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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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チャンメ

ハクタカは陽の光と鳥の囀りで目が覚めた。

起き上がると、隣にはチボが軽くいびきを立てて、ぐっすり寝ていた。


(う、ちょっと冷えた)


ぶるっと身をよじりながら、ハクタカは洞穴を出た。

昨日、どうしてもそのまま寺に向かう気が湧かなかったハクタカは、村から離れた森の中で食べられる野草と木の実をつまみ、近くの川で水を飲んだ。

日が暮れる頃、ちょうど良い大きさの洞穴をみつけたので、その中で昨日の出来事を思い出しては泣いていると、いつのまにか眠ってしまっていたのだった。

木々の葉から漏れる白い光が、ハクタカの肌に滑った。

目が腫れているのか、少し視界が悪かったが、川で顔を洗うと、いくらかしゃきっとした。


(このままっていうわけにもいかないよね……)


チボが隣にやってくると、ハクタカは荷物をまとめて森を出た。




南に行く静かな小道を辿っていくと、丘の上から段々畑が広がるサイシ村に出た。

実は、ここは一度ハグムと来た場所で、ハクタカは道を覚えていたのだ。

ハグムは昔、何度か仕事で来ていたようだったが、この村でこの暑い時期採れるチャンメが美味しいから、と一人でこの村に来る時はハクタカを連れてきてくれたのだった。

チャンメはこの段々畑で今日のような暑い時期に採れる黄色い皮の丸い果実だ。

手のひらよりは大きく、昔のハクタカには片腕では持ちきれず、落としかけたチャンメをハグムが地面直前で慌てて拾ってくれたのも、ハクタカにはついこの間のように感じた。

チャンメの実は白く、細かい種を含んでいた。

村の人に小刀で小分けにしてもらい、齧り付くと、あっという間に豊かな甘い汁となり、喉が潤った。

おいひい!と口の中にたっぷり汁を含みながら言ったハクタカの言葉に、ハグムはにっこり笑いかけてくれた。


「……あれ、やだな」


ただ、村の風景を見ただけで、思い浮かぶのは、ハグムとの思い出だった。

ハクタカは、また、涙が出そうになった。

ワン!とチボが鳴いたので、涙は直前で引っ込み、ハクタカは村の中に入っていった。





村の中にある食事処で、ハクタカは粥と、チボのために干し肉を頼んだが、食事処には人がほとんどいなかった。

ここまで来るのにも、すれ違う人の数が明らかに少なかった。

温かい白粥を啜りながら、店の人にハクタカが尋ねた。


「あの、なにやら人が少ないようですが、何かあったのですか?」



店の女は驚いた顔をして、ハクタカを見た。


「おったまげた、あんたどこから来た人間だい?」


「え……隣のシンゲ村ですけど」


「シンゲ村の人間なら当然知っているだろうに。エナンとの戦争がもう始まるんだよ。昨日のお触れを知らないのかい?」


「戦争が!?」


ハクタカは椅子から立ち上がった。


「あれま、本当に知らなかったみたいだね。村の男たちは今日王宮から南の戦地へ向かう軍に参加するために皆今朝王宮へ向かったよ。どうせまたこの辺りを通るだろうがね」


「……!!」


(そういえば、シバが言ってた。シバ、戦に行くんだよね。きょ、今日だったんだ)


ハクタカは一気に不安に駆り立てられた。

ハクタカのただならぬ様子に、女は店の出口を指差した。


「自分で確かめたらどうだい。ちょうどこの店を右に曲がってしばらくすると左手の広場に、この村唯一の掲示板があるから」


ハクタカは女の言葉を聞いて頷くと、粥の汁を飲み干し、チボと一緒に掲示板を目指した。

触書きを見た瞬間、ハクタカは、店で買った干し肉の包みを地面に落としてしまった。

それは、乾いた紙に大げさなくらい大きい墨の文字でしたためられていた。


『内政部副官ハグム・イ・ウィルを対エナン国戦場の軍師総帥の任に命ずる』


(……先生!)


ハクタカは心の中で、何度も何度もその文字を繰り返し読んだ。

突然、脳裏にカナの言葉が蘇った。


『軍師も怪我をするときくらいあったもんさ。珍しいことじゃない』


「……こうしちゃいられない、チボ、行こう!」


ハクタカは走り出したが、急に一旦立ち止まった。

後ろから付いてきたチボが不思議そうにハクタカを見上げる。


去れ、というハグムの声が、ハクタカの頭の中でこだました。


(……もう、使用人でさえない自分が行って、どうするんだ)


ハクタカは一度、自分を制した。


しかし、心が、身体が、それをいとも簡単に振り払った。

ハクタカはすぐに踵を返し、一度食事処の店に戻り店の女に南の戦場の場所を聞くやいなや、サイシ村を後にした。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!


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