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第3話 世界の裏側はえげつないものだ

 移動は反重力場を利用した円盤状の乗り物に乗って、番号を半透明のモニターに入力すれば、目的のカプセルまで移動できるのだ。こんな馬鹿広い施設を歩いてなんて移動出来ない。細かい確認作業以外は歩いてなんて移動しない。そして、俺は200層ほど下に降りて行く。



 うーん? 近づくほど騒がしい声が聞こえてきた。やはり、問題になっていたか。


「だから、精神防御をしておけといっただろ!」

「こいつ、もう駄目だぞ」

「ああ、確か立ち会い初めてだって言ってなかったか?」


 上から様子を見るに、怪しい白い仮面をつけた5人の社員が一つのカプセルを囲っているが、その内の一人が頭部を破裂させて倒れている。だから、お子様の誕生に立ち会うのは嫌なのだ。


 社員が集まっているところより少し離れたところに降り立って、俺も白い仮面をつけて近寄って行く。


「ヤマダ。終わったのか。遅かったな」


「ああ、28913番に異常が見られたから対処をしていた」


「お、それは良かった。あそこも後数日でお誕生予定だからな」


 俺のサボりがシステムにバレて引き起こされた異常だったが、皆の説明にはこれでいい。


「今はどの程度だ?」


 作業状況を確認してみる。すると、他の4人が一斉に横に首を振った。カプセルの中を見て、眉をひそめる。


「ヤマダ。頼むよ」


 俺はカプセルの中に向かって手をかざす。その直ぐ後に4人が手順に沿って、お子様を母体から取り出していった。




「ヤマダ。助かったよ。今回のお子様はお元気なようで、俺たちも困っていたんだ」


 そう言って、一人が御包みに包んだお子様を俺に渡してくる。嫌だが、とても嫌だが。これも仕事だ。お子様を受け取った。 


 ギョロリとした目が俺を捉える。俺はその目に手をかざし、目を閉じさせ眠りに誘った。大したことではないが、俺がここに就職できた理由はコレだ。


 いつの頃からか人は、新人類というモノに進化したという。何があったかは歴史では語られていない。突如として人は進化をしたらしい。

 それからというもの、異能が使える人が現れだした。今までの人という生き物は脳の一部しか使用できなかったらしい。

 今では人の脳の殆どの領域を使えるのだ。だから、人の精神や肉体に干渉できる異能を持ち合わせ、その能力を使いこなす者たちが存在している。

 俺も人に睡眠を干渉できるという異能があるおかげで、ここで働けるわけだ。


 そして、俺がお子様の誕生に立ち会う事が嫌だというのは、この異能の所為だ。特に上級階級の方々の遺伝子を持つお子様は異能力が強い傾向にある。

 しかし、お子様は力の制御というものができない。だから、異能の直撃を受ければ俺の足元で頭が吹き飛んでいるヤツのようになってしまうのだ。


 そうならないために、俺たちは皆白い仮面をつけている。それが俺たちの精神を脳を守る役目があるのだが、作業中は邪魔になってしまうので、新人は外しがちなのだ。こいつもこれぐらいは良いだろうと、精神防御の仮面をずらしていたのだろう。


 だが、精神防御をつけていたからと言って、何も不調がないわけじゃない。現に彼らは作業の手を止めて、手が出せないほどだったのだ。今回は頭がねじ切れる程の痛みがあった。前回は笑いが止まらなくなった。あれは本当に困ったなぁ。

 毎回、俺たちは何に試されているのかと思ってしまう。だから、嫌なのだ。


「ヤマダ。そのまま上にお連れしてくれ」


「俺が?」


「目を覚まされると、俺達じゃちょっときついからな」


 毎回俺が連れて行っているような気がする。ため息を吐き、先程乗ってきた円盤に乗って最上階まで急いで上っていった。


 毎回、この役目を押し付けられるのはきっと俺が眠りの異能が使えるからだろう。本当に大したことのない力だ。

 だが、俺がここに就職でき、『ヤマダ』という号を与えられたのは、この異能があってこそだ。ここで頑張りが認められれば、名も与えられると聞くが、そんなモノがあたえられるのは、本当にほんの一握りの者達だけだということは理解している。


「お連れしました」


 最上階の入り口の扉の前で円盤を降りて、声を上げる。その声に反応してシステムが扉を開けた。その先には白い仮面をつけ、スーツを着た男が立っている。


「館長。お連れしました」


 ここの施設の責任者の館長だ。館長は『オオカド サトル』と号と名を与えられた凄い人だ。いや、人として認められたヒトだ。誰からとは俺の口からは言えないが。


「そのまま、お連れしろ」


 え? またか。俺、お偉いさんがすっごく苦手なんだが……。

 館長。俺に嫌なこと押し付けていないですかね。と喉元まで言葉が出たが、なんとか飲み込む。


 御包みの包まれた、すやすやと寝ているお子様を抱えたまま進んでいき、一つ扉を開けた先にある、強化ガラスに仕切られた広い部屋に入って行く。

 そのガラスの奥には若い二人の男女がソファーに寄り添って座っていた。そして、俺には到底買うことも適わない高級なスーツに身を包んだ男性が立ち上がった。


「こちらに顔を見せろ」


 冷たい視線を俺に向けながらそう言われたので、眠っているお子様の顔を見せる。すると、一瞬視線を向けただけで、直ぐに興味をなくしたように、館長の方に声をかけた。


「施設に回せ」


 それだけ言って、依頼者であったD様は奥方様と共に控室から出ていったのだった。

 本当にあの俺をモノの様に見る目は、何度見られても慣れるものではないな。


 施設送りか。どうやら彼らはお子様を気に入らなかったらしい。

 D様が言っていた施設という所は、俺のような者には関係がないので、詳しくは知らない。

 響きからはあまりよくない気がするが、好奇心は持つことはない。知ろうとすれば俺のようなものは、消されて終わりだ。


「ヤマダさん。いつも通りでお願いします」


 館長に言われ、眠っているお子様を揺り籠にいれ、部屋に備えつけられている円盤に乗せる。このあとのことは俺には関わりはない。俺の仕事はここまでだ。




 さて、俺は遅めの昼食でも食べようか。口からモノを食べることができる幸せを噛みしめながら。

 できれば、このまま地下の養殖場の魚の餌にならないように、働いて生きたいものだ。


 いや、きっと何も知らずにVRMMORPGの世界で生きている方が、幸せなのかもしれないな。



 さて、現実の一年はゲーム世界ではどれぐらいなのだろうか。一年だろうか。それとも時間加速を使って二年だろうか。


 いや、契約書には一年と書かれている。

 ゲームの世界では時間遅延され、一ヶ月だったりするのだ。だが家庭用の機器を用いると現実時間で二時間で強制的に現実に引き戻されるので、時間の誤差は少なくなる。


 実に恐ろしい。



 ゲームの裏側で人を人とは思えない扱いをするのが、俺の日常だ。違うな。これが、この世界の日常だ。

 

 

 ここまで読んでいただきましてありがとうございます。

 いつもとは違う系統の作品です。

 利用者と使用者の乖離の激しさが酷いなという感じの世界観です。

 このような作品でも☆評価していただけるとありがたいです。

 

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