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プロローグ 青森に転生した、超絶ナルシストの錬金術師

「ここは……どこ? ……えっと……なに、ここ……」



私はある日目が覚めると、自分が見ず知らずの民家にいることに気が付いた。



「この家は、木製……? 寝床は、綿でできているのね……。後は足元には大量のビン……? けど、材質はガラスじゃないわね……」



見慣れた錬金術のための道具がそこには存在せず、代わりに木製の天井や壁、不気味なほど精巧で滑らかな材質の容器、それから見たことのないゴミに囲まれていた。



「それに、この手……私、小さくなっている?」


私の手を見ると、美しい子どもの手のようにすべすべとしている。

……小さくなったというより、子どもに戻ったような気がする。



「……あら、何かまぶしいわね……」



そして周囲を見渡している中でひときわ気になったのは、部屋の隅に置いてあるガラス製の透明な板だ。そこに人間の姿が映っている。



「ん。これは何……? ガラスに映っているのは、人……? えっと……わかった、天気の話をしているのね!」


どうやら、この地方についての話をしていることが分かった。



(言葉や文字は読めるわね……不思議だけど……)



そして周囲に置かれた事物から、ここが「青森県」という地域だということは理解できた。

多分『県』というのは、自治都市につく共通の単語だろう。



「青森……ということは……そうよ『日本』とかいう場所よね……じゃあこれは『てれび』ということね……!」



私は20年ほど前『日本人』とかいう、異世界から転生したと称する民族と出会って話をしたことがあったことを思いだした。

……この部屋は、彼らが話していた文化構造に酷似しているのだ!



(嗚呼……さすがは天才の私ね! あんな昔に見聞きしたことを克明に覚えているなんて! そして、こんなわずかな手がかりから、現在地を推測できるなんて!)



私は自身の未だ衰えない才覚に恐怖しながらも、現在私が「青森県」にいる理由を考えた。

といっても、天才の私をもってしても導き出せる答えは一つしかなかったが。



「そうよ、私は確かこの間……死んだのね……?」



そして私は、自分が置かれてきた状況を少しずつ理解してきた。

確か私は、錬金術の研究をセドナお父様と一緒にやっていたはずだ。


しかし、ある日の夜の実験の最中、突然の轟音がなったとともに記憶が薄れていったのが最後に覚えている記憶だ。



世界一完璧で崇高で、そして素晴らしき頭脳を持つこの私が、よもや調合ミスなどするはずがない。

セドナお父様も、私に足元くらいには及ぶ天才だ。やはりミスなど起こすわけがない。



ということは、恐らく私は何者かに爆殺されたのだろう。

そしてこの世界に転生したと考えれば、説明はつく。



「けど……ということは、私が元の世界で、あまりに素晴らしい発明をしたことで嫉妬を買ってしまったってことなのね……嗚呼、私が天才すぎるせいで人殺しを生んでしまうなんて! おお、神よ、彼らの罪を許したまえ……は!」



その瞬間、私は自分という人間の恐ろしさに改めて気が付いた。



(『自分を殺した相手』に対して最初に思ったことが、憎しみではなく『憐れみ』だなんて! な、なんてこと……私は優しすぎる人よね……! )



私はその、自らの果てしない慈悲深さに感動し、涙をこぼしそうになった。

だが、私は持ち前の精神力でそれを我慢し、立ち上がる。



「とにかく、今の私の状態はわかったわ。転生したということは、たぶん容姿も変わったはずよね」



そう思った私は、早速部屋の隅にあった鏡をみるべく立ち上がった。


……それにしてもなんて精巧な作りなのだろう。この世界には『錬金術』はもうないと聴いたが、代わりに『科学』という技術が発展していると、日本人から聞いたのを思い出した。



そう思って私は鏡を覗き込むと、そこには恐ろしい物が映っていた。



「な、なんてこと……信じられないわ……」



映っていたのは10歳程度の年齢をした、絶世の美少女だったのだ。



「な、なんてこと……これは、絵本の世界に出る妖精か女神様……ううん、女神様ですら、私のこの美貌の前にはただの醜女でしかない……」



なんてことなの!

ただでさえ美しかった私が、前世より※さらに可愛くなっているなんて!


(※彼女がそう思い込んでるだけで、実際の彼女の容姿は、特徴のない『地味顔』です)



さらに、私は周囲に散らばっている不思議な円筒状の容器を手に取り、その材質に衝撃を受けた。


これは飲み物の容器だろう。

そして、炭素と水素、そして酸素を重合させた物体だ。つまり……


「そうよ……この材質は、私たちの世界では伝説の道具とされた素材「ペットボトル」じゃない!」



ガラスより軽量で丈夫、そして何より私が発明したホムンクルスにとっては格好の餌となる材質『プラスチック』。それを用いた容器『ペットボトル』は、私たちの世界では、転移物に頼らなければ手に入らない貴重品だった。



……こんな恐ろしい代物が、この世界ではありふれたもののようである。



そしてとどめに、私は足元にある筒状の家具を見て、神を呪った。



「ま、まさか! ……こ、この掃除機に使われているのは……『銅線』? しかも、これほど細く精巧なものが出来るなんて!」



元の世界でも私は、日本人から聞いた話を元に掃除機を作ったことはある。、

だが、錬金術においてマナ誘導を行い、力学的な動作を行うための※ベルトローグリット効果を生み出す上で重要な役割を持つ銅は、私の大陸では希少品だった。


(※作中に彼女が口にする『専門用語』は覚えなくて問題ありません)



しかも、銅を細く伸ばして曲げられるようにした「銅線」は、その精錬の難しさも相まって、10メートルもあれば家が立つ代物だ。



(見たところ、この家は裕福ではない集合住宅……。にも関わらず、こんな宝物を当たり前に買えるのね! お、恐ろしすぎる世界ですわね……)



これなら、全ての人類に『理想の美少女ホムンクルス』でも『最高のお料理マシン』でも何でも製造してあげることが出来るくらいだ。



(ああ、なんてこと...ただでさえ天才的な頭脳を持ち、優しくて慈愛に溢れた私が……絶世の美少女としての容姿を持った上に、こんな宝物を簡単に手に入れられる世界に転生するなんて……もう、『チート』という言葉すらおこがましいわ!)



私は思わず涙しつつ指を組みながら、神を呪った。




「おお、神よ! あなたは残酷ですわ! 私のような性格も能力も完璧な天才に、これほどの恵まれた環境と肉体を与えたうえで、この世界に解き放つとは! 私と同じ時代に生まれた、全ての人間が哀れではないですか!」




とはいえ、しょうがない。

神が無能だというのは常識だ。


……さればこそ! 私は神のしりぬぐいをせねば!



「無能なる神よ! であれば私はこの世界で、あなたの失敗を正す『美しき殉教者』となりますわ! 神よ、感謝するのですわね!」



私よりはるかに愚かで冷たく、そして哀れな人々のため、この神にも勝る素晴らしい頭脳、美の象徴とも言えるこの肉体、そして何より温かく美しい心を惜しみなく使わなければ!



そしてこの世界に息づく様々な社会問題を……私の手で全て解決しなくては!

……私はそう心の中で誓った。

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