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バーサーク≠ビーナス  作者: 高杉愁士朗
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(3)

 ロキは腕の中のアマテラスをそっと床に横たえると、ゆっくりと立ち上がった。

 アマテラスの顔を見ると、優しい顔をしていた。それでいて寂しそうな表情。

 ロキは頭がズキリと痛む。目をしかめ、頭を押さえる。

 母の記憶は夢でうっすらと見ていた。でも、記憶が消されているとミルコが言ってたせいもあり、全て思い出すことが出来ない。

 もどかしい気持ちになり、ロキは俯き、床に転がした剣を握った。


「ミハエル……!」


 ロキは自分の父を呼び捨て、転がっているミハエルの喉元に剣を突き立てた。


「ひい! ろ、ロキ! アマテラスも言ってたじゃないか! 俺を許せと! な? お前にもこの世界を分けてやる! お前の意思も汲んでやろう! 私と一緒にユートピアを作ろうじゃないか!」


 硬直した張り付いたような笑みを浮かべ、ミハエルは両手を上げる。ロキはじわじわと距離を詰め、


「今更命乞いとは醜いぞ。俺は母さんを殺してしまった。お前の目論見通り生きてきてしまった俺や、オーディンのことなんか、ただの駒にしか思ってなかった男が、この先、生きてこの世のためになるものかよ!」


 言って、剣を振りかざそうとしたときだった。ミルコが叫んだ。


「ロキ! その男の始末はロキがしなくても、民衆が裁きを下してくれるよ! だからもう、自分の手で家族を殺さなくていいんだよ!」


 そこ言葉にはたり、とロキは動きを止める。眼下にいるのは醜い姿の裸の王様。ロキはそれでもこの男が自分の父親だと思うと、吐き気と涙が出てくる。


「で、でも……こいつのせいでみんなは苦しみを負うことに……」

「だからこそだよ! ロキ、今度はあんたがこのユートピアを統治すればいいんだ!」


 ミルコの方を見た。ミルコは真剣な眼差しでロキに訴えかけている。


「俺が統治……?」


 言って、剣を持つ手を緩めようとした瞬間。ミハエルは隠し持っていた銃をロキに向けた。


「アホか! 誰がお前にやるものか!」


 ミハエルがパンと、乾いた弾丸を放つ。ロキはそれに気づき、左に避けると、肩を掠った。


「は、ははは!」


 ミハエルが引きつった表情で銃を向ける。ロキはミハエルを睨みつけると、思い切り、蹴りあげた。


「ぐは!」


 みぞおちに一発喰らわせた蹴りに、ミハエルはその場で蹲る。そのときサーシャが駆け寄り、ミハエルに手錠を架けた。


「これでもう大丈夫よ」


 サーシャがロキを見て言うと、ロキが、訝るようにサーシャを見つめ、


「あんた、ミルコを拐った女だろう。誰だ」

「私は、ボスの右腕の科学者だった、サーシャよ。ミルコの実の母親よ」

「ミルコの!?」


 ロキが目を丸くして言うと、アディーもロキに駆け寄り、


「ミルコ、お前、親が見つかったんだな! 良かったじゃねえか! 」


 言われて、ミルコが照れくさそうに笑うと、


「うん。どうやら、僕の母さんも謀反を企んでいたみたいなんだ。ロキが攻めてくるタイミングでミハエルを裏切る策略だったらしい」

「そう、だったんだ……」


 ロキはぎゅっと唇を噛んだ。大勢の人間がやはりこのアマテラスプロジェクトの陰謀を終わらせたかったのだろう。

 アディーが、悲しそうな表情を浮かべ、


「ミルコ、良かったな。本当に……。俺は、父さん、死んでしまったから……」


 今に泣き出しそうなアディーにミルコは駆け寄ると、


「きっとアディーを救いたかったんだ。命を賭けてくれるなんていいお父さんだよ。アディーとの絵も渡しておいたから」

「そうか……。ミルコ、ありがとうな……」


 アディーははらりと涙を一筋流した。そんな二人に笑みを向けると、ロキはイロハの方へ足を向けた。


「イロハ! もう大丈夫だよ。ずっと助けに来れなくてごめん」


 言って、猿ぐつわを外してやると、イロハは破顔して、


「ろき! ろき! すき! ろきいい!」


 言って、うっうっと泣き出した。サーシャがイロハの手枷を外してやると、イロハはロキに抱きついた。ロキも久しぶりに会ったイロハの身体をぎゅっと抱きしめる。温かい。


「イロハ。俺もイロハをもう離さない。一緒にこの世界を変えよう」

「ろき、ろき。すき。ろき」


 言って、二人はいつまでも抱きしめ合っていた。


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