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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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奇襲

ハグムの作戦は的中した。

明朝、キョルチ湖を西の沿道から北上して来たエナン兵の馬は、シバ率いるヨナ軍の騎馬団によって次々と湖の中に沈んでいった。

奇襲を避け、ようやくダグダカ門前に着いたエナン騎兵も、火器の集中砲火により、門の前で倒れていくのであった。


『おお、来た来た』


ヤンは西山の斜面にいた。

奇襲を受け、逃げ惑うエナン兵は、南へ敗走していった。

シバの騎馬隊より南の山の斜面に陣取っていたシモン兵は、エナン兵に次々に空舞う弓矢を浴びせていった。

シモン兵の太く、速い矢により、エナン兵はそれに当たると一撃で倒れていた。

ヤンは先陣を切って弓矢をひいていた。


「あんたの言う通りだったなあ!」


後ろに控えるハグムに、ヤンは叫んだ。

ハグムはシバの騎兵団がうまく事をやり遂げたのを見届けると、フィセ村周囲のエナン兵の動向を知るべく、ヤン率いるシモン兵の陣営に来ていたのだ。


「……」


ハグムは逃げ戸惑うエナン兵が南へと散っていき、矢で倒れていく姿を無言で眺めていた。

矢の集中攻撃を浴びせ指示をとばすヤンと、シモン兵の統率された陣形を見て、後ろから見ていたハグムはそれらを頼もしくも感じ、少し恐ろしくも感じていた。



ハクタカは依然シモン兵の格好のまま、シモン兵に矢を配るふりをしながら、ハグムを注視していた。

敗走していくエナン兵が矢で射抜かれるところを、じっと動かずに細目で見つめるハグムを見て、心を痛めた。


そこは小高い山の上で、頂上は少し開けた場所にあり、見晴らしは良かった。

しばらくエナン兵を眺めていたハグムはシモン兵から離れ、留めていた馬の方へ歩き出した。

護衛兵ひとりがハグムの左に付くかたちで、二人は人気のないところへ下っていった。


ハグムの後ろからそれを眺めていたハクタカは、右に何か光るものを見た。

その瞬間、ハクタカは考えるよりも前に身体が動いていた。

ハグムに、流れ矢が飛んできたのを、瞬時に察知したのだ。

走り込み、左手で右の腰の剣を抜刀するやいなや、その矢を真っ二つに切った。

ハクタカは切られ落ちた矢が、シモン兵独特の弓矢であることを確認した。

すぐに矢が飛んできた方向を見たが、矢の軌道からして、シモン兵の誤射はあり得なかった。

シモン兵は皆、山の斜面で東を向いてエナン兵に向けて矢を放っている。

まっすぐ南に飛んでくる矢など、どこにも見当たらない。

ハクタカはすぐに剣をしまい、割れた矢を手に持ち、矢が飛んできた方向に向かって走り去っていった。




(……!?)


一瞬のことで、ハグムは何が起きたか分からなかった。

それは、隣にいた護衛兵も同様であった。

右後ろから急に剣を振る音が聞こえて、竹が割れるような音とともに風が舞ったかと思うと、一人のシモン兵が地面に屈んでいた。

その兵士に声をかけようとした瞬間、彼は北へ走り去っていってしまったのだった。


「……君、今のはなんだ?」


ハグムは護衛兵に声をかけたが、


「……申し訳ありません、私も何がなんだか。…急ぎましょう、ハグム殿」


護衛兵も困惑した顔で、ハグムの隣にぴたりと付き、山を下っていった。





(……おかしい)


ハクタカは辺りを見渡した。

シモン兵が撃つ弓の射程距離を考慮し、ハグムからの距離を逆算して矢が飛んできた方にやって来たが、そこは林の中で、もちろんシモン兵は誰一人いなかった。

二つに切られた矢を、ハクタカはぎゅっと左手で握った。



みるみるうちに矢で射抜かれたエナン兵の死体がキョルチ湖の沿道に積み上がっていった。

南へ走るエナン兵が見えなくなったのを確認し、西山の陣にいたヤンはシモン兵に一旦退却の命を出した。


ハクタカは一旦もとの場所に戻った。

シモン兵たちの持つ矢を凝視し、自分が持つ矢とシモン兵の矢が同じものであることを再確認すると、その場にいるのが急にいたたまれなくなった。


ヤンは戦の間に腹の底で湧き上がっていた熱を馬上で周りの兵たちと共有していると、前を歩く隻腕のシモン兵を見つけた。

足速に山を下っていくその兵を見つけて、ヤンはにっ、と笑って


「おい、ハクタカぁ!」


と大声を張り上げた。

ヤンの声にハクタカは驚き、一瞬肩を震わせたが、その呼びかけには応えず、山の中へ走り去っていった。


(……あいつ、俺の声に気づいてたよな)


ヤンは一度馬を止め、ハクタカが去っていった方を、顔をしかめ、眺めていた。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

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