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攫った姫の様子がおかしい  作者: 妖精のコート
第一章『龍の弔いは野蛮だな』
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第三話「――――ようこそ、我が心の故郷、ロークロカへ!」

「それじゃ、行ってくる」

「いってらっしゃい。気を付けて」


 依頼の日になり、楽人はシンシアから離れて、魔王城の廊下を歩いていた。

 魔王軍――正式名称が特に定まっていないため、よくそう言われている――には空間魔術師が四名在籍しており、彼等の魔術を最大限に生かすための転移部屋がある。

 楽人はパーティメンバ―の一人を無理矢理部屋から連れ出してから、魔王城一階東にあるそこへ向かった。

 頻繁に使われているせいか、立て付けの悪くなった木の扉を開いて、中に入る。

 空間の属性を示す白色で囲われた広い部屋に、補助を目的とした地属性の魔術陣がびっしりと敷き詰められている。他のパーティメンバーやクスィア達は端の方の休憩スペースで、空間魔術師達と共にソファに座っていた。


「おはよう」

「この鬼っ、悪魔ッ、闇魔術師! 異世界人!! 私をお部屋に帰してくださいぃ!」

「……その人はどうしたんだ?」

「無視でいいぞ、トリー」

「……そうか。それとおはよう」


 楽人が彼等に挨拶をするも、楽人の後ろで喚いている女性に気を取られたのか、返事は少し遅れてやってきた。

 特に紅色の髪を長く伸ばした、トリーという名の女性は気になっているようで、ちらちらと今なお喚く女性の方を盗み見ている。


「その人初対面なんだが。紹介してくれるか」

「あぁ、そうか。この人はテペルさん。カスだから適当にあしらっていい。木魔術師だ」

「カスなのはどっちですかアカサキィ! 乙女を無理矢理闇魔術で引きずり出してぇ!」

「……あーっと、私はトリーだ。火属性の魔術と爆弾を使うタンクだ。よろしく」

「はいはいよろしくお願いしますぅ。精々その盾で私のこと守ってくださいね? マジで」

「……ああ、うん」


 トリーは長身な彼女二人分はある大きな盾を、ソファの背に立て掛けている。その内側には小さな棚のようなものがあり、幾つもの爆弾が置かれている。

 彼女は自分が常識人だと思っているのか、赤い瞳に困惑を載せてテペルを見ているが、こいつはこいつで爆弾狂だよなぁと、楽人は思った。


「……闇魔術で? ねぇラクト、闇魔術かけれたの?」

「……この人魔族じゃよな?」

「……アカサキさん、今度私に睡眠魔術かけてくれませんか?」

「いいですよ」


 テペルは和やかに会話する楽人達を、フィンガーライムの断面のような奇妙な眼で睨み付けている。

 そしてようやく楽人の魔術を解除できたらしく、恐らく彼女にとっては全力疾走で扉へと向かった。遅かった。


「アーノルド、行け」

「よしきた」

「あああああ!! この罰当たり共め! 私を何だと思ってるんですかっ!? 私ですよ!?!?」


 アーノルドは悠々と走り、テペルの首根っこを掴む。それから楽人達に満面の笑みでサムズアップをした。


「助かった」

「へっへ。それはそうとラクトォ! 俺だけハブりやがって、後で覚えてろよ?」

「今回の依頼、殺害だぞ? アーノルド」

「あ、パス。それはそれとして後で覚えてろ」

「ひど」

「ラクト、気を落とすなよ? 私も加勢してやるから」

「ありがとう、トリー」

「アーノルドの方に」

「何でだ」

「ひど」

「あのー……行き先はロークロカでしたよね? もう用意して大丈夫ですか?」


 楽人達が騒がしいからか、空間魔術師であるネスィアが怖ず怖ずと手を挙げて言う。


「お願いします」

「はーい。じゃ、テテナさん、一緒にお願いします」

「うむうむ。任せよ」


 ネスィアともう一人の空間魔術師であるアルビノのアラクネ――テテナが部屋の中心へと向かった。そこには既にある程度魔術陣を描く準備がされていて、完成まで大して時間はかからないだろう。


「てか、どういう依頼なんだ?」

「もうすぐ寿命の龍がいるから、弔いとして戦って殺す」

「龍の弔いは野蛮だなぁ。でも龍かー。戦ってみてー」

「来るか?」

「行かねー」


 アーノルドは戦闘狂だが、殺しだけはしないと誓っているそうだ。そのため今回の依頼も、彼以外の二人と、テペルと加えた四人で向かう。

 そのとき、ノックの音が響く。力強く、無骨な音。


「あれ、特に予定は聞いてないんだけどなー」


 端の方で資料を読んでいた男性が、扉の方へと向かい、開く。そこには干からびた頭を手にした、真っ黒なデュラハンが立っていた。


「や、突然尋ねてすまないな」

「いえいえ。どしました? メーさん」

「シブキ嬢の遣いが来ていると聞いてな。入ってもいいか?」

「どうぞどうぞ」


 メーと呼ばれたデュラハンは、真っ直ぐに楽人達の方へと歩いてくる。近くまで来ると、ぺこりと抱えた頭を動かした。声は鎧の部分ではなく、馬の方から聞こえてくる。


「突然尋ねてすまない。私はメー。……そちらの人魚がシブキ嬢の遣いか?」

「はい。シブキ様の巫女、クスィアと申します。メー様は、シブキ様のお知り合いで?」

「うむ。永らく会っていないが、友人だ」


 メーは戦闘員として所属しているデュラハンだ。楽人も何度か指導してもらったことがある、かなりの実力者。

 首のない馬から鎧が騎士が降りて、クスィアと向かい合うようにソファに座ると、話を続けた。


「シブキ嬢は息災か?」

「はい。先日も……クラーケン様と追いかけっこをしていました」

「……あやつらまだ競い合っているのか」

「あ、ベベル様ともお知り合いなんですね」

「あぁ。昔からあやつらは喧嘩ばかりだったな」

「のうお主ら、もう魔術陣起動し始めたから、さっさと行ってほしいんじゃが」

「ぬっ、もうか。すまない」


 メーの後ろにはいつの間にかテテナが戻ってきていて、申し訳なさそうな顔をしている。

 楽人達は立ち上がり、魔術陣の方へと向かった。


「もしよければ、此度の依頼の内容を尋ねても?」

「はい。ヒバナ様が寿命なので、弔いを」

「――――そうか」


 メーは重苦しい声で、そっと呟いた。それから馬を隣に並ばせると、クスィアに頭を下げる。


「……もしよければ、彼に伝言を」

「必ずお伝えします」

「ありがとう。……其方にどうか、褒美があらんことを、と」


 クスィアは恭しく頷くと、水槽の中に潜った。蹲るように壁に寄りかかったクスィアを、ガースが運んでいく。

 楽人達も彼等の後を着いて、部屋の中心部にできた空間の穴を通っていく。


「ありがとうございました、テペルさん、テテナさん」

「んにんに。気にするでないぞー」

「いえ……」


 穴の向こうは、森の中だった。長袖を着ていても少し肌寒く、辺りには乾いた落ち葉が散らばっている。エレナが無表情のままに駆け回り、落ち葉の崩れる音を楽しんでいた。


「さて、えーっと……こっちの方にですね、ヒバナ様の住居がございます。ロークロカはあちらの方ですね」


 クスィアはまず左の方を指差し、それから前の方向を指した。


「あー、ついでに他の依頼も片付けるんだったか?」

「ん。捜索依頼」


 今回楽人達が請け負ったのは、クスィアからのもの以外に、もう一つあった。

 ロークロカという街に住む、バンリという鍛冶屋からの依頼。

 妻が行方不明になって一ヶ月近く経つので捜してほしい、とのことだ。


「私は先にヒバナ様の元に向かっておきますね。後ほどガースを送りますので」

「よろしくお願いします」

「じゃあ行くか」

「おー」

「うへぇ寒……帰りたいぃ」


 二人と別れ、楽人達は歩き出す。

 道すがら、トリーは上機嫌で鼻歌を歌っていた。それから、楽人の肩を叩く。


「ラクトはロークロカ初めてだよな?」

「あぁ。どんなところかは聞いたことがあるが」


 ――――自由と庇護の街、ロークロカ。

 正確に言うならば、ロークロカ外街。

 地下にあるドワーフと吸血鬼達の国の入り口を囲って繁栄しているこの街は、迫害から逃げてきた二種族が作った街の性質を受け継ぎ、どんなものでも――他者を侵害しなければ――受け入れているらしい。

 そのためかなり雑多だが、治安はそれなりにいいそうだ。

 昼間は居着いた手練れ達による自警団が、夜は強靱な吸血鬼が、鍛冶の得意なドワーフが作った装備を纏って街の安全を守っている。事故にさえ気を付けていれば、平和な街、らしい。それは果たして平和なのだろうか。


「おう、ロークロカは良いところだぞ? 爆弾みたいな街だ」

「不安だ」7

「帰りたい……寒い……」


 トリーの言葉で一気に不安になった。


「そういや、私もお初」

「そうかそうか! では私が案内してやろう!」

「トリーは詳しいのか?」

「何を隠そう、私はこの街で長いこと修行をしていた。なのでめっちゃ詳しいぞ!」

「……爆弾の?」

「あぁ!」


 不安だ。


「最初は何がいい? やはりロークロカと言ったら爆弾――は私達だけか。イカサマ賭博か、闘技場か、いや鍛冶か? しかしお前等は武器をあまり使わんしなぁ……あ、市場には色んなものがあるぞ! 魔術具とかもな! まぁ大体ガラクタだが」

「イカサマ師見たい。イケメン」

「いいだろういいだろう! そうだな……レレレレとか好きそうだと思う。あー……クォツラをもうちょいしゅっとさせて白髪にして緑眼にしてかーなーりーイケメンにした感じか?」

「よい」

「まぁ流れの者だからまだいるかは知らんが」

「美味しいもの奢ってください……財布ない……」

「依頼をしろ」


 楽人も別に仕事が大事だとは思ってないが、彼女等が話すものにも興味がない。とりあえず依頼の話を聞いてから、三人だけで行ってほしい。

 トリーの楽しげな紹介を聞き流しながら歩くこと数分、ようやく街が見えてきた。外壁はあるものの、門は開きっぱなし。外壁の周りにも沢山の露店が出ている。

 喧噪が自棄に大きく、活気のある街だと既に肌で感じた。

 成る程、トリーがこの街を好きなわけだ。丁度一つ、露店が何故だか爆発した。あれが自警団なのだろう、豚の鼻のような紋章が付いた服を纏った人物が、幾人かその屋台に駆け寄っている。

 恐らく、楽人には合わない街だ。絶対疲れる。

 トリーは楽人の様子など気に留めずに、くるりと振り返って三人にこう告げた。


「――――ようこそ、我が心の故郷、ロークロカへ!」

魔王軍のわちゃわちゃしてる感じを書きたかったんですけど、ごちゃごちゃしてますね。だが改めぬ。

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