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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
30/82

遭遇

「シバ様、政府の方々への挨拶が終わりましたの。またご一緒してくださる?」


「おう、来たか」


ランがこちらに戻ってきたので、シバはまた飲み直そうと新しい酒瓶を開けようとしていた。

ランは、ふと屈み、シバにしばらく耳打ちすると、シバは少し驚いた顔をしていた。


(……?)


ハクタカはなんだろう、と首をかしげた。


「ラン様、ラン様!」


店の女たちが慌ただしく、ランのもとにやってきた。


「何、騒々しい」


ランは女たちを制した。


「それが、先ほどの政府の方々のお相手をする予定だったアイシャが、急にめまいで倒れてしまって!」


「なんですって。大丈夫なの?」


ランは目を見張った。


「はい、アイシャは大丈夫なのですが、人手が一人足りなくなってしまって…」


「あら、そう。…でも私も後でいらっしゃるお客さまのお相手もあるし…」


そう言うと、ランは、ハクタカをじっと見た後、シバに目配せした。

すると、シバは何やらにやにやしながら、ランに相槌を打った。


ハクタカは何か嫌な予感がした。


「ハクちゃん、ちょっと。こっちいらっしゃい」


ランがハクタカを手招きすると、ハクタカは店の奥に連れていかれた。






「だーはっはっはっは!!馬子にも衣装ってのは、このことだな!」


ハクタカを前にして、シバは大爆笑した。


「シバ、笑いすぎ」


店の女の格好をさせられたハクタカは、店の着物を着せられ、顔には化粧をあしらわれた。

髪には長い黒髪のかつらを被され、すっかり女の姿だ。

自分で十年以上ぶりに女の服を着たが、窮屈すぎて、さらしを巻く余裕もなかった。

開いた胸元が恥ずかしくて、ハクタカは左手で胸を隠しながらランに近づいて耳打ちした。


「ランさん、俺、政府の方のお相手なんか、できませんよ」


「大丈夫、大丈夫。とっても素敵よ」


「い、良いのですか?しかも片腕のない人間を、そのような大事な場に」


「いいの、いいの。ハクちゃんのお相手は優しいお方よ。隣でにこにこしているだけでいいから」


「は、はぁ…」


それなら、とハクタカは了承した。


「くっくっく。おい、ハクタカ、せいぜい頑張れよ」


シバは思いっきり笑った後、腹が痛いと言っていたが、ハクタカがその場から去るまで、大声の笑い声が扉の向こうまで響いて聞こえた。






大部屋に出た。

店の女たちが部屋の前で挨拶とお辞儀をし、襖を開けた。

ハクタカも同じようにお辞儀をし、なるべく顔を挙げないようにして料理の給仕に励んでいた。

机に三人分の料理を運び終えたところで、ハクタカが顔をあげると、上座に六十歳間近の白髪の痩せ型の男が座り、目の前には三十歳手前の壮年の男、そして、真横にはハグムの姿があった。


顔面蒼白になったハクタカはすぐ顔を伏せた。


(なんでここに先生が!?)


着替える前にランとシバが何やら笑って話し込んでいたのを思い出し、ハクタカは二人にはめられたことを悟った。

そして、それにまんまと引っかかった自分を責めた。


上座に座る初老の男に酒をつぎながら、ハグムは言った。


「長官殿、お招きいただきありがとうございます。我々も一層精進して参りたいと思う所存です」


「いや、ハグム君。君にはこちらも感謝している。毎度至らぬ私に、君は忠信惜しまず働いてくれている。今日はたんと飲んでくれたまえ」


「ありがたきお言葉、それでは」


くいっと酒を飲み干したハグムと、ちらりと視線をやったハクタカは目線があった。


(しまった!!)


すぐに顔を伏せたハクタカはそのまま正座していると、ハグムは何事もなかったかのように目の前の男たちと会話をしていた。


(先生の目が悪くて助かった…)


冷や汗をかきながら、机の上の料理が空になれば下げ、料理が来たら、机に並べる、の作業を繰り返した。

その数十秒もかからない時間が、ハクタカにとっては何時間にも感じた。


「ハグム君、君は今年何歳になる?」


「二十六でございます」


「そうか、君には、良い人がいるのかね?」


その言葉に、ハクタカは思わず耳をそばだてた。


「…いえ。私のような若輩者と約諾する奇矯な女性など、おりませんでしょう」


「ははは、そんなに謙遜するでない。聞き及んでいるぞ。各部の長官殿の娘の婿にどうかと、行く手数多誘われているそうではないか」


「……身に余る光栄に存じます」


(………)


ハクタカは息が詰まった。

このようなことを聞かされ、暗くなる自分が嫌だった。


ふと、座敷に目をやると、店の女たちが手前の皿を片付けろ、と目で合図をしてきたので、咄嗟に立ち上がり、少し手を震わせながらも、ハグムの目の前の空の皿を一枚一枚重ねて、ハクタカは皿を片付けようとした。

その女が丁寧に皿を重ねる姿を見て、ハグムは目前の光景に、日常の光景が重なった。

思わず女の手をひき、女の顔を見た。


「……ハクタカ?」


ハクタカが目を見張らき口をあんぐりと開けると、ハグムの顔はみるみるうちに険しくなった。


(まずい!)


ハクタカは咄嗟に無言で俯いた。


一度ハクタカの手を離したハグムは、


「長官殿、申し訳ありません。しばし用ができました故、一時退出いたします。すぐ戻ります」


と一礼をし、立ち上がると、ハクタカの横を通り過ぎ、ハクタカにしか聞こえない小さい声で、来なさい、と言った。

ハクタカが気まずそうに襖を閉めた瞬間、ハグムは後ろのハクタカの左手首をつかみ、一目散に廊下の隅にハクタカを追いやった。

ハグムは掴んでいたハクタカの手をばっと振り払った。


「何をしているんだ、君は!!」


ハクタカは、覚悟していた怒鳴り声を浴びながら、ハグムを見上げた。


「すみません、ランさんに頼まれてしまって…、せ、先生がいるとは思わずに、俺」


「ラン殿だって?」


ハグムは座敷ではほんの瞬間しか見ていなかったハクタカの顔を間近でみつめた。

口を震わすハクタカの顔は、長い黒髪によく映えたまっさらな白肌で、頬はうすい桃色に染まっていた。瞳は大きく揺れ、小さく形の良い唇には真っ赤な紅がさされていた。頸から肩まで肌は露わで、胸元はぱっくり開き、胸の谷間がちらりと見えた。

ハグムはそれを見た瞬間、ぐっと唇を食いしばり、目をそらして自身の上着を脱ぎ、すぐさまハクタカの頭上にかけて、小さく呟いた。


「今すぐ、もとの服に着替えてきなさい」


「え…?」


ハクタカは頭上の服を取り上げ、ハグムを見上げた。


「今すぐだ!!!」


もう一度、ハグムの怒鳴り声が上から降ってきた。


「は、はい!!」


慌てたハクタカは、衣装部屋に駆け込んでいった。

あんなに顔を真っ赤にして怒られたことがなかったハクタカは、ハグムをとんでもなく怒らせてしまったと至極反省をして、うなだれた。





ハグムは無言だった。

着替えたハクタカを連れ、ハグムは大広間に出ると、シバが大いびきをかきながら、椅子に座って一人寝ているのを見つけた。


「こんなことだろうと、思ったよ」


ハグムはシバの横に立ち、思いっきりシバの耳を引っ張った。


「いででででで!」


シバが痛みで目を覚ますと、目の前にはいつもの姿のハクタカが俯いて立っていた。


「あんれ?ハクタカ、おまえ、女の姿はどうした」


ハグムは、もう一度、シバの耳を思い切り引っ張った。


「いでででででえ!な、何するんだよ、ハグム!」


「金は払った。ハクタカを連れて早く帰れ」


「あ?ああ、ハグム。どうだった、こいつの女装、傑作だったろう?」


笑いながら起き上がったシバは、ハグムの腕を組んで見下ろしている顔を見て、青ざめた。

ランがハグムに近寄り、状況を説明してくれたが、ハグムの顔が緩むことは決してなかった。





夜の街の外に放り出された二人は、並んで歩いていた。


「ハクタカ。……見たか、あのハグムの顔」


シバは冷えた体を両手でさすりながら、低い声でハクタカに語りかけた。


「うん…」


ハクタカは終始、首を垂れていた。


「あいつ、本気で怒るとおっかねえんだ」


シバは一気に、酔いが覚めていた。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

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