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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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鼠と土団子

いつものようにハグムに弁当をこしらえたハクタカは、玄関を出ようとしていた。

ハクタカはふと、庭に目をやると、地面に見たことがない袋が落ちていたので、拾いあげた。

その袋は灰色の麻袋で、ちょうど手のひらくらいの大きさであった。


(なんだろう。何か入っている)


袋に重みを感じ、ハクタカは一度屈んで、地面に袋の中身を出してみると、中から、固められた大きな土団子がごろっと出てきた。


(?子供の忘れ物かな)


土団子をつつくと、一箇所が割れ、その中にまた何か埋まっているのを見つけたハクタカは、土をよけた。


「わっ!!」


ハクタカは、驚いて地面に尻餅をついた。

割れた土団子の中には、鼠の死骸があったのだ。


(……鼠!?う、可哀想…)


鼠の死骸は死後数日以上経った、というものでもなく、まだ死んで間もない様子であった。


「……」


ハクタカは少し考えたあと、鼠を袋の中に閉じ込め、庭の隅に置いた。

一度玄関に戻り、座敷で簡単な文をしたため、風呂敷にすべりこませた。

庭から出ようとすると、ワン!と鳴いたチボを見て、ハクタカは微笑んで近寄った。


「今日はチボも行く?」


チボが寂しそうな顔に見えたので、ハクタカはチボを鎖から外した。


「風呂敷抱えているから、鎖紐は持てないよ。ちゃんと大人しくしててね」


「ワン!」


ハクタカの後ろを、チボは引きちぎれんばかりに尻尾を振って、付いていった。

無事に役所の門前のドムとシドにハグムの弁当を託したハクタカは、街に向かった。

今日はアニクとのチャトランガの再戦の日だった。

今日は負けない、とハクタカは意気込んでいた。







サイの部屋は役所の軍事部に近い、奥深い所にあった。

広い部屋にある棚には多くの調度品が置かれ、それは金にも銀にも光り輝いていた。

樹齢何十年と経っているであろうがっしりと太い幹の白木で組み立てられた大きい椅子に、サイは腰深く座った。


「豪華絢爛だろう。九年前の戦で国が私に送ってきた品どもだ。皮肉だな。こんなに良き物に溢れているのに、わしの心はまったく満たされやしなかった」


「………」


ハグムは調度品に目もくれず、俯いていた。


「気持ちはよくわかる。だが、今のおまえさんにも、周りに大切な人間がいるであろう。今回の行動はいささか軽率だったな。いつもの冷静な自分に戻れ」


「……申し訳ありません」


ハグムは目を伏せて小さく呟いた。

二人はしばらく黙った。


「エナンの兵の数を聞いたか」


「……はい」


「そうか。…その『王命』を受けるならば、おまえさんは、死と隣り合わせになるの」


「……それはサイ殿も一緒ではありませんか」


「……ああ、そうだな」


サイは苦笑した。


「……私の命など、どうでもいいのです」


唇を震わせながらハグムは呟き、そして続けた。


「あの時死ぬべきは私だったのだから。……私は、師匠のことをなかったかのように振る舞うあやつを、許せないのです。この王命は、師匠を侮辱するほか、何ものでもない!」


「……そうだな。だが、ハグムよ。おまえが自身の命を軽んじるのは聞き捨てならない。オムは、おまえの身代わりになって死んだのでは」


「違う」


サイが言い終わる前にハグムはサイの方を見向きもせず、拳を強く握り、何かに耐えるように地面に向かって静かに言った。


「多くの兵を見殺しにした罪を、……私に下される罰を、師匠は私の代わりに受けた」


「……」


サイは黙って聞いていた。

ハグムはぎり、と唇を噛んだ。

それ以上は何も言えなかった。


「おまえさんは、十分、その罪とやらを償っているではないか」


「……?」


ハグムはサイの方を向いた。


「あれは災害だ。人の手ではどうしようもなかった。あの時失われた命の分だけ、おまえさんは政で多くの人間を救っておる」


「……大袈裟です。私は師匠に言われて仕方なく…」


「そうかな。わしは、仕事しているおまえさんをみると、罪滅ぼしに囚われている罪人のように見えるが」


サイは天井を仰ぎながら言った。


「オムの弟子よ。あの時、オムがおまえさんの身代わりとして死に行った、と本に思ってもおるまい」


サイの言葉に、ハグムは無言であった。


「『何年か後、敵は必ずまたヨナを攻めてくる。この国とハグムを、頼む』、と私に言い残して、奴は去っていったよ」


ハグムははっと目を見開き、床を見たまま、サイに問うた。


「……会ったのですか?あの時、師匠に」


「……ああ。『病に殺されるのではない。敵に殺されるのではない。私は民を救いに行くだけ』……奴の最期の言葉だ」


ハグムの肩はがっくり項垂れ、目頭には、熱いものがあった。


「軍師は怯者であれ」


サイがそう呟き、ハグムの方を見やった。

サイの視線を感じ、ハグムは口を震わせながらサイに続いた。


「……すべては民のため、人の世のため」


二人は静かに、互いを見つめた。


「仲間の兵たちはオムを、守り一辺倒で、何も攻めぬ小心者の軍師と捉えた者もいたであろう。だがどうだ、オムの力量は、おまえが一番よく知っているであろう?」


「…はい。師匠は攻撃に転じることは少なかったですが、ヨナ国の守りにおいてエナン国に負けたことはありませんでした」


サイは満足そうに頷いた。


「戦は人と人が憎み、憎まれて生まれるものだ。たとえどんな陰謀が、どんな非難が、身の上に降り掛かったとしても、奴はいつでもどこでも、民のため、采を振った。だから、奴は、あの時、出ていったのだろう?」


「……」


「オムが嫌がるおまえに、国の政を託したのも、国を強くし、国を守ってくれるのは幼き頃からみてきたおまえだと、おまえならやってくれると、信じていたからだ」


「やめてください。そんなものは理想であって……私は、何もできていない」


「そうか?わしには十分なように思うが」


「……」


「なに、いくら負け戦とて、わしもすぐにくたばる気は毛頭ない。おまえさんのおかげでこの国は強くなった。あがいてみせるさ。でないと、あの世で友にみせる顔がない」


ハグムはサイの言葉に、笑いとも悲しみとも、怒りとも言えない、複雑な顔をしていた。


(師匠…私は、もう、二度と……)


ぐっと拳を握り締め、苦虫を潰したような顔でハグムは無言でサイに一礼し、部屋から立ち去っていった。


サイは椅子に深く腰掛け、ハグムが出ていった戸口の方を向いて、深いため息をついた。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!


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みなさんの応援のおかげで、なんとか作品を続けています

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