酩酊
「ただいま」
ハグムが家の座敷に入ると、そこにはユノと、珍しく床に寝そべっているハクタカがいた。
「あ!ハグム様、おかえりなさい。お久しぶりですね」
「ユノ殿。来ていたのか。ああ、仕事であまり役所を抜けられなくてね。今も着替えだけ取りに来たんだ」
ハグムはあの軍師狩りの事件以来、ようやく家に帰ったのだった。
「まあ、大変。ハクタカ、ほら、ハグム様が久しぶりにお戻りよ。起きて」
ユノがハクタカを揺さぶるが、ぴくりとも動かない。
「?ハクタカが起きないようだが、どうしたんだ?」
ハグムが問うた。
「あ、これ…ハグム様、ごめんなさい、私が悪いんです」
「え?」
ユノは、机に置いてあった酒瓶をハグムに見せた。
「お父様が珍しい酒だと言って、飲んだら美味しかったものだから、家から持ってきてハクタカに少し飲ませてみたんです。ほんの少しですのよ。そしたら、こんなふうになっちゃって」
ハグムがハクタカの横に近寄り顔を近くで見ると、ハクタカは顔を真っ赤にして倒れていた。
すっかり熟睡してしまっている。
ハグムは、数日前、シバと酒場に来ていたハクタカを思い出し、その時ハクタカが酒を飲んでいなかったことに心底安堵した。
「起きる気配がないな。どれ、寝床に運ぼうか」
ハクタカの首は力無くだらりと垂れ、襟もだらしなく開き、胸のさらしが一部、見えていた。
ユノは咄嗟にそれに気づき、
「は、ハグム様。私がハクタカを運びます。ハグム様はご自身の準備を…」
と言いかけた、その時。
「む…せぇんしぇい、もうたべられませぇん」
ハクタカが眉間に皺を寄せながら、寝言を言った。
「ちょ、やだハクタカったら」
ユノは呑気なものだと、爆睡中のハクタカを呆れて見た。
剣の特訓のことも許しを得ていないのに、また別件で怒らせたら大変でしょうにと、ユノは内心焦っていた。
「ふふ…っ!はははははははは」
突然のことに、ユノは驚いて目を見張った。
ハグムがハクタカを見て口を大きく開けて笑っている。
(…ハグム様って…こんな風に笑う方だった?)
ハクタカの首に手をあてがいながら、その顔を眺めるハグムはまだ肩を震わせている。
「あ、ハグム様。ハクタカは私が…」
ユノが立ちあがろうとすると、ハグムはシッ、と人差し指を口に持っていき、ユノに微笑んだ。
そして、丁寧にハクタカの襟を直し、よっ、と小声で言ってハクタカを胸の前に抱きとめた。
ユノは、今まで見たことがないような優しい笑みがハグムの顔に浮かび、それがハクタカだけに向けられているのを、見た。
(…ハグム様って、もしかしてハクタカのこと…)
ユノはハグムがハクタカの部屋に入るまで、まじまじと二人を眺めていた。
そして、にやにやと笑みを浮かべながら、チボに小さく手を振り、そうっと、庭から出ていったのだった。
(?ここ、どこ……?)
翌朝、ひとり激しい頭痛を催しながら、布団の上で目覚めたハクタカは、昨日の出来事をまるで覚えていないのであった。
【チョヴィスキーからのお願い】
小説を読んでいただいて本当にありがとうございます
この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!
いいねと思っていただけたら、ぜひ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもポチリしていただけたら最高に嬉しいです!
みなさんの応援のおかげで、なんとか作品を続けています
どうぞよろしくお願いします!




