序 ヒーラーの女性の困惑
「おい! 結界はまだか!」
前衛でフルプレートアーマーをまとった者が、身の丈より大きなモノからの鋭い爪の攻撃を剣で受け流している。
いや、攻撃が重すぎて耐えきれていない。
「魔術師が二人、炎でやられました!」
一旦体勢を整えるために、結界を張ってほしいと要望を出していたようだが、後方からは、絶望的な言葉が返ってきた。
言葉を放った者は、一番後方から弓を放っている、胸当てだけをしている男性だ。その放たれた矢は空を切り、上空から襲撃してこようとしていた黒い鱗をまとった鳥を撃ち抜く。いや鳥ではない。小型の空を飛ぶ爬虫類のようだ。
「回復は!」
フルプレートアーマーは魔術師の回復を命令するも、返ってきた言葉はさらに絶望的な言葉だった。
「今やっているけど、ザコが邪魔!文句を言う前に、ザコを排除してよ!」
回復役である清楚な白い衣服をまとった女性が手に持っている杖で、襲ってくる翼が生えた爬虫類を追い払う様に振るっている。
その足元には、二人の動かなくなったローブを纏った者たちが倒れていた。
「こっちはこっちで手一杯なんだよ! 大型の竜を一人で相手にしている身にもなれ!」
「だから私は言ったのよ! 前衛が一人だなんて、無謀すぎるって!」
「ヒーラーの腕がよければ、こんなことにはなっていない!」
「お二人とも、ここで言い合いは止めましょうよ」
「お前は黙っていろ!」
「うるさいわよ!」
そして、パーティーは全滅した。
「あー……死にましたねー。デスペナルティの間は戦闘は無理ですね」
とある街の神殿の中、円状に光る床が突如として強く光を放ちだす。そこから、五人の人影が現れた。
先ほど竜と呼ばれるモノと戦っていた者たちが、強制転送されてきたのだ。
「すみません。また足を引っ張ってしまいました」
「あんな数のドラゴンは無理!」
一人は死んだと言いながら陽気な感じだ。ローブまとった二人は、うなだれながら円状に光る床から出てきている。
そして、陽気な雰囲気をまとった弓を背負った者が呆れたような視線を背後に向けた。
「だから無理だって言ったわよね!」
「無理じゃない! ヒーラーがちゃんと役目をこなせていれば、問題はなかった」
「だったら後方の安全確保はしておいて欲しいわ!」
「だから後方に戦力を固めているじゃないか!」
「私は、もう少し前衛の戦力を増やせって言っているの!」
言い合っている白い衣服をまとった女性と、厳ついフルプレートアーマーに視線を向けたのだ。またやり合っていると。
「もう! こんなパーティーなんて抜けてやるわ!」
「勝手にしろ! もっと腕のいいヒーラーと組むことにする!」
「はぁー」
「またですか」
「これ何回目だった?」
喧嘩別れしている二人の間では、三人のため息が響いている。この感じだと喧嘩して、結局組む相手に困り、再びパーティーを組むのだろう。
白い衣服をまとったヒーラーの女性は、空間に向って何かを操作するような行動をする。しかし、その場には何も存在はしていない。
「おや? ログアウトをするのですか?」
「今回はやりたいことがあったから、施設を使って一ヶ月連続でダイブしていたからね。戻るわ」
「そうですか。戻る頃には彼の機嫌も戻っていると思いますよ」
「私の機嫌が戻っていないと思うわね」
ログアウトをするために、空間を押す動作をしているが、何も起こらない。
「あれ?」
何度も空間を押す動作を繰り返す。
「あれ? あれ? あれ? あれ? あれ?……ログアウト……できない」
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