新婚旅行ベラ編最終話
「ここはアルマン教国西部に位置するクリード侯爵領だ」
いきなり場所が変わったことで混乱している村民たちにここがどこかを教えてやる。
「アルマン教国……」
「一瞬で?」
驚くのも無理は無い。
村のあった場所からここまで普通に馬車で移動すれば数ヶ月は掛かるのだ。
「じゃあ家と畑を出すから」
それぞれの家の前にそれぞれの畑を設置するようにしながら配置を行っていく。
今まで住んでいた村より土地はかなり広いので、希望者には今までより広い畑を用意してやることにした。
「これですぐ生活出来るな?」
「は……はい……」
数時間かけてウルトが頑張って作業は終了、村民たちは喜びよりも驚愕が大きいらしく、目を白黒させていた。
「おい」
「は、はい!」
リーダーも呆然と突っ立っていたので声を掛けると飛び上がらんばかりに驚いて返事をした。
「お前、今日から村長な」
「はい!?」
驚いているが当然ではなかろうか?
やったことは盗賊行為だから褒められたことでは無いが、行動を起こしたおかげでこうやって移住することになったのだ。
そのキッカケを作ったこいつを村長に任命するのは何もおかしくない……はず。
まぁ善し悪しは置いておいて、行動力を評価したわけだね。
「数日中に行政官を送るから、行政官と相談しながら頑張って村を治めるように」
まさに茫然自失といった感じだが、まあいいだろう。
コイツはきっとやる時はやる男だよ。
「さて……ベラ、これでいい?」
「ありがとうございます旦那様。ちょっと想像以上ですが……」
「まぁウルトが関わればそうなるよね」
全部ウルトが悪い。
なんでも出来てしまうコイツが悪いのだ。
毎度想像の斜め上を行くのだから。
「よし、じゃあ帰ろうか」
すでに日は傾いている、帰宅するにはいい時間だろう。
「旦那様」
「ん?」
呼ばれて振り返ると、ベラはなんだか言いづらそうにモジモジしていた。
「どうしたの?」
「この方たちを助けたいとわがままを申したばかりで非常に言いづらいのですが……」
なんだろう?
今は新婚旅行中、ベラのわがままは最大限叶えるつもりだけど。
「言ってみて」
「その……帰宅は明日でもよろしいのですわよね?」
「よろしいですわよ?」
「なら……その……」
ピンと来たね。
なるほどね、そういうことね。
「どこがいい?」
「え?」
「もう一泊したいんでしょ? どこの街がいい?」
この移住がなければ今日も馬車に揺られてリバークに戻りながらどこかで宿泊予定だったのだ、日数に余裕はある。
だからベラは少しでも長く俺と2人で居たいのだろう。
「それは……わがままを聞いて頂いてばかりですので、旦那様にお任せしたいと思いますわ」
「ふむ……なら帝国なんてどう? 皇帝陛下に会うつもりは無いけど、帝都一のホテルとか興味無い?」
どうせならとびきりいい所に泊まろう。
この世界で俺が知っている限り一番ランクの高い宿は帝都にある帝国ホテルだ。
どうせならそこに泊まりたいと思う。
「それは嬉しいのですが……よろしいのですか?」
「なにが?」
「予算的にですわ」
ふむ、今回の旅費として用意したお小遣いはもうあまり残っていない。
先程御者に格好を付けて金貨なんて渡してしまったのが原因なんだけどね。
「問題無いよ。売るものは大量にあるし」
忘れがちだが、【無限積載】の中には魔法付与された装備品が山のように眠っている。
その中からひとつふたつ売り払ってしまえば宿泊費などどうとでもなる。
領地開発資金を得るためにそれなりに売ったのだがまだまだ残っている。
「では……」
「決まりね」
じゃあウルトには帰ってもらおう。
もう一泊してくると伝言も頼みたいのでウルトの姿を探すと、小さくなって用水路の工事を開始していた。
作業中に呼びつけるのもなんだか悪いので作業中のウルトにこちらから接近して話しかける。
「ウルト」
『はい』
「もう一泊してくるから、作業終わったら帰っていいよ」
我ながら酷いことを言っている自覚はある。
しかし俺の転移でウルトを自宅へと送り届けてしまうと出掛けづらいと言いますか……
なので1人で帰って頂きたい。
『かしこまりました。奥様方には私からお伝えしておきます』
「ありがとう、よろしく頼む」
「ウルト様、よろしいお願い致しますわ」
そっとベラを抱き寄せながら【傲慢なる者の瞳】を発動、帝都の中を伺って人気のない場所へと転移した。
「まずは……」
とりあえず資金調達だな。
帝都冒険者ギルドを訪ねて魔法付与された装備品を数点売却、軍資金として大金貨3枚を入手した。
その足で帝国ホテルへと向かいチェックイン。
受付で名乗ると、なんと皇家御用達のロイヤルスイートへと案内されてしまった。
なんでも、もしも俺が訪れた際にはには最高のもてなしをするようにと皇帝からのお達しがあったそうな。
もちろん支払いは帝国持ち。
なんだか俺の行動を皇帝に読まれているような気がしてならない。
これは近いうちに手土産てまも持ってお礼に伺わないといけないよなぁ……
最高の料理、最高のおもてなしを受けて俺たちは新婚旅行最後の夜をそれはもう優雅に過ごし、翌日の昼前に帰宅した。




