはがす。



「……あのさ、朱美さん。……朱美さんはさ。多分僕なんか居なくても一人で活躍できるよね?」

「ええ、それは当然ですわ?」



私は天才的な頭脳で、一人で何でも出来る、それは事実だ。



「それは分かったんだけどさ……。僕は朱美さんがもっと頑張るところを近くで見たいんだ。……だから、朱美さんのこと、手伝わせてもらっていいかな? ……友達として」

「……北斗さん……」




だが、私はそこらの自分のことしか考えない、自分ひとりで先に進んでしまう天才とは違う。


傍らに他人を置き、ともに歩むだけのゆとりくらいある。

だからこそ、彼と一緒に研究を行いながら、一緒に大人になっていく。

そんな人生だって当然送ることが出来るのだ。



……ただ、こういうと彼が可愛そうなので『一緒にいてくれて嬉しい』くらいの演技はしなくては。



嗚呼、私はなんと優しいのだろう!



「ありがとう、北斗さんがいてくださればとても心強いですわ? ……であれば、今後は私と一緒に研究を手伝ってくださる?」

「ああ……勿論だ!」

「それと……。今回は北斗さんを助けて差し上げましたけど……。もう、北斗さんを守るつもりはありませんわ?」

「え?」



勘違いしないでほしいから、これだけは言っておかないといけない。

北斗さんを今回助けたのは決して『借りを返すため』ではないのだ。




「今後はもう、北斗さんが……いえどんな人も『誰に守られなくても幸せに生きていける世界』を私が作りますから!」




彼を助けたのは『美しき殉教者』として、当然のことをしただけだ。

そもそも、そんな『誰かに助けてもらわないと生きていけない世界』があるなら、そちらのほうをぶち壊さないといけない。



そんな私の崇高な理念を聞いた北斗さんは、少し驚いた表情をしながらも、すぐに笑ってくれた。



「……ハハ、本当に凄いな、朱美さん……。ありがと、そんな世界を僕も作るために頑張るよ。……朱美さんが太陽なら、月みたいなものだけどね」

「それは仕方ありませんわ? 私は天才なのですから。……ただ、ついてきてくださるなら嬉しいですわ、北斗さん?」

「……ああ、任せてよ!」



その北斗さんの表情は、以前とは違う力強いものだった。

それを見て、私はようやく天才としての才能を発揮できたな、と嬉しく思った。

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