新婚旅行サーシャ編1
「じゃあ行ってきます」
「行ってきます。皆さんあとはよろしくお願いしますね」
レンが産まれておよそ1ヶ月、アルスとフィリアが1歳になってから俺とサーシャは新婚旅行へと出掛けることにした。
アルスは俺の跡継ぎとして色々な人に紹介する必要もあるため今回はちょくちょく戻ってくる予定である。
まぁ1歳でお披露目はかなり早いし、なんならライノス家以外は見せなくてもいいような気がしてきた。
この国では5歳で教会から本洗礼を受ける。
本洗礼は聖都でしか行えないので、国王へのお披露目はその時でも遅くはないだろう。
うん、そうだ、その時でいいや。
現教国国王、アレックス陛下のことは嫌いではないが、別に無理して嫡男を見せに行くほど好きかと聞かれると……
まぁ初対面時から俺にビビり散らかしてたのに、去年の戦争の時には堂々と俺の前に立っていたのは立派だと思った。
だからそれに免じて何かあれば手を貸すつもりはある。
それで十分じゃないかな?
やんやかんやで前国王も俺との約束を守って退位したしね。王家に隔意は無いよ。ほんとだよ。
という訳でアルスを抱いたサーシャと共に聖都へと転移、ライノス家の屋敷へと移動した。
「やぁ、レオくんいらっしゃい。サーシャとアルスもよく来たね」
今日はちゃんと【思念共有】で事前連絡を取ってからの訪問なので、前もって庭で待機していた執事に案内されて屋敷のリビングへと向かうと屋敷の主、ライノス公爵家当主であるアンドレイさんに立って出迎えられた。
本来格下である侯爵である俺に対して公爵家当主が立ち上がって出迎えることなど有り得ないが、まぁそこは家族だからということだろう。
「ご無沙汰しています」
「お父様、お母様、お久しぶりです」
軽く挨拶を済ませてソファに腰を下ろす。
アルスは光の速さでお義母さんに拉致されてしまった。
「ああ……孫可愛いわ……アルスくん、おばあちゃんですよー」
「うーあ?」
「そうそう、ばーばですよ。アルスくんは賢いですねー」
「もう、お母様ったら……」
アンドレイさんもサーシャも微笑ましいものを見るように微笑んでいる。
そういえばアレクセイは居ないのだろうか?
「アレクセイならもう来ると……来たようだね」
俺の疑問に気が付いたのか、アンドレイさんが口を開いたところでタイミングよく扉が叩かれた。
「済まない、遅れたね」
入ってきたのはやはりアレクセイ。腕には子供を抱いており、背後には女性の姿も見える。
「やぁレオ、久しぶり」
「ライノス公爵公子に置かれましてはご機嫌麗しゅう」
「あれ? 僕って嫌われてるのかな?」
「はっはっは、私がライノス公爵公子を嫌うなどと……」
「だったら普通に話しなさいよ」
「失礼では?」
「どの口が言ってるんだい?」
かれこれ久しぶりに会ったのでいつものやり取りを経て普通に会話を始める。
「そういえば初めてだよね。僕の正妻のリリーナと息子のアルベルトだよ」
「お初にお目にかかります。アレクセイ様の妻のリリーナでございます」
「こんちわ!」
リリーナさんは丁寧に、アルベルトくんは元気よく挨拶してくれた。
「お初にお目にかかります。レオ・クリードと申します。僭越ながら、アレクセイ殿とは友人としてお付き合い頂いておりますので、気楽に接して頂けますと幸いです」
左手を背中に回し、右手を胸に当て軽く頭を下げる。
よし、今回は誰にも止められずにちゃんと出来たぞ。
「殿って……頂いてって……ぷぷぷ、キミ本当にレオかい?」
「おいこらちゃちゃ入れんな」
恥ずかしいだろ?
「ばーば!」
「はいはいアルくん、ばーばですよ」
アレクセイ、リリーナさんと会話していると、アルベルトくんは飽きたのかお義母さんの所へ小走りで駆けて行った。
お義母さんも柔らかく微笑んで駆け寄ってきたアルベルトくんを片手でひょいと抱き上げ右膝にアルス、左膝にアルベルトとパーフェクトフォーメーションを組んで御満悦だ。
アンドレイさんはそれを羨ましそうに眺めていた。
「それでレオ、今日はゆっくり出来るのかい?」
「そうだね、お邪魔じゃなければ泊まっていこうかなと」
「邪魔なわけが無いさ」
そうして今日はライノス邸に宿泊することが決定した。
俺とアレクセイ、サーシャとリリーナさんは4人で談笑。
アルスはアンドレイさんとお義母さんに交互に抱かれ不思議そうに2人の顔を眺めていた。
人見知りして泣くこともない。なんて強い子なのだろうか。
アルベルトくんもアルスに興味津々で、話しかけてみたり指でつついてみたりと忙しない。
子供同士で戯れているのを見ると癒されるね。
今度また暇を見つけてライノス公爵家の治める街へ行くことも約束、みんなで夕食をとりその日は解散となった。
「あれ? サーシャもこっちなの?」
「はい。せっかくの新婚旅行なのだから夫婦水入らずで過ごして来なさいと……アルスはお父様とお母様、アルベルトくんと一緒に寝るそうです」
「そっか、大丈夫かな?」
多少の不安が無いとは言わないが、まぁ問題は無いか。
「それでレオ様……」
部屋に入るとサーシャが急にモジモジし始めた。
それを見た俺はピンと来た。こういうのを察する能力はここ最近ですごく伸びたような気がする。
「サーシャ、久しぶりに一緒に風呂入らない?」
「……はい」
サーシャは顔を真っ赤にさせながら頷いた。
よし、正解だな。
2人で他愛もない話をしながらゆっくりと湯に浸かる。
それから体の隅々まで丁寧にサーシャに洗ってもらい、お礼にサーシャの体を隅々まで丁寧に洗わせて頂いた。
そうして、新婚旅行初日の夜はゆっくりと更けていった。




