新婚旅行ベラ編6
翌朝、少し早く目覚めたので部屋の近くにいた使用人を捕まえて庭まで案内してもらい、軽く剣を振って汗を流した。
浄化魔法を使ってさっぱりしてから部屋に戻り、メイドに手伝ってもらうまでもなくサッサと準備を整えて朝食へと向かった。
「おはようレオくん」
「おはようございますお義父さん、カイルたちも」
先に集まっていたお義父さんとカイルたちに挨拶をして昨日と同じ席に座る。
すぐにお義母さんとベラもやって来て和やかなムードで朝食を食べ始めた。
「それでレオくん、今日はどうするんだい?」
「そうですね、カーン子爵領の村に用事があるので、今日はそちらに向かおうかと」
あの盗賊崩れの村人たちを回収しなければならない。
別に明日でもいいのだが、明日は早く家に帰ってよめーずたちとのんびりしたいのだ。
「そうか……」
「ベラはどうする? 残っていても構わないよ?」
出発すると言ったら明らかに落ち込んでしまったお義父さんの顔が、パッと明るくなり期待のこもった目でベラを見つめ始めた。
「あの方たちを助けたいと言ったのはわたくしですわ。もちろん同行致します」
「そうか……」
またしょんぼりしてしまった。
どれだけ娘溺愛してるんだよ……
転移で来られるからそこまで寂しがらなくても……
食事を終え、【思念共有】を使って領主館まで御者を呼び出発、お義父さんは半泣きだった。
半日ほどかけてカーン子爵領にある小さな村に到着、俺たちを発見してかこの前の盗賊くずれたちが出迎えてくれた。
「決まったか?」
「はい、ここに残っていても未来はありません……生まれ育った土地を離れるのは辛いですが、生きてこそです」
俺の質問に、リーダー格の男が答えた。
生きてこそか、確かにその通りだな。
「全員か?」
「はい。しかし年寄り連中は迷っているようです。自分たちが行っても役に立たないのではないかと」
言わんとしていることはわかる。
けど置いていったところで飢えで死ぬだけだろう。
それなら今まで培ってきた知識と技術を後進の育成に使ってもらいたい。
そもそも、老人は敬い大切にしないといけないと思う。
老害はいらんけど。
「連れていく。年寄りには若い者にその知識と技術を残す義務がある。この村の人間だけでなく、うちの領民にも教えてくれると助かるね」
「お貴族様……」
「じゃあ早速行くか……っとその前に御者と馬車をリバークに戻さないとな」
このまま村人を連れて帰ってしまうと御者が1人で帰らないといけなくなってしまう。それはいけない。
「し、しかしまだ準備の出来ていない者もおりまして……」
「必要無い」
ピシャリと言い放つ。
そもそも準備とか要らないのだよ。
「家も畑も根こそぎ持っていく。そうすればすぐにでも生活は出来るだろ? そうだな、今年と来年の税は免除してやる。その期間は食料援助もしよう。それで再来年からはきちんと税を納めろよ?」
「そんなことが……」
出来るのだよウルトなら。俺には無理。
「そういうことだ。とりあえず俺は御者をリバークに送ってくるから村民を集めておいてくれ」
「ははぁ!」
その場にいた村民全員が平伏する。
こういうのは未だに苦手なんだけど、これも必要なことだと割り切ろう。
早速ウルトに【思念共有】を使い連絡、案の定子供たちを乗せていたので降ろして貰ってから【トラック召喚】でウルトを喚び寄せる。
「ウルト、まずは馬と馬車を乗せるから乗りやすいように」
『かしこまりました』
「これは?」などとザワつく村民たちを無視して馬車が乗りやすいように地面と同じ高さになるように車高を下げさせる。
「乗せてくれ」
「こ……これにですかい?」
御者はおそるおそる馬を進ませてウルトの荷台へと入っていく。
「一度閉めるがすぐに開ける。慌てないように」
それだけ注意して観音扉を閉じた。
「じゃあベラ、行こうか」
「はい」
ベラの手を握って転移を発動、リバークから2キロほど離れた街道の脇へと移動した。
すぐに【トラック召喚】でウルトを喚びだして馬が真っ直ぐ出てこられるように箱の向きを変えさせてから扉を開いた。
「着いたぞ」
「一体どこに……」
御者は困惑しながらも馬を進ませてウルトから降りる。
降りてすぐに遠目に見えるリバークの外壁を見て唖然として固まってしまった。
「ここからなら1人で帰れるだろ?」
「は……はい……」
「じゃあここでお別れだな。今までご苦労さん」
ポンと御者の肩を叩いてやると、ようやく正気に戻ったようだ。
「あ、あの!」
「そうだ、これチップな」
1枚の硬貨を指で弾いて御者に向けて飛ばすと、落とさないように慌ててキャッチした。
「き、金貨!?」
「誰にも言うなよ? じゃあな」
突然渡された金貨を見ながら呆然としている御者を残して、俺たちはサッサと先程の村へと転移で戻って来た。
「おお、戻ってこられた」
「急に消えたり現れたり……一体どうなってるんだ?」
村に戻ってくると、そこには既に多くの人が集まっていた。
「これで全員か?」
「申し訳ございません、まだ……」
残念さすがにあの間に全員集合は無理だったか。
まぁ別に問題は無いか。
「おい、お前」
リーダー格の男を呼んで俺の前に来させる。
「家と畑の回収を行う。誰の家かと誰の畑かを教えてくれ」
「か……回収?」
「いいから言われた通りに」
リーダー格の男を伴って村の中を進み、これは誰の家、これは誰の畑と確認しながら全て【無限積載】にウルトが積み込んでいく。
俺なら全部覚えることは不可能だが、ウルトなら大丈夫だ。
1時間ほど村を回ったところでほぼ更地になったので村民の集まっている広場に戻ってきた。
「じゃあ今から移動を始める」
ザワつく村民を再び無視してウルトを巨大化させて順番に乗り込ませていく。
全員が乗り込んだことを確認して、俺とベラはこの村の住人の住む予定の土地へと転移、すぐにウルトを召喚して村民たちを降ろした。
「ここは……」
やはり理解出来ないのだろう、全ての村民は辺りをキョロキョロ見回していた。




