家族会議
リビングに居たよめーずたちにも勇者が居るかもしれない、対策はある。という話をし終わりそろそろ夕食……といいう時間にウルトから連絡が入った。
『マスター、回収完了致しました。【トラック召喚】をお願いします』
「分かった」
【トラック召喚】を発動してウルトを喚び戻す。
しかし回収? 材料かなにかか?
『マスター、お待たせ致しました』
「別に待ってないよ。それで何を回収してきたの?」
『世界一強固な要塞です。たまたま空き物件でしたので回収してきました』
世界一強固な要塞? 空き物件? なんでそんなのが空き物件……ああ、察した……
「それはどうかと思う」
『ですが最善です』
それは理解出来る。
「そんな大きいもの家には置けません! 返してきなさい!」
どこに置くんだよ。
『マスター、偶然にも先日領都内の整地した場所がこれと同じくらいの広さなのです。そこに設置すれば問題無いかと』
「ウルト、それこうなること分かってやってた?」
『何のことでしょうか』
しらばっくれてるけど、絶対分かってやってるよね?
思えばウルトの中の人は天使なんだし、勇者召喚が行われたのなら何かしらの情報をキャッチしていてもおかしくない……
なんで俺に報告しなかったのかは謎だけど。
もしかしてエンジェルネットワークの情報は人間には流しちゃダメとか?
『マスター、どうか許可を』
うーん……いや、分かるよ? これが最善なのは分かるよ?
けどなんだか……心情的に……
「レオ様? 一体なんのお話でしょうか?」
俺が腕を組んで考えていると、サーシャが心配そうに話しかけて来た。
そうだ、実際避難するのはサーシャたちなんだからサーシャたちの意見は大事だな。
マークたちには魔王城だと言わなければバレないだろ。バレるかな?
「うん。ウルトがね? なんかね?」
「はい?」
決して! 何一つ! 俺は悪くないんだけど……
悪くないんだけど言い出しづらい。
『魔王城を回収して来ました。これを領都内に設置してそこに避難すれば皆様の安全は確保出来ます』
お前が言うんかーい!
そんでやっぱり魔王城やないかーい!
「……」
ほら、いたたまれない空気になった。だから言いたくなかったんだよ。
サーシャを見てみろ。もう驚愕を通り越して意味わからなさすぎて目が点になってるぞ。
あの顔可愛いな……今キスしたら怒られるかな?
「コホン……まぁこういうわけでウルトがいつも通りやらかしたんだけど……みんな魔王城に避難したい?」
勇者が居ない場合、俺に対して最も有効な手段は人質だ。
ここや領の庁舎では襲撃の不安があるのは事実。だからここでも庁舎でも無い場所に拠点を設置するのは良策だと思う。
その拠点が強固であればあるほどいいとは思う。
本来なら領都内に建てられる俺の屋敷が一番なんだろうけどね。まだ建設始まってもいないからね。
だけど魔王城は……ねぇ?
「なるほど……」
「それは……」
「安全だとは思うッスけど……」
全員微妙な表情だ。
ソフィアとアンナはともかく、サーシャ、ベラ、イリアーナの3人は囚われていた城でもある。抵抗があって当然だろう。
「それにウルトのことだ、どうせ魔王城の外壁とまだ残ってる石材を使って領都を囲う外壁でも造るつもりなんだろ? そこに領内各地で開発に勤しんでいる領民を纏めて領民を守ると同時に一気に領都の開発を進める……こんなところか?」
『さすが我がマスター。その通りにございます』
そんなところだろうと思った。
これならもし万が一外壁を破られても魔王城で籠城出来るし。
各地の村もまだ開発に着手したばかり、それなら数ヶ月放置してもなんとか……取り戻せるよな?
しかしさすがはウルト、俺の中の優先順位を分かっておられる。
正直、俺はよめーずと比べると領民の命なんでどうでもいい。
それどころか王国が滅びようが教国が滅びようがサーシャたちの方が大事なのだ。
もちろんよめーずに危険が及ばない範囲であれば領民やアルマン教国国民を守る意思はあるよ?
あくまで俺の中で明確に優先順位がついているだけだ。
だけど、サーシャたちは違うだろう。
俺なら多数の領民が人質にされようと見せしめに殺されようと気にしない。
だけどサーシャたちは……
サーシャたちなら投降してしまう可能性が高い。
だからウルトは人質作戦を取られないように領民ごと魔王城と外壁で囲ってしまおうとしているのだ。
故に、最善。
お気持ち以外に反対する理由が見当たらない。
「分かりました。魔王城に避難します」
「サーシャ様、よろしいのですか?」
「はい。思うところが無いとは言いませんが……レオ様もウルト様も私たちを絶対に守るという意思の下行動してくれています。私たちは今戦えません。ならばレオ様が安心して戦えるよう安全な場所に避難することこそが今私たちにできるレオ様を支える手段だと思います」
サーシャがみんなに語りかけるように話すと、みんなも頷いてくれた。
「そうですわね。異存はありませんわ」
「確かに今の私は戦えぬ身……せめてサーシャ様だけはお守りします」
「ソフィア、あなたが倒れてもレオ様はお辛いのですよ?」
「それは重々承知の上です」
「そうならない為にも、避難しておきましょう」
「はい」
話は纏まったな。
アンナとイリアーナが発言していないな……
アンナはついてくるつもりだろうから分かるんだけど、イリアーナはどうしたのだろうか?
「レオ様、いい?」
そう思っていると、イリアーナが挙手して発言の許可を求めてきた。
そういうシステムじゃないから好きに喋ればいいんだけど……
どうしたのかな? 嫌なのかな?
「どうぞ」
「あたしもレオ様について行く。治癒士の居る軍はとても強い」
「ふむ……」
確かに俺も回復魔法は使えるが、勇者を警戒する以上自軍の回復に魔力を回せる余裕は無いかもしれない。
諸侯軍とはいえ自領の民、回復できる手段があるのなら回復してやりたいが……
戦場に連れていくのは少し怖いな。
「なら自分がイリアーナさんを護衛するッスよ! 自分が護衛に付いて後ろの方に居れば安全ッス!」
「それに、お父さんとお兄ちゃんも居る。安全」
確かにジェイドとフィリップなら何を置いてもイリアーナを守るだろうな。
それこそ俺を見捨ててでも守ってくれそうだ。
それなら……大大丈夫かな?
「分かった。けど2人共自分の身の安全を最優先にしてくれ」
「了解ッス」
「かしこまり」
なんだろう、時折イリアーナは不思議な言葉を使うな……
まぁこういうのは大抵リンのせいだろう。大体リンが悪い。
それから夕食を食べてから各自避難の準備を始めた。
使用人たちにも一緒に避難するか聞いてみたが、彼らの大半はこの屋敷を守るために残るらしい。
数人のメイドがよめーずのお世話のためについてくるとの事なので彼女らにも避難準備の指示を出しておいた。




