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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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秘密の共有

ユノとはじめて会ってから、数ヶ月経った。

ユノはハクタカの家事をよく手伝い、時間がある時にはチボと一緒に遊び、本当に天真爛漫なお嬢様だった。

頻回にハグムの家に訪れるユノに、ハクタカは尋ねた。


「ユノ、こんなに頻繁にここに来て大丈夫なの?」


「…あら、なに?ハクタカは私がここにいると嫌なわけ?」


「違うよ。父上様とか、母上様が心配されないかと思って」


「家にいると、ずっと花嫁修行させられるのよ。無理矢理お見合いもさせられるし」


「へえ、そうなんだ」


ユノが不貞腐れて座敷に寝そべっているのを見て、商人の娘と言うのも大変なのだな、とハクタカはユノに同情した。


ちらり、とユノをみてハクタカは尋ねてみた。


「ユノは、シバのどこが…その、好きなの?」


「あら、あんなに男らしい人いないじゃない!あの低い声やあの逞しいお身体、全部私の好みだわ」


「あ、…はは」


ハクタカは酒に酔い潰れて腹を掻きながら、意味不明の言葉を発し、千鳥足で歩くシバを思い出しながら、私には理解不能だ、と思った。


「それに」


ユノは続けた。


「前の戦争で将軍様まで務めたお方よ。お父様から聞いたもの。私はお金のことしか考えない計算高い商人のお嫁に行くなんてごめんだわ。シバ様のような男らしい武官様のお嫁に行きたいの」


ハクタカははっとした。


今でこそ平和な日々を過ごしているが、シバは先の戦争でエナンの国と戦った将軍だということはハクタカも知っていた。

将軍は、国一の将軍と謳われる大将軍サイの次に栄誉のある地位である。

そんな人物に、剣を教わったことを、誇りに思っていた。


「…ねえ、ユノ。先生には、秘密にしてくれる?」


「え、なあに?するする!」


もったいつけるかのように言ったハクタカの言葉に、ユノは俄然興味を持った。

ハクタカはチボの小屋から、シバからもらった剣を引っ張り出した。


「実は、俺、シバから習ったんだ。体術も剣術も」


「え、本当!?」


「うん。みてて」


ハクタカはシバからもらった剣を鞘から取り出し、宙を舞って剣を突き出してみせた。


「すごい!」


ユノが驚嘆した。


「えへへ」


ハクタカは、上機嫌に目を細めた。


「さすがシバ様!天下の将軍様よね…」


「うん。シバは、本当に強い。実は、ユノがここに来ていたから…していなかったけど、俺、毎日これで剣術を磨いているんだ」


「毎日?どうして?」


ハクタカはシバに剣術を学ぶに至った経緯を自分の秘密は置いといて、できる範囲で話した。





「…本当、偉いわよねぇ、ハクタカは。私に遠慮しないで、練習してちょうだい。私も、あなたが剣術を練習しているところを見ていたいわ」


「うん、ありがとう」


二人は顔を合わせて笑った。


ハクタカはユノにならこの秘密の修行を教えても良い、と思った。

本当に嬉しそうに自分の話を聞いてくれる人だった。

良家のお嬢様と感じさせない気さくなユノが、ハクタカはだんだん好きになっていった。

昔、この家の近所にはハクタカくらいの年齢の子供はいなかったので、はじめて気軽に話せる同世代の友達ができたようで、ハクタカは嬉しかったのだ。




昼下がり、いつものように剣の修行をしているハクタカを見ながら、ユノは庭の廊下でチボと戯れていた。


「よくあれだけ動けるわよね、ねえ、チボ」


ワン!とチボはユノに返事をした。

女のユノに、チボはよくなついた。


身を翻し、剣の連撃を繰り出した時、ハクタカは急に立ち止まった。


呼吸が、うまくできない。

身体が、自分ではないような感覚に陥った。


一生懸命空気を吸おうとした瞬間、ハクタカの足が崩れ落ちた。


「ハクタカ!?」


ユノは急いでハクタカに駆け寄った。

地面に顔を伏せ、目を閉じたハクタカの横顔は、すごい量の汗が滴っており、呼吸が速かった。

意識が遠のいている様子で、ユノが話しかけてもハクタカからの返事がなかった。

しばらく驚きとまどっていたユノだったが、ふと、思い出した。

商人の父親と船旅を幾度もしていたユノは、船上で急患が出た時に行う救急処置を、船医から学んだことがあったのだ。


「呼吸は、一応できてるわね。そしたら、えっと、まず体をまっすぐ、起こして」


焦って震えながらも、顔から首元に垂れるハクタカの汗を裾で拭き取り、ユノは船医がやっていたことを思い出していた。


「そうよ!呼吸が苦しいとき、胸の音を聞いていたわ」


ユノがハクタカの胸に耳を当てたが、心臓の音が遠い。

ユノはすぐ顔をあげて、ハクタカの顔を見た後、おかしい、と感じ、ハクタカの胸の部分の服を触った。


「なに、これ…」


ユノが急いでハクタカの服の襟を開くと、そこには、幾重にも巻かれたさらしがあった。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいてありがとうございます

この小説を読んでいただいて


「面白そう!」

「続きどうなるの?」

「応援してるよ!」


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みなさんの応援が、チョヴィスキーが執筆を頑張るための何よりのモチベーションです!

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