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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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再会

「チボ、懐かしいね」


ハクタカはハグムの家に到着した。

庭に入ると、チボの犬小屋が一年前と同じ場所に、そのままの状態であった。

それが、ハクタカはなんとなく嬉しかった。

家の合鍵が、玄関横の植木鉢の下にあるのも、変わっていなかった。

ハクタカはくすり、と笑いつつ、合鍵を使って玄関の鍵を開けた。

チボは玄関前で待っててね、と言い、ハクタカはそろりと玄関に入った。


「……おじゃまします」


誰もいないのを知りながらも、ハクタカはなんとなくそう小さな声で呟いて、靴を脱いで家にあがった。

座敷に入り、調理場を見た。


懐かしかった。


一年前と同じ場所に、同じものが置いてある。

嬉しさの反面、ハクタカは違和感を感じた。

生活感がまるでなかったからだ。

座敷は埃っぽく、調理場の置いてある皿の位置も一年前自分が置いたそのままの位置にあり、使った形跡がまるでない。

自分が初めてここに来た時のように、調理場の端には蜘蛛の巣も張っていた。

ハクタカはハグムの書斎と寝室を見に行った。

相変わらずすごい量の本と巻物の数だが、置いてある筆についている墨が干からびきって筆の先端が硬くなっているし、寝室の布団は綺麗に敷かれたままであった。


(……おかしい)


ハクタカはハグムがもしやこの一年でどこかに引っ越してしまったのではないかという不安に駆られた。


(いや、でも私物は全部ここにありそうだし……どうしよう?近所の人に一度聞いてみようかな)


ハクタカは今まで稼いだ金と、自分の気持ちをしたためた文を左手に抱えながら、それらを座敷の机の上に置いていくか否か、しばらく考えていたが、やはりすれ違いになってはいけないと思い、近所に聞き込みに行こうとした。

玄関を出ると、そこにいるはずのチボがいなかった。


「チボ?」


周りを見るが、チボが見当たらない。

庭に出ると、ハクタカは思わずにっこり笑ってしまった。

チボが犬小屋の中で、すうすう寝ている。


「おまえも、ここが落ち着くのかな」


犬小屋の前で、屈み、しばらくチボの顔を眺めていた。

すると急に眠気が襲ってきた。

ここまでくるのに、ほとんどまとまった睡眠をとっていないことにハクタカは気づいた。


(……あ、いけない)


眠気を堪えて、静かに立ち上がったハクタカは、庭から出ようと、玄関口に戻ろうとした。



ハクタカは急に立ち止まり、息を止めた。


今家にいるはずのない男が、汗をかき、息を弾ませながら、玄関の前に立っていたからだ。


視線が、ばちりと合った。


「………っ」


その男にかける言葉は左手に抱えている文にこれでもかと綴ったはずなのに、ハクタカはまるで声が出なかった。

足を一歩引いたが、それ以上動けなかった。


ハクタカの心は、一年前に戻っていた。

また、去れという言葉をかけられたならば、自分はどうなってしまうのだろう。

不安と恐怖で、体が痺れ薬でも飲んだかのように、ぴくりとも動かなかった。


ごく、と唾を飲んだ瞬間。


ハクタカは抱きしめられていた。


今までに感じたことがない、強い力だった。


「生きて、いた……っ」


ハグムの、体の底からなんとか絞り出したかのような微かな声が、ハクタカの耳に届いた。


ハクタカは目を見張った。


幼少期を思い出していた。


誰にも触れられず、ひとの温かみなど知らなかった日々。

生きているかどうかさえ、どうでもいいように扱われていた日々。


今、自分を抱きしめてくれるひとがいる。

生きていることを、確かめてくれているひとがいる。


ハクタカは、思わず涙が出た。


「……ごめ、なさ…」


声がやっと出た。


だが、それきりだった。


左手に抱えていた荷物が、地面に落ちた。

そして、空いた手で、ハクタカは、ハグムの背の服をぐっと掴んだ。


二人は、しばらく無言で、互いを抱きしめていた。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!


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