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異界心傷  作者: 已岐匡近
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第1話 英雄王①

 俺は御手洗梓晴ミタライ アズハ

 この剣と魔法の世界の中で、一国の王として英雄とも称されている。


「王様万歳!!」


「国王陛下ばんざぁあああい!!!」


「キャァアアー!!アズハさまぁああ!!!」


俺の国も他の国と同様に城壁の外の森林や山岳、海などで魔物の被害が絶えない。


その中でも最上級とも言えるSランクやSSランクの災害に一人で立ち向かうのが俺の仕事だ。


「おい!王が今日の獲物をお披露目だ!!」


「今日はどんな大物を仕留めてきたんだ!?」


「早く見せろよぉおお!」


国民たちが俺に向かって歓声を上げながらロープパーティションのそばまで駆け寄ってくる。


そして皆口々にこう言う。


「さすが我らが英雄!!」とか、「やはり貴方様こそ世界を救うお方です!」とか……。


「これが今回の討伐対象だ!!」


そう言って俺は自慢げに巨大なロックワームの死体を持ち上げる。すると再び大きな声援が上がった。


もうかれこれ月に一度か二度、ほぼ一年中同じことを続けている気がする。


この世界に転移した時、こんなことになるとは考えもしなかった。


大通りを抜けて城門に到着した。ロックワームを門兵に預けている最中、上から声が聞こえた。


「かかっ!随分と人気者ではないか?」


 そこにはドラゴンの翼と角がある少女がいた。彼女の名はメデイア・エンシェントロード。


彼女は俺の妻の一人であり、魔王と呼ばれている存在だ。


彼女は龍神族という種族で、この世界で最も強力な存在の一人だ。


「メデイア。珍しいね、こんな時間に起きているなんて。何かあったのか?」


「お主が狩ったロックワームをご馳走になりたいと思っていたのだ。それから、酒と私との夜のひと時を過ごしたいともな」


彼女は妖艶さと色気を凄まじく感じさせながら、近づいてくる。


「はいはい……分かったよ。じゃあ、料理ができるまで待ってて」


「うむ」と彼女は言うと、城のバルコニーまで飛んで行った。


「彼女はいつも自由なんだよね」


後ろから急に声をかけられた。


振り向くと、甲冑を着た女騎士がいた。


彼女もまた俺の妻の一人であり、アリエル・イリーナという名前だ。彼女はエルフ族の姫であり、元王女でもある。


見た目は十代前半に見えるが、実年齢は100を超えていると聞いている。彼女の先祖にはエルフの英雄がいるそうで、その影響で老化速度が遅いと言われている。


「まぁ、それがメデイアのいいところだからね。それより、君も食べるかい?」


「えぇ、是非ともご一緒させていただきます」


「そうだ、食事の後にベッドルームで会おう」


「ふふっ……わかりました。では、後ほど……」


そう言い残してアリエルは食堂に向かったようだ。彼女が去った後、俺は自室に向かい、ドアを開けると美少女がそこにいた。


「あっ!アズハさん、おかえりなさい!」


女性はこちらを見て嬉しそうな表情を浮かべながら言った。


「ただいま、帰ってきたよ、マリア」


 女性の名前はマリア・ベリサリオ。彼女はヴァンパイアと呼ばれる不死身の吸血鬼の始祖の血を受け継ぐ一族の生き残りだ。


彼女はハーフではあるが、純血種の吸血鬼よりも遥かに高い魔力を持ち、身体能力も優れているため、Sランク以上の魔物とも戦える。


「はい!今日もお疲れ様です!」


「メデイアとアリエルとはもう会った?」


「いえ、まだですよ。これから会いに行こうと思っていたんです」


「そうか、それならちょうどいいかもね。実は今からみんなで食事をしようと思っているんだけど、一緒に来ないか?」


「本当ですか!?行きたいです!!」


そう言ってマリアは満面の笑みを見せる。俺はそれに釣られて微笑んだ。


「それじゃあ、食堂に来てくれるかな?俺も着替えてすぐ向かうよ」


「はい、分かりました!!」


そう元気に返事をして部屋から出て行く彼女を見送ると、俺は全ての窓と扉を閉めて、部屋の壁、床、天井に認識阻害の魔法をかける。


これでこの部屋と外部の音は遮断される。


「………………………………………」


無言で洗面台に向かい、蛇口をひねる。


震える手で流れ出た水に手を差し入れ、冷たい感触が肌に刺さる。


指を閉じて水を掬い、何かを鎮めるように手に持つ。


「ぅ……」


濡れた手で頭を抱え、彼は一人で声を漏らした。


「…っ……」


なぜだろう?


どうしてだろう?


わからない……


「…助けてくれ……」


その嗚咽に応えるかのように、背後に微かな変化を感じた。


(…扉?)


さっきまでそこにはなかったはずの光る四角い板があった。


目を凝らしてよく見ると、顔中の毛が逆立ち、全てがその光る扉に向かっていた……


「………」


彼は立ち上がり、扉の中へと消えていった。



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