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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
8/82

チャトランガ

「ハクタカ、急に時間ができた。街に出てみないか」


役所から帰って来たハグムにそう誘われたのは、翌日の昼下がりであった。


「街?」


「君がここに来てから、まともに街の見物ができていなかったであろう。君の新しい服なども買ってあげたいし、一緒に見に行こう」


「いいんですか?」


「ああ」


ハクタカはぱっと顔を明るくした。


玄関でハグムを待っていると、いつものように外套を羽織ったハグムが現れたが、さらにつばの大きい日差し帽を深く被っていた。


「あれ、今日はそんなに日ざしは出ていませんよ?」


ハクタカは、外の天気を見ながら、ハグムに尋ねた。


「あぁ、いいんだ、気にしないで。さあ、行こう」


ハグムはハクタカの背中を押して、外に行くよう促した。





街はハグムの家から五キン<約五キロメートル>程度離れたところにある、役所と王宮に近い国一の繁華街である。

街は周りの農村と違い、人も多く、かなり賑わっていた。

大通りには色とりどりの品揃え豊富な店の屋台が立ち並び、食料だけでなく香料や薬剤・雑貨・道具などのさまざまな匂いが入り混じっていた。

屋台だけではなく、それらの背後には老舗の店構えもあった。


「うわぁ、すごい。こんなに人がいるところ、俺、初めてみました」


人とぶつからないように避けながら、ハクタカは辺りを物珍しそうに見渡した。


「はは、それは良かった」


ハグムは慣れたように街を歩き、子供服売り場の店に差し掛かかったところで店の中の前にいた女に尋ねた。


「おかみ、この子の背丈に合う服を見繕ってくれないか」


「あいよ」


振り向いた店の女は、ハクタカの身長や腰周りをまじまじ眺めながら、右腕がないことと、着ている服が簡素な布一枚であることに気づき、少し怪訝な顔をしつつも、店の奥から、立派な刺繍が施された色彩豊かな絹の服を十着くらいだろうか、ひっぱり出してきた。


「うちは庶民の服は売ってないよ。こういう位の高い人が着るような綺麗な服を仕立ててんだ」


店の女はちくり、と嫌味を言った。

ここは場違いだ、と焦ったハクタカをよそに、ハグムは、何着かハクタカの目の前に服をかざして、見比べた。

ハグムは、ハクタカを見る時、毎回顔をうんと近づけるのであった。

緊張して顔が赤くなっているのをハグムに悟られないよう、ハクタカは横を向いた。


「ん。いいね。ハクタカはどう思う?」


「え?あ、はい。俺も、いい服だと思います。これなんか、すごく鮮やかで…」


目の前に置かれた一着を、ハクタカは眺めた。

男物の絹の服だが、領主の息子のものよりもはるかに肌触りもよく、上等な服だ、と思った。


「そうか」


短くそう言ったハグムは、女に差し出された服を指差して、言った。


「おかみ、そこの、すべていただこう」


面食らったような顔で、女は聞いた。


「あ、あんた。金、出せるのかい」


「ああ、ここに」


懐から金を出そうとするハグムの横で、ハクタカは固まった。


(え?)


ハクタカは耳を疑った。


(今、『すべて』って言った?)


ハクタカは、ハグムが金貨を女に渡すのを見ると、これらの服が、とんでもなく高額であることが分かった。

女は嬉しそうに金貨をしまい、丁寧に受け取り用の薄い巾着袋に服を全部入れて、ハグムに渡した。


「まいどあり!お目が高い、これ、入荷したばかりの高級な絹で作った代物達でさ。今後もご贔屓に!」


「ありがとう」


ハグムは服の入った袋を、そのままハクタカに渡そうとした。


「あ、あの、いただけません。こんなに高い服。一着すら、俺にはもったいない…」


「はは、似合っていたじゃないか。持たぬというのなら私が持っていくぞ」


ハグムはハクタカの意見をものともせず、さっさと前を歩いて行った。


「え、ちょっ…待っ」


ハクタカは、人混みの中、ハグムについていくのがやっとであった。


「なんで今日はそんなに早く歩けるのですか!」


知らない道を歩く時は毎度慎重に足を運んでいるのに、普通の人の歩く速さよりもさらに速く進んでいくハグムに向かってハクタカは叫んだ。


「街っていうのは人の隙間を進むだけで自然と歩けるものさ。便利だろう?」


さらり、とハグムはそう答えた。






ハグムは街の店の場所が分かりきっているようで、今度は靴の店の前に着くと、また店の者に尋ねた。


「この子に合う靴を探しているのだが」


「かしこまりました」


店の男は早々と店の中を行き交い、五足ほど、これまた上等な靴を持ってきた。

どうやらハグムが行く店々は、すべて上物を扱うお店らしい。


「履いてみて」


ハグムにそう言われたが、ハクタカはこの靴は一体いくらするのかを想像するだけでも恐ろしくて、靴の前で呆然と立っていた。


「何やってる、ほら」


ハグムは屈んで、ハクタカの足を優しく持って、靴に滑らせた。

物心ついたころから人に靴を履かせられたことがなかったハクタカは、ひゅ、と息を吸って、止めた。

驚きと戸惑いで体が硬直したのと同時に、顔が火照るのを感じた。


「ぴったりだな。これと、これらも全部もらおう」


ハグムのその言葉に、一瞬止まりかけた息を吐き、まさか、と青ざめ、ハグムが店の男に声をかける前にハグムの前に立ちはだかった。


「あの!靴はこれだけでいいですから!」


「え?しかし雨の時なども…」


「これだけがいいです!」


ハクタカは履いている靴を指差して、強く主張した。


「あ、他のは気に入らなかった?じゃあこれだけいただこうか」


ハグムは店の男に金貨を渡したが、ハクタカはこの靴もとんでもなく高額の靴だと分かった。


「次は、と」


踵を返したハグムに、ハクタカは声を高くして言った。


「あの!一旦あそこで休憩しませんか?俺、疲れちゃって!」


立ち並ぶ店のはずれにある小さい食堂を指差し、ハクタカはハグムに提案した。


「そうか?ああ、いいよ。少し休憩しようか」


食堂は調理場が剥き出しで、竈門は赤々と火が燃え、黒い深鍋を店主が豪快に振っていた。

簡素な木造作りであったが、屋根付きで四つ机が並んでいた。

二人は向かい合って椅子に腰掛け、ハクタカはやっと息をついた。


「なんでも注文していいよ」


ハグムは料理名が書かれた品書きをハクタカに渡した。


「あ、えと…」


ただ、ハグムがこれ以上金を出さないように必死だったハクタカは、じつはそこまでお腹はすいていなかった。

ふと、ハクタカは、暑さも増してきたのに、外套も日差し帽も脱がないハグムに、疑問をもった。


「暑くないのですか?」


「あぁ、まあ、少しね」


ハグムの顔には汗が滴っている。


「ここには屋根がありますし、帽子くらい…。俺がお取りします」


ハクタカがそう提案し立ち上がると、間はあったが、じゃあ少しだけ、と言ってハグムは自ら帽子をとった。


「お客さん、ご注文は?」


食堂の女将が二人に尋ねた時だった。


「あれ、ま!ハグム様じゃねえかよ!」


隣に座っていた男の客のひとりが、二人が座る机に身を乗り出した。


一瞬、しまった、という顔をハクタカに見せたハグムだったが、その素振りは男の客には見せず、こんにちは、と軽く会釈した。

すると、食堂脇の道を歩いていた人々も、ハグム様だ、ハグム様だと囁きながら次々に食堂内に入ってきて、あっという間に二人が座る机の周りには人だかりができた。


「いやぁ、こんな日中に街にいらっしゃるなんてめずらしい!今日はどうされたんで?」


最初に声をかけてきた男が、ハグムに尋ねた。


「ああ、この子に街をみせようと思ってね、今私の家で働いてくれているハクタカだ。ハクタカ、皆さんに挨拶して」


「こ、こんにちは」


ハクタカはこれだけ多くの人間に囲まれたことがなく、緊張しながらもハグムに言われるがまま、お辞儀をした。


「ハグム様!この間はどうもありがとうございました。お陰様で村の田んぼ全部に水が行き渡って苗もすくすく育っております!」


「ハグム様、うちの息子、新しく建った医院で治療を受けられて、完治したんですよ。その節は本当にどうもありがとうございました」


「ハグムさま!おれ、たくさんほんがよめるようになったよ!」


「こないだサマル峠の貸馬屋の馬小屋改築の修繕がやっと終わりました、おかげさまで商人、旅の者も助かっています、ありがとうございます、ハグム殿」


「カヌマ鉱山の者です。発掘に際して多くのご助力をいただいたと上の者から伺っております。仕事も以前よりはるかに楽になりまして、いつかお礼をと思っておりました」


老若男女がハグムに詰め寄り、口々にお礼を言っていた。


「それは良かった」


ハグムは声をかけてくる一人一人に挨拶をし、対応していると、


「これは食事どころじゃないね」


食堂の女将はハクタカに目配せし、苦笑いしながら食堂の奥に戻って行ってしまった。


しばらくしてやっと、人はまばらになり、ハグムとハクタカはまた二人きりになった。

農民らはハグムにぜひ食べてほしいと、農作物を置いていき、商人らはぜひ使ってくれと、大小様々な古今東西の品物を置いていき、二人が座る机はもので溢れかえってしまっていた。


「やはりこれはとるべきでは、なかったかな」


ハグムは帽子を付け直し、申し訳なさそうに呟いた。


「すまない、ハクタカ。驚かせてしまったね。…いつもこう、なんだ。あまり皆に気を遣わせたくなくてね」


「あ、いえ…」


集まってきた人は皆、気を遣っているどころか、むしろ喜んでものを差し出していたように見えたが。


ハクタカは、料理を一切しないハグムの家の調理場の貯蔵庫に、大量の農作物があったのに、ようやく合点がいった。


「ハクタカ、買い物はまた今度にして、ここはもう出よう」


ハグムは机の上のものを抱えて、食堂の外に出た。

ハクタカは、ハグムがこれ以上金を使わなくなりそうだったので、胸をなでおろして一緒に食堂の外に出た。





突然、一人の少年が、ハグムが持つ荷物の脇から顔を覗かせて、甲高い声をあげた。

日に焼けた、そばかす顔の少年だった。


「ハグム先生!帰るとこけ。帰りにちょい、俺らんとこ、寄ってくれねえだか?!」


「ん?その話し方はアニクか。皆、元気かアニク?」


「あぁ!皆、先生とチャトランガ打ちたがってらぁ」


「はは、私はあれから久しく打ってないな」


「ほんまか!?じゃあ、俺、今なら先生に勝てるだか!?」


「アニクの腕次第だね」


「っしゃ、来てけろ先生!一生のお願い!」


「アニクの一生のお願いを、五回は聞いた気がするけど」


「そうけ?」


とぼけた顔のアニクを見て、ハグムはふ、と笑った。

ハグムは少し屈み、ハクタカに耳打ちした。


「ハクタカ、ちょっと寄るとこができた、いいか?」


「あ、え?は、はい」


ハクタカがうなずくと、少年は嬉しそうに飛び上がった。


「やったぁ!それより、先生、こや、誰だぁ?」


「ハクタカだ。私のところで働いてくれている。ハクタカ、この子はアニク。君と同い年だよ」


「ハクタカってんけぇ。よろしくなぁ」


「よ、よろしく」


アニクに手を強引にさらわれ握手をされたハクタカは、目を白黒させた。




街の端から二キン<約二キロメートル>ほど歩くと、店はまばらになり、ぽつんと建ったあばら小屋がみえてきた。

そのあばら小屋には植物の蔓がつたい、壁の木は一部腐っていた。小屋周囲の地面の水はけは悪く、澱む水溜りがいくつかあった。

ハグムが低い小屋の入り口を屈んで跨ぐと、中にいた子供たちが一気にハグムを囲った。


「先生!ハグム先生だぁ!」


「先生、こんにちは!」


「先生、チャトランガやろう!」


「私と打とう!」


ハグムの服は子供たちの無数の手により引っ張られて、いまにもちぎれそうだった。

子供達は皆六から十二歳くらいで、アニクもそうだが、あまり裕福とは言えない風貌であった。


「はは、困ったな」


ハグムは子供達に目線を合わせるように屈んだ。


「ダメだ、ダメだ!ハグム先生は俺が見つけてきたんじゃけえ、俺が一番先やけぇ!」


アニクはハグムに張り付いた幾多の手を一斉に振り払い、部屋の奥から、古びた盤とコマを持ってきた。



チャトランガ、という言葉はハクタカも聞いたことがあった。

模擬戦の遊戯だ。

二人が盤の上で交互に兵や馬、武器などのコマを動かし、領地を奪い、奪い返しながら互いの一番手前の中心にある大きい城のコマを取ると勝ちとなる。

兵はある決められた一定の方向にしか進められない。兵と馬のコマが盤上の同じ目に合わされば騎馬となり、騎馬になれば、進められる盤の目が多くなるが縦の目にしか進めないという制限もあったりする。弓は置くだけであれば兵が近づけない砦の役目を果たすが、逆に弓と兵が同じ目に重なれば、歩射兵に変化し、放射状に敵を殲滅することができる。

自分のコマの兵が攻撃されると使用できなくなり、さらに領土が拡大されて自分の兵が奪われて相手の兵に変化したり、馬が奪われて相手の歩兵が騎馬に変化したりする。いつしか領主が客と打っているところをみたことがあったが、ハクタカは詳しいやり方は知らなかった。


「っしゃ、お願ぇしやす!」


「こちらこそ」


盤を隔ててアニクとハグムは互いにお辞儀をした。


「いつものように、誰か、お願いできるか?」


ハグムが周りにいる少年たちに尋ねた。


「あ、俺やるよ!」


一人の少年が名乗り出て、盤の横に立った。

あれだけ騒いでいた子供たちが一気にしん、と静かになり、対決する二人を眺めた。


「二、六、歩兵」


アニクが一番初めにコマを打ち終えた直後、先ほど名乗り出た少年が、アニクが進めたコマの盤上の位置を声に出した。

その声を聞くと、ハグムはすっと目を閉じた。

挿絵(By みてみん)

「…先生、どうしたの?」


ハクタカが思わず口に出すと、隣にいた少年が小声で言った。


「おまえ、先生がチャトランガ打つん見るの初めてか?おったまげっぞ」


「え?」


ハクタカは興奮を抑えきれないように小声で話す少年の顔を眺めた。



「三、四、歩兵」


ハグムが目を瞑ったままそう告げると、盤の横に立つ少年が、ハグムの言った通りの位置に、ハグムのコマを置いた。

ハグムは目が不自由なので、毎回相手のコマ位置の声かけとハグムのコマ置きを別の誰かが代理でしていることを、隣の少年はハクタカに教えてくれた。

アニクとハグムが互いにコマを打っていく様子をみていると、ハグムは必ず毎回五サグ<一サグ=約一秒>以内には自身のコマの位置を唱えていた。


「すごい。目を瞑っているのに、盤上がみえてるみたい」


「だろ?先生は今までのコマの位置や変化を、声かけだけで全部記憶してるんだ。しかも、アニクは俺らの中で一番強えのに、先生には一回も勝てたことがねぇんだぜ」


隣の少年がハクタカの感嘆の声に答えるように言った。


チャトランガの進め方を全く理解していないハクタカだったが、目を瞑り静かにあぐらをかくハグムと、前のめりになっているアニクの前の盤上のコマの動きを、食い入るように見守った。


しばらく経った頃、アニクがコマを進めると、初めてハグムの口の動きが止まった。

目を瞑ったままの状態で、ハグムは口角をあげた。


「強くなったな、アニク」


盤上を見つめていたアニクは、嬉しそうにハグムの方を見た。


「だろ?あれから百回くらい打ってたで!今日こそ先生に勝つで!」


「さて、それはどうかな」


十サグ<約十秒>ほど沈黙したハグムは口を開いた。


「四、七、騎馬」


「……げ!!」


アニクはうめいた後、何度か打ち返すも、とうとう盤上の前で項垂れてしまった。



「負けました…」


その言葉を聞き、ハグムはあぐらをかいたまま一歩後ろに下がった。

アニクに向かって深々と礼をしながら、静かに、ありがとうございましたと呟くと、そっと目を開けた。


「やっぱ先生には敵わんなぁ」


アニクはそのまま両足を伸ばし、天井を仰いだ。


「アニク」


「はい」


ハグムの言葉に、アニクは姿勢を正した。


「また来る。私が来るまでもう百回、打ちなさい。いい勝負になる」


「は、はい!」


アニクは半べそになっていたが、徐々に笑顔を取り戻した。


「先生、うちもうちも!」


「先生、俺と!」


次々に子供たちがハグムを奪い合って、チャトランガを打ち始めるのであった。

時間を持て余したハクタカは、アニクに話しかけた。


「あの、先生って、皆呼んでいるけど、どうして?」


「へへ。俺らはここいらでたむろして盗みをやってた悪ガキたちでさ。先生はチャトランガだけでねえ、読み書きを教えてくれてな。そのおかげでなんとか俺たちさ、仕事見つけてその日暮らしさ、させてもらえてんのさぁ。俺たちの命の恩人で、先生なんさ!」


「へえ」


アニクから、しばらくここにいる子供たちのことや仕事の話を聞いていたが、いつの間にかハクタカは小屋の中でひとりになった。

ハクタカは部屋の隅の壁にもたれかかり、子供たちに囲まれ笑うハグムを、子供たちの輪の外から、ただぼうっと、眺めるのであった。




「そろそろお暇しよう、ハクタカ」


日が暮れるまで子供たちに付き合わされたハグムは少し疲れた様子で、『荷物も多いし、馬車を頼もうか』、とハクタカに提案した。

ハクタカは途中まで過ぎゆく風景を見ていたが、乗ってすぐに馬車の中でうたた寝を始めたハグムを隣で眺めていた。

ハグムを見ていると、何故か胸のあたりがちくり、ちくり、とした。



家に着いたハクタカは、座敷の隅で縮こまっていた。


(何だろう、何か、不愉快だ)


自分の心のざわつきの正体が分からず、ハクタカは、その理由を考えていた。

今日はハグムと一緒に買い物ができて、ハグムが有名人で、街の皆の人気者であることを知って、驚きつつも嬉しかったはずなのに、なぜこのように心が落ち着かないのか。


「どうした?やけに静かだな」


ハクタカの行動を変に思ったハグムは、ハクタカの視線に合わせてしゃがみ込み、ハクタカの顔の目の前で手を振ってみたが、反応がない。

具合でも悪いのかと、ハグムは自身の額をハクタカの額に当てた。


「いっ!?」


はっと我に帰ったハクタカは、慌てて一歩下がり、いつものように真っ赤になった顔を左手で隠した。


「なんだ、どうしたのだ」


ハグムはハクタカの顔をよく見ようと、ハクタカの左手首を掴んだ。


「っ!先生!!」


困惑したハクタカは、いつの間にかハグムのことを、そう叫んでいた。


「え?」


ハグムは目を開いた。


「あ…、お、俺も、アニク達みたいに、先生って、呼んでもいいですかっ!」


「なんだ、そんなことをずっと考えていたのか?」


ハグムは掴んでいた手をハクタカの手首から離した。


「好きに呼んでくれてかまわないよ」


ハクタカは、まだ熱い顔を左手で隠しながら、なにか少しでも会話を、と思い、続けた。


「ありがとうございます。…あの、先生。もし、時間がある時、よかったら俺にもチャトランガ、教えくれませんか。ただの遊びだと思っていたけれど、その、アニク達があんなに熱中しているものを、俺もやってみたいなって」


「もちろん」


ハグムはにっこりとハクタカに微笑んだ。


とく、とハクタカの胸が高なった。

あ、この顔。

このとびきりの笑顔は、外では見せない顔。

今日の、子供たちの前でも。

自分だけが知ってる顔だ。

その笑顔を見た瞬間、心のざわつきは一瞬にして、消えた。


(…あぁ、そうか。私、今日一日、先生を皆にとられて…嫌だったんだ)


小さい子供が別の子供に親をとられて嫉妬し泣きじゃくるかのような、そんな感情を今はじめて知ったハクタカは、ハグムが自身の親愛なる人であることを、知った。





おやすみなさい、と自分の部屋に戻ったハクタカがいなくなると、静かになった座敷を見渡してハグムはつぶやいた。


「先生、か…私も同じようなことを言った気がするな」


遠い目でハグムは昔のことを思い出していた。

座敷の机に顔を伏せていると、ハグムはまたいつの間にか眠ってしまっていた。


「師匠…」


少し開かれたハグムの口から、寝言が漏れていた。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいてありがとうございます

この小説を読んでいただいて


「面白そう!」

「続きどうなるの?」

「応援してるよ!」


と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


みなさんの応援が、チョヴィスキーが執筆を頑張るための何よりのモチベーションです!

どうぞよろしくお願いします!

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