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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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休日

「ハグム殿!失礼致す!」


男たちがせわしなくしきりにハグムの自宅を行き来している。

その男たちは胸に政府の紋章を記した衣服を纏い、髪は上に丁寧に結いあげられ、かしこまったお辞儀をしてハグムの書斎に入っていくのであった。

この男たちは、ハグムと普段一緒に仕事をしている内政部の役人達だ。

ハクタカがこの家に来て五日が経っていた。

ハクタカが帰り際の役人にこっそり聞いたことによると、ハクタカを引き取ってから一週間だけ、ハグムは仕事の休暇をとったようだが、ハグムを介さないと進まない書類や仕事が山ほどあるらしく、こうやって受け取りや相談に来ているとのことだった。

ハグムは休暇と言うがどこかに行くそぶりもなく、相変わらず書斎で役人達と話し込み、書き物をしていた。

変だな、とハクタカは思った。

自宅にいて、これだけ多くの役所の人間がわざわざやって来るのであれば、仕事場の役所に出向いて仕事をなさらないのか、と疑問に思った。


役人たちの往復が落ち着いた頃、目頭を押さえながら書斎から出てきたハグムは、庭につながる廊下に出た。

ずっと部屋にこもっていたせいか、外の風が心地よかった。

庭に咲く何気ない雑草や花が、春を感じさせた。

なんとなく庭に出て、寝ているチボの横にかがむと、周りに虫が数匹群がり、チボは体幹の皮筋をぴくぴく動かし、迷惑そうにしているのを、ハグムは気がついた。

そして、庭から玄関先に向かった。

チボの小屋を作ろうか、とハグムが玄関で掃き掃除をしていたハクタカに提案すると、ハクタカはぱっと顔を明るくした。


木片を杭で打ち付ける音が庭じゅうに鳴り響いた。

ハグムは汗だくなりながら木々を組み立てていた。

ハグムの目は、日中はよく見えていた。

見知った家の中や覚えのある道などは、普通の人間と変わらず問題なく歩けるようであった。

ただ、それでも組み立てている木の継ぎ目はやはりちぐはくだった。

しかしハクタカは、そんなことは全く気にせず、チボと庭で遊びながら、ハグムとの共同作業を楽しんだ。

嬉しそうにはしゃぐハクタカを見て、ハグムもかすかに笑みを浮かべながら作業により一層精を出していた。


西日が差す頃、犬小屋は完成した。

切妻屋根で、中にはふかふかの藁が敷かれている。


「わあ!」


ハクタカは犬小屋を前にして、喜んでいた。


「初めてにしては上出来かな」


ハグムは額の汗を袖で拭き取り、ふう、と庭の廊下に座り、一息ついた。

庭の隅に建てられた犬小屋は、継ぎ目は少々不恰好だが、立派な大きさのものに仕上がった。

ハクタカは、チボに入ってごらん、と犬小屋の方に行くよう促したが、チボはまだ遊び足りないという顔をして、ハクタカの周りを飛び跳ねるのであった。



「おーい、ハグム!呑みに行こうぜ!」


大男が隣の庭の垣根から顔を出し、ハグムを呑み屋へ誘い出そうとしていた。

シバが隣の家だとハグムから知らされた時、ハクタカはあからさまに怪訝な顔をした。

そして、シバがハグムの歳と六歳しか離れていないことを知ると、世も末だというような顔をした。

それを見たハグムが思わず吹き出したのが三日前だ。


「行かぬ」


ハグムは垣根の向こうを見ることもなく、シバに短く、きっぱり返事をした。


「いいのですか?毎日来られていますけど」


ハクタカはシバの方を見て心配そうにハグムに尋ねた。


「いつものことさ、無視でいい」


小声でハグムは少々うんざりして言った。

しかしハクタカがハグムの家に来てからというものの、毎日の呼びかけを無視され続けたシバは、とうとう痺れを切らしてハグムの自宅に乗り込んできたのであった。

チボがハクタカの後ろでウーーッと、唸った。


「え、うわ」


目の前に自身をすっぽり覆う影を感じ、ハグムは咄嗟に逃げようとしたが、その身体はシバの剛腕の中につかまってしまった。


「おまえ最近付き合いが悪いんじゃないか?あ?ちょっとぐらい、付き合えよ」


「くるしい、シバ」


ハグムは、シバの腕をぱし、ぱしと叩いた。


「それとも何か?俺様の誘いを断る理由でもあるのか?」


「いや、別に今度でもいいと思っただけ…」


ハグムがちらり、とハクタカの方へ一瞬目を配ったのを、ハクタカは見逃さなかった。

あ、とハクタカは直感した。

役所に仕事に行かなかったのも、隣人の誘いを毎日断っていたのも、すべて私がいることで彼に気を遣わせてしまっていたようだ。


「あ。あの…、俺なら大丈夫、なので、二人で行ってきてください。チボと一緒に留守番しています」

ハクタカはシバの顔色を伺いながら、ハグムに言った。


「ほぅら、このガキもそう言ってることだし、決まりだ、行こうぜ!」


シバはハグムの首に腕を回したまま、ぐい、ぐいとハグムを庭から外へ引っ張っていった。


「痛い、シバ。分かったから。離してくれ」


ハグムは必死に首に巻き付いていたシバの腕を引き剥がし、ハクタカの方へ戻ってきた。


「うるさいから、行ってくるよ。本当に一人で大丈夫か?」


「もちろんです、行ってらっしゃい」


ハクタカは思わずシバに噛みつきそうだったチボを抱っこしてあやしながら、笑顔を作ってみせた。

それを見たハグムは少し安堵し、では留守を頼むと言い残し、庭から出て行った。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいてありがとうございます

この小説を読んでいただいて


「面白そう!」

「続きどうなるの?」

「応援してるよ!」


と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


みなさんの応援が、チョヴィスキーが執筆を頑張るための何よりのモチベーションです!

どうぞよろしくお願いします!

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