思案
ハクタカがサイシ村を出て四日目の夜、ついにヨナ国の軍はスンギ支城に到着した。
スンギ支城の住民や一時的に避難していた南の村の女、子供、老人たちは北方面の村や町に避難し、城の中には城主とその側近達、そして軍の兵士のみになった。
城の中は、開戦に向けて軍備を整えるべく兵士達は慌ただしく動いていた。
ハクタカは自分のできることはやろうと決め、戦の開始まで農民達と一緒に戦の準備を手伝っていた。
農民たちは一階から二階にわたり、城内にすでに存在していた多くの木材を積み上げていた。
(城内にまるで家でも建てるかのようだ。狭いだけだろうに。この木材は一体なんだ?)
ハクタカは自分の身長以上に積み立てられた木材を眺めていた。
城主と大将軍サイや将軍達、軍師総帥のハグムは城の一階の中心の大広間に集まり、スンギ支城に着くやいなや会議を行なっていた。
ふと二階からハグムの顔が見え、ハグムが将軍達と話している姿を、ハクタカは眺めていた。
(いよいよ戦争が始まる。……先生は、誰にも傷つけさせない)
不安と敬慕と決心と……色々な感情がハクタカの身体中をかけめぐった。
「おい、おまえ、それこっちに運んでくれや!」
「あ、はい!」
大量の油を含んだ壺を乗せる台を引いていたハクタカは、目線をハグムからはずし、兵の方へそれを運んで行った。
この油が何に使われるのかハクタカはまるで分からなかったが、重くて左腕がちぎれそうだった。
ヤンはハクタカが二階から、一階にいるハグムを覗いていた光景を偶然見ていた。
一階で話し込んでいるハグムを、ヤンは二階から身を乗り出して眺めた。
それと同時に、ハクタカの先ほどの表情を思い出していた。
『あの軍師が一体何だってんだ』
ヤンはなにか気に食わなかった。
ただ、ハクタカが気にしている軍師を、ヤンも気になってしようがなかった。
ヤンが二階から一階を見渡していると、一階の城の正面入り口から数名の兵士たちが突然入って来た。
兵士たちは城の兵士長だろうか、奥にいた男に短く言伝すると、兵士長はすぐにハグムたちのところへやって来た。
「なに、フィセ村がやられたのか」
サイが驚いて言った。
「はい、生き残った村の男達がぞくぞくとダグダカ門に到着しているそうです。ダグダカ門にいる兵がたった今知らせに参りました」
兵士長の言葉に、将軍たちが騒ぎ始めた。
「村の者は」
ハグムはすかさず聞いた。
「敵兵が多く、皆逃げるようにして門に着いたようです。大丈夫です、ハグム殿の事前の適切な指示でほとんど村の人間の被害はありません」
「そうか」
ハグムはいくらか安堵し、すぐ顔を引き締めた。
「エナン兵の数は」
ハグムは続けて兵士長に聞いた。
「およそ千。今はフィセ村に留まっています。しかしいつダグダカ門に襲ってくるか分かりません」
兵士長はすぐ答え、ハグムはまた質問した。
「ダグダカの門には今、味方の兵は何人いる」
「二百人程度です、ハグム殿」
「スンギ支城に着いたらすぐダグダカ門の兵の配置だと思っていたが、エナンめ、速かったな。しかし、もう夜だから奴らも動かんだろ。明日が勝負だな」
そう言ってシバは唸った。
大きな外壁を持つダグダカ門は西を山で囲われ、アシア平原にあるスンギ支城の南に位置する場所にあった。
つまりは、ダグダカ門がヨナ国にとって対エナンの南の最初の砦となっていた。
唯一、ヨナ国領の中でフィセ村という村だけがダグダカ門の南に位置する場所にあり、その村をエナン国が攻撃して来たのであった。
フィセ村とダグダカ門の間には大きな湖が位置しており、それをキョルチ湖と言った。
ダグダカ門からはキョルチ湖を挟んだフィセ村に松明の火が多く灯っているのが確認された。
夜となった今、エナン兵はフィセ村を野営地とし明日の明朝以降、ダグダカ門を攻撃することは明白であった。
それを迎え撃つために、なんとか夜中から明朝までにダグダカ門の守りを固めればならない、という将軍達の意見は一致していた。
ハグムは兵士長の報告を受け終わると、柱に寄りかかり、すっと目を閉じしばらく考え込んだ。
サイは黙って家臣達の話を聞きつつ、ハグムを横目でちらりと見ていた。
兵が入って来たのを確認したヤンは二階から一階へ降り、柱の影で兵とハグムたちの会話を聞いていた。
(へえ。もう敵はすぐそこまで来ているわけね)
ヤンは事態が急変したことを悟った。
ハグムは静かに目を開けると、
「シバ。騎馬を百騎出せるか」
と、正面にいたシバに尋ねた。
「あ?ああ、かまわんが……いつだ?」
シバが答えた。
「今だ」
ハグムがきっぱり言い切る。
「今ぁ!?おい、ハグムおまえまさかこんな夜中に戦をおっぱじめる気か」
「ああ。戦うのは今じゃないが」
「……??」
シバは、騎馬を出すのに戦わないというハグムの趣旨を理解できなかった。
「とにかくダグダカ門の守備は最優先だ。その作業は皆、継続して頼む。シバ、行こう」
ハグムは例の如くシバの腕をぐいっと掴み、足早にその場を去った。
「ハグム殿はどこに行かれるのでしょうか」
将軍の一人がサイに聞いた。
「はっはっは。軍師の腕の見せ所ってやつだ。心配ない、放っておけ」
サイは慣れているかのように将軍達にそう伝えた。
「と、言いますと?」
別の将軍がサイに尋ねた。
「ハグムが目を瞑るのはあいつの癖だ。その間考えているのは悪巧み。敵にとって最悪の、な」
サイがにやり、と笑った。
【チョヴィスキーからのお願い】
小説を読んでいただいて本当にありがとうございます
この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!
いいねと思っていただけたら、ぜひ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもポチリしていただけたら最高に嬉しいです!
みなさんの応援のおかげで、なんとか作品を続けています
どうぞよろしくお願いします!




