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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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卒倒

横たわる三人の男たちはすでに息絶えていた。

ハクタカは遺体を土の中に埋め、手を合わせると、山の奥に入り自身の右胸の矢と背中の短剣を自身で抜いた。

血が滴り落ちる感覚があった。

滲みるのを必死に堪えながら近場の湧水で傷口を洗い流し、血の付いた自身のさらしで左手と歯をうまく使い、きつく傷の上に巻きつけた。

そして木に背中を預け、ハグムの野営天幕を眺めながら、朝まで過ごした。



ハクタカに選択肢はなかった。

ハグムの命を狙う輩をひとり逃してしまった。

男たちにハグムの命を狙う理由も聞けずじまいで終わってしまった。

またいつあの男がハグムを襲ってくるかも分からない。

ハグムのそばを、一時でも離れることはできなかった。

人混みに隠れつつ、ハクタカは翌日早朝からもハグムの後を追っていたが、しかしハクタカは、ハグムの近くには寄れなかった。

シモン兵の兜と鎧は、その日はさすがに身につけることができなかった。

動くだけでも傷が燃えるように痛かったのだ。

だが、ハクタカはハグムのそばを離れることだけは、絶対にしたくなかった。



スンギ支城が燃やされ、多くの兵を失ったエナン国は、前線に全兵を送っていた。

十万人という大群が、アシア平原に集まりつつあった。

ヨナ軍は北上するわけでもなく、アシア平原北のこの野営地に沈黙したままとどまっていた。



ハグムとサイはこの日、将軍たちを呼び出した。

シモン兵の代表のヤンも、兵たちを従えてヨナ軍野営地の中心部に集まってきていた。

ハグムとサイ、シバたち将軍、ヤン率いるシモン兵は一際大きい小屋の中に入っていった。

その周辺には多くの護衛兵たちが居たため、ハクタカは少し安心し、兵たちに紛れてしばらく小屋の前で立っていた。



小屋に入っていくヤンを見かけたハクタカは、複雑な気持ちになった。

あの矢――。

ヤンみたいに流暢なヨナ語を話すシモン人もいる。

シモン兵に先生を狙う人物がいるのか。


矢のことが気がかりで、ハクタカはダグダカ門以来ヤンに声をかけることはできなかった。






「我々はこの地でエナン兵を向かえ撃つ」


ハグムは断言した。

エナン兵の動きから、明日エナン兵との全面戦争になる予感が高まっていた。

小屋の中にいる全員が、ハグムの伝える作戦を黙って聞いていた。

サイやシバはもちろん、他の将軍やヤンまでもがハグムの意向に反対することはなかった。





作戦会議を終え、馬に跨ったヤンはしばらく歩いていると、見慣れた黒髪を見つけた。


「よお、ハクタカ!」


びく、と肩を震わせたハクタカは、身を固くしたが、ヤンの方に振り返った。


「やあ、ヤン」


ハクタカは至極自然に振る舞うように努めた。


「おまえ、全然見なかったが、ずっとどこにいたんだ?俺、昨日農民の野営地に行ったんだぜ」


「あ、はは、ちょっとね」


ヤンはハクタカの顔が汗でびっしょり濡れているのに気づいた。

ヤンはすかさず馬から降り、ハクタカに近寄った。


「おい、おまえ。汗だくじゃねえか。どこか行ってたのか?」


「あ、ああ。ちょっとそこで食糧の移動を手伝ってたんだ」


青白い顔のハクタカは笑っていたが、まるで生気が感じられなかった。


「おまえ、顔色悪くないか?」


「そんなことないよ」


ハクタカはすかさず口をはさんだ。

ヤンはハクタカの右胸に目線がいった。

茶色の服が一部滲んでいた。

汗の跡かと思ったが、よく見るとそれは濃い赤であった。


「おい、おまえ……ちょっとこっち来い」


ヤンがハクタカの手を引っ張ると、ハクタカはそれを振り解いた。


「行かないよ」


「何言ってる。おまえ、ひどい怪我だぞ」


「……」


ハクタカは黙った。

傷は燃えるように痛かったが、全身が寒気を帯び、身体が震えていた。


ヤンはシモン国内の内戦で、何度も戦を経験してきた。

まさに今のハクタカのような顔面蒼白の、死に直面した負傷兵を何度も見て来た。

ヤンはもう一度ハクタカの手を引っ張ったが、それも振り解いた。


「おまえ、いい加減にしろ!死ぬぞ」


ヤンが怒り声を張り上げた。


「かまわない、ここに居させてくれ」


ヤンをまっすぐ見据える黒い瞳には強い光が宿っていた。

速い呼吸で、震える身体を必死に両足で支えながら、ハクタカは静かに言ったのだった。


「は!?」


ヤンは理解できなかった。

ここに一体何があるというのか。

周りはヨナ兵と、少し行ったところに先ほどヤンが居た小屋があるのみだった。

ハクタカは一瞬ヤンから視線をはずしその小屋の方へ向けた。

その様子をヤンは見逃さなかった。


「……あの軍師か?」


ヤンはハクタカに低い声で尋ねた。


「……おまえ、変だぞ。あの軍師が一体なんだってんだ」


「ヤンは知らなくていい」


頭がぼうっとして、ハクタカはヤンに対してどう答えたのか、自分自身、分からなかった。

ただ咄嗟に口に出たものが、ヤンの顔を歪めたようだった。


「……ああ、そうかよ」


そう短く答えたヤンは再び馬に跨ると、シモンの野営地の方向に去っていった。




ハグムはその日、小屋の中に留まっているようだった。

兵達が行き交うのに紛れながら、小屋の前でハクタカは立ちつくしていた。


汗が上から下にどんどん滴ってくる。


身体が震えて歯のぶつかる音がする。


耳が遠くなってきた。


行き交う兵たちの残像が、ぐにゃり、と曲がって見えた、その瞬間。


ハクタカは倒れた。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!


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みなさんの応援のおかげで、なんとか作品を続けています

どうぞよろしくお願いします!

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