変態
「良かった! くりちゃんに会えたよ!」
「先輩……くりちゃんは辞めてくださいって前も言いましたよね?」
窓を開けると、変態先輩は嬉しそうに俺に話しかけてくる。
こいつ黒幕だよね? なんでこんな楽しそうなの?
「いやぁ、くりちゃんの領地の場所はなんとなくは知ってたんだけど、この大陸広すぎない? 結構迷って何日もかかっちゃったよ」
「まぁ広いは同意っすけど、だからくりちゃんは辞めて」
ほら、後ろでジェイドがなんとも言えない表情でこちらを見ているから。
隣ではイリアーナが「くりちゃん……」って呟きながらニヤニヤしてるから。
「分かったよレオっち。それよりレオっちは大型なんだね、なんで俺は4トンなんだろうね?」
「いや、知らねっすよ」
「俺も大型が良かったなー。4トンベッドは付いてるけどちょっと狭い気がするんだよね」
大型と4トンじゃ大型の方がちょっとだけ広いから気のせいじゃないよ。
「まぁなんにしても会えてよかった! 戦争? に来てるって話だったから会えるのはまだ先だと思ってたよ」
「先輩も戦場に居たんじゃないんですか? てか、先輩が黒幕でしょ?」
変態は黒幕? と首を傾げる。
よめーずがやれば可愛いけどアラフォーのイケおじがやっても可愛くない。
「黒幕ってなんだ?」
「アレでしょ? 先輩が兎斗たちに暗示だか催眠だか掛けて俺とぶつけるように仕向けたり、王国の国王とかにも掛けて戦争吹っ掛けるようにしたんでしょ?」
「ちょっと待って!? なんでそんなことになってるの!? 濡れ衣だから! 俺無罪!」
違うの?
後ろの兎斗と佳奈の顔を見るが、2人ともキョトンとした顔をしている。
嘘をついた感じでは無いな。
「こいつらが言ってましたよ? 黒幕は朝立さんだって」
「よし、落ち着いて話し合おう!」
なんだろう。この変態も嘘ついてるって感じはしないな。
「まず妹尾さんたちに能力を使ったのは認めるよ。でもこれは俺の能力の実験ってことでちゃんと合意の上です!」
「そうなの?」
2人を見ると、頷いた。
てっきり騙し討ちか不意をつかれて暗示を掛けられたものとばかり思っていたのだけど、合意の上だったのね。
「ただ、本来ならすぐに効果が切れるはずなんだけど、その3人はレオっちに対する想いが大きすぎたのか効果が切れなかったんだよね。不可抗力です」
「おい……」
「でも本当に無理矢理はしてないよ? 無理矢理、ダメ、絶対!」
「そうっすよね。先輩は変態だけどさすがにそこら辺はちゃんとしてると思ってるっす」
「レオっち絶対俺が無理矢理やったと思ってたよな!?」
ふむ、これじゃ悪即断は出来ないのかな?
「あー……じゃあ国王とか宰相とかに暗示を掛けた件は?」
「そもそも掛けてな……いや、掛けたな」
はい。ギルティ。
「待って! それはダメ!」
【無限積載】から強欲の剣を取り出してチラ見せすると、変態は大慌てで両手をぶんぶん振った。
「掛けたよ! 掛けたけど、レオっちたちが思ってるのと違うから!」
「違うとは?」
欲望を増幅させて教国に戦争を仕掛けさせる以外に何があると言うの?
「頼まれたから掛けたんだって! こういうのは出来るかって聞かれて、出来ますって答えたらじゃあ掛けてくれって! 国王や宰相以外にも同じの何人かに掛けたよ!」
「詳しく」
「いや……それは……」
言えないと?
じゃあ……やっぱり有罪で。
「だからチラ見せしないで! 普通に怖いから!」
「判決、有罪」
ここは俺の領地だから俺が法だ!
「異議あり!」
某ゲームのように、変態は姿勢よく右手を挙げた。
「却下します」
「ひでぇ! でもそう言いながらも聞いてくれるのがくりちゃんのいいところ!」
「くりちゃん禁止令を破った罪で晒し首で」
「それはごめんて」
ここまでの会話で思った。この変態、多分無罪だわ。
「しょうがない。聞くだけ聞いてあげますよ」
「ありがとう! 男としてこれは黙っていようかと思ったけど、国王のプライドより俺の命が大事! 俺が国王たちに掛けたのは確かに欲を増幅させるスキルだけど、支配欲とか征服欲とかそんなんじゃないよ」
「何を増幅させたんですか?」
「性欲」
あれ、やっぱ有罪かなこれ……
「そんな目で見ないで!? やめて! そんな蔑んだ目で俺を見ないで!」
「いいから続きおなしゃす」
「このノリ飽きてきたな? 分かったよ。最近加齢で性欲も食欲も落ちてきたんだって。だから俺の能力で取り戻せるならってことで頼まれたんだ」
食欲もなんだ。ただ性欲モンスター製造してたわけじゃないんだな。
「じゃあこの戦争にへんた……先輩は関与していない?」
「してないよ! 異世界召喚されてウッキウキでレベル上げてたらそんな事頼まれて、戦争がどうのこうのって話になったのはその後だから!」
それ食欲と性欲満たして支配欲に目覚めたんじゃね?
でもそれは変態には責任あるとは言いきれない……
「俺だってビックリだよ! レベル上がって楽しくなってきたところでいきなり戦争とか言われてビックリだよ! しかも相手はレオっちだよ? 争う気なんてそもそも無いわ!」
この変態、こんな性格だからな、確かに人と争うのは好きなタイプでは無い。
「なんでここに?」
「逃げて来た。俺だって日本人よ? 日本人の俺が戦場の空気に耐えられるわけ無いじゃん?」
まぁ……それは……
そういう空気や人を殺すことに慣れてしまっている俺がおかしいだけなのは理解出来る。
先代勇者たちを斬った時点でそういうのはね。
「だからなんか押されてててんやわんやしてたからどさくさに紛れて逃げて来た」
「なるほど」
そこは理解出来た。
あとは……合意の上とはいえ兎斗たちに暗示を掛けた結果俺が大変な目に遭った事だけだな。
「でも俺、先輩が兎斗たちに暗示を掛けてくれたお陰で大変な目に遭ったんですけど?」
「それはごめんなさい」
変態は腰を90度、綺麗に頭を下げてきた。
「言い訳させてください」
「聞きましょう」
「召喚された者同士、お互いの能力をお互いで試したんです。俺も矢場井さんの料理食べたり妹尾さんの【スキル封印】食らったりしたんです」
再び後ろを振り返り2人を見ると、肯定している。
先程聞いた通り、無理矢理掛けたわけでもないから……情状酌量の余地ありかな?
「ところで、あのボクっ娘は?」
「ボクっ娘? ああ、瞳ですか、瞳なら領都の守備に就いてますよ」
「そっか、良かった。姿が見えないからちょっと心配してたんだよね」
先輩は安堵の息を吐いた。
先輩、変態だからそういう属性好きだからなぁ……でもボクっ娘じゃなくておとこの娘なんだよな。いや、むしろ好きか?
「つまりまとめると……兎斗たちに能力を使ったのはお試しであって悪意は無い。国王たちにも頼まれたから食欲や性欲増幅の暗示は掛けたけど戦争には関わっていない。間違いないですか?」
「間違いないです!」
ふむ……
「それで、なんでここに? これからどうしたいんですか?」
「こんな状況だから頼れるのはレオっちしか居ないと思って助けてもらいに来ました! これからは……雇って欲しいかな」
雇う? 俺が? 変態を?
「お願い侯爵様! 俺、魔力も戦闘力もあんまり高くないんです! どうか雇ってくださいな」
変態は再び頭を深く下げる。
えぇ……魔力も戦闘力も高くない変態を雇うの?
「なんでもしますからお願いします!」
「ほぅ……なんでも?」
さて、どうしようかな?




