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新婚旅行ベラ編4

 リバークからベラの実家まで馬車で移動する途中、小さな街で一泊した俺たちは再びベラの実家を目指して進んでいた。


「日が落ちるまでには到着すると思いますわ」

「そうなんだ。どうする? そのままベラの実家に行く? それとも街で一泊してから?」

「街で一泊してからがいいですわ……実家ですとその……」


 なに? 実家苦手なの?


「夜は別々の部屋で寝ることになりかねませんので……」

「つまり一緒に寝たいと?」

「言わせないでくださいませ……」


 顔を赤くしてそっぽを向くベラらとても可愛い。これが萌えというやつか……


 昨日の盗賊の一件以来、魔物や盗賊に襲われることも無く度は順調に進んでいく。

 御者の男に聞いてみると、リバークから続く街道は食料を運ぶ大切な道なので冒険者への報酬を高く設定してあるのでかなり安全になっているらしい。


 そんな中で盗賊やろうとしていたあの村の人たちは余程追い詰められていたのだろう。


 いくらリバークからそれなりに近い村とはいえ、金が無いと食料は買えないからね。


 何度かの休憩を挟みつつ進み、ベラの予想通り日が落ちる前にはベラの実家のある街、イーファの街に到着した。


「この街一番の宿の前で降ろしてくれ」

「了解です!」


 御者に任せて街一番の宿へ、今日も大銀貨を握らせて適当な宿で休むように伝えて御者と別れる。


 もしかしたらこの旅行2人きりで過ごせる最後の夜になるかもしれないということで、その夜は張り切った。


 俺もベラも息も絶え絶え、眠りについたのは深夜3時を回ってからだった。


「腰が……痛いですわ……」


 翌朝、目が覚めると隣で体を起こしたベラが腰を摩りながら回復魔法で自分の腰を癒していた。


「おはようベラ」

「おはようございます旦那様」


 恥ずかしい姿を見られたと思ったのか、頬を染め顔を逸らしてしまう。

 朝からそんな姿を見せられたら……辛抱たまらん。


「旦那様、酷いですわ」

「ごめんって」


 湯浴みを済ませ、2人で向き合って宿で朝食を食べる。

 ベラは咎めるような目線で俺を見てくるが、口元が緩んでいるので怒ってはいないのだろう。


「じゃあ行こうか」

「はい」


 食事を終えた俺たちは宿を出て領主の館へと徒歩で向かう。

 これは俺の要望で、ベラの街を眺めながら歩きたかったのと、妻の実家を訪ねる心の準備のためだ。


 結婚する際、ベラの実家にはなにも言っていない。

 当時13歳の女の子を親の了承も得ずに勝手に妻にしたのだ。


 これは殺されても文句は言えない気がする。

 俺なら殺っちゃうかもしれない。いや、殺るね。



 街を案内してもらいながらゆっくり歩くことしばし、領主の館が見えてきた。


「旦那様、あそこです」


 ここまで来る道中、色んな人に声も掛けられた。

 やはりベラは領主の娘、聖女として知名度が高いのだろう。

 隣を歩く俺に殺気の籠った視線を向けてくる奴もいた。

 文句あるなら言ってみろ。ベラは俺のだ!


 真っ直ぐに領主の館へと進むと、立派な門とそれを守る兵の姿が見えてきた。


「お嬢様!?」

「戻りましたわ。お父様に取次をお願いします」

「た、ただちに!」


 2人居た門番の1人が慌てて館に駆け込んで行く。

 残った門番も緊張しているのか、直立不動で立ったままだ。


 少し待つと、執事のような初老の男性が玄関から姿を現して俺たちを中へと案内してくれた。

 そのままリビングと思われる部屋に通されると、そこには30代半ばに見える美男美女が俺たちを待ち構えていた。


「ベラ!」


 男性が立ち上がり、ベラに駆け寄り抱き締める。

 女性の方も男性に続いて傍に寄ってきてベラの手を取った。


「お父様、お母様、ただいま戻りました」

「心配してたんだよ。勇者と旅に出たと思ったら教国で結婚するだなんて……手紙を読んだ時には驚いたよ」

「その節は申し訳ございません」

「いや、責めているわけではないんだよ。それで……」


 男性の視線が俺へと向けられる。

 その目には恨みやら殺意やら色々と込められているように感じられる。


 今回ばかりは目を逸らせないし、反論も出来ない。

 拳でも魔法でも、甘んじて受けようと覚悟して来た。


「お父様、お母様、紹介します。こちらがわたくしの旦那様です」

「レオ・クリードと申します。この度は……」

「待って欲しい」


 サーシャから習った貴族式の礼で挨拶をしようとすると遮られた。


「あなたの方が爵位は上、頭は下げないで頂きたい」

「はぁ……」


 そんなルールがあるのだろうか?


「申し遅れました。私はイーファ男爵家当主、ギラン・イーファと申します。こちら妻のクララです」

「侯爵様、お会いできて光栄です」


 ギランさんは左手を背中に回し、右手を胸に当てて軽く礼をすた。


「丁寧な挨拶痛み入ります。改めましてレオ・クリードと申します。この度は突然の来訪、誠に申し訳ございません」


 俺も改めて左手を背中に回して右手を胸に当てる。

 先程頭を下げるなと言われてしまったので軽く顎を引くに留めておいた。


「いえそのようなことは……まずはどうぞお掛けになってください」

「失礼します」


 ベラと並んでソファに腰を下ろす。

 テーブルを挟んで対面にギランさんとクララさんも腰を下ろした。


 すぐにメイドがお茶を運んできて俺たちの前に配られる。


「それでクリード侯爵殿、今回はどのようなご用向きで?」

「はい。単刀直入に言います。私の領地で働きませんか? 具体的には、代官職を任せたいと考えています」

「代官……ですか?」


 今、クリード侯爵領ではヒメカワ伯爵領との間に大きな街を建設中である。

 そこを俺の代わりに治める代官をイーファ男爵に任せたいとはなしをする。


「私たちは小さな家と畑でもあればと思っていたのですが……」

「そんな勿体ないことは出来ませんね。来てもらうからには働いてもらいます」


 領地経営の経験とノウハウを持った人材に畑仕事なんて任せている余裕は無い。


 ウチは侯爵家ということで領地は無駄に広いのだ。治める人手が足りないのだから。


「分かりました。間もなく王国より領地と爵位の没収、退去の命令が下るでしょう。その際はよろしくお願いします」

「ありがとうございます。ただ、一つだけ条件と言いますか、飲んで頂きたい事があります」

「何でしょうか?」


 俺はマークに言われていたことを伝える。


 初代代官はギランさんに任せるが、次代の代官には俺とベラの子供を据えるということだ。


 領都から離れた代官地を治めるにも俺の血が入った子の方がいいんだってさ。


 なので、イーファ家の跡継ぎは代官を継げない。

 その変わり、代官地での重職、もしくは領都で役職を与えるという話をした。


 もちろん、どちらを選んでも世襲は出来るようにする。


「当然のお話ですな。問題ありません。ウチの息子にも配慮して頂きありがとうございます」

「ご理解頂き感謝します」

「いえ、私も領地持ちの貴族です。遠隔地の代官にクリード侯爵殿の血が入った者が就くのは当然だと思います」


 ギランさんは一度言葉を区切って姿勢を正した。


「改めまして、よろしくお願いします」


 ギランさんとクララさんは深く頭を下げた。

 ベラもそちらに移動して一緒に頭を下げている。


「頭を上げてください。イーファ男爵、これを」


 頭を上げたギランさんにタブレットを手渡し使い方を説明する。

 王国からの命令が下された時、速やかに俺たちと連絡を取るためだ。


「こんな貴重なものを……ありがとうございます」

「事が済んだら返して貰いますからね?」


 さすがにあげるわけにはいかない。

 アンドレイさんから返してもらう時も中々に返したがらなかったので出来れば速やかに返してくれるとありがたい。


 まぁ遠く離れた娘や孫に一瞬で連絡が取れるアイテムだから手放したくないのはわかるけどね。


「分かりました」

「では難しい仕事の話はここまでです。あとは家族として……」


 俺がそう言った瞬間、ギランさんの目が変わった。


「ではクリード侯爵殿、失礼を承知で言わせて頂くが……」


 それから暫くの間、俺はギランさんの嫌味を素直に聞き続けた。


 ごめんなさい……

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