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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
31/82

酩酊

「ただいま」


ハグムが家の座敷に入ると、そこにはユノと、珍しく床に寝そべっているハクタカがいた。


「あ!ハグム様、おかえりなさい。お久しぶりですね」


「ユノ殿。来ていたのか。ああ、仕事であまり役所を抜けられなくてね。今も着替えだけ取りに来たんだ」


ハグムはあの軍師狩りの事件以来、ようやく家に帰ったのだった。


「まあ、大変。ハクタカ、ほら、ハグム様が久しぶりにお戻りよ。起きて」


ユノがハクタカを揺さぶるが、ぴくりとも動かない。


「?ハクタカが起きないようだが、どうしたんだ?」


ハグムが問うた。


「あ、これ…ハグム様、ごめんなさい、私が悪いんです」


「え?」


ユノは、机に置いてあった酒瓶をハグムに見せた。


「お父様が珍しい酒だと言って、飲んだら美味しかったものだから、家から持ってきてハクタカに少し飲ませてみたんです。ほんの少しですのよ。そしたら、こんなふうになっちゃって」


ハグムがハクタカの横に近寄り顔を近くで見ると、ハクタカは顔を真っ赤にして倒れていた。

すっかり熟睡してしまっている。

ハグムは、数日前、シバと酒場に来ていたハクタカを思い出し、その時ハクタカが酒を飲んでいなかったことに心底安堵した。


「起きる気配がないな。どれ、寝床に運ぼうか」


ハクタカの首は力無くだらりと垂れ、襟もだらしなく開き、胸のさらしが一部、見えていた。


ユノは咄嗟にそれに気づき、


「は、ハグム様。私がハクタカを運びます。ハグム様はご自身の準備を…」


と言いかけた、その時。


「む…せぇんしぇい、もうたべられませぇん」


ハクタカが眉間に皺を寄せながら、寝言を言った。


「ちょ、やだハクタカったら」


ユノは呑気なものだと、爆睡中のハクタカを呆れて見た。

剣の特訓のことも許しを得ていないのに、また別件で怒らせたら大変でしょうにと、ユノは内心焦っていた。


「ふふ…っ!はははははははは」


突然のことに、ユノは驚いて目を見張った。

ハグムがハクタカを見て口を大きく開けて笑っている。


(…ハグム様って…こんな風に笑う方だった?)


ハクタカの首に手をあてがいながら、その顔を眺めるハグムはまだ肩を震わせている。


「あ、ハグム様。ハクタカは私が…」


ユノが立ちあがろうとすると、ハグムはシッ、と人差し指を口に持っていき、ユノに微笑んだ。


そして、丁寧にハクタカの襟を直し、よっ、と小声で言ってハクタカを胸の前に抱きとめた。


ユノは、今まで見たことがないような優しい笑みがハグムの顔に浮かび、それがハクタカだけに向けられているのを、見た。


(…ハグム様って、もしかしてハクタカのこと…)


ユノはハグムがハクタカの部屋に入るまで、まじまじと二人を眺めていた。

そして、にやにやと笑みを浮かべながら、チボに小さく手を振り、そうっと、庭から出ていったのだった。







(?ここ、どこ……?)


翌朝、ひとり激しい頭痛を催しながら、布団の上で目覚めたハクタカは、昨日の出来事をまるで覚えていないのであった。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

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