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バーサーク≠ビーナス  作者: 高杉愁士朗
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(2)

 ビーナスの軍勢がロキたちに襲いかかる。ビーナスの手には剣が握られていた。棍棒や銃器と違い、ビーナスの力で剣を振るわれたら命に関わってくる。

 先に咆哮を上げたのはアディーだった。

 ざっと二百はいるビーナスに向け、マシンガンを放つ。


「怯むな! ロキ!」


 アディーは歯を食いしばり、ビーナスの身体目掛けてマシンガンを撃つ。ロキはちらりとイロハを見て、足を踏ん張った。

 目の前にいるのは、ただの量産されたクローン人間。そう心の中で反芻し、


「散れええええ!」


 と、剣を振りかざす。ビーナスがロキに攻撃を加えられると、次のビーナスが剣でロキを狙う。隙が出来てしまったロキはなんとか剣を次のビーナスの攻撃を受けようと宙で身体を捻る。

 が、別のビーナスが背後からロキに迫る。しまった、と思い、身体を縮めようとした瞬間、ロキの背中がズシャリと一文字に斬りつけられた。


「ぐあっ!」


 と、ロキはその場で膝を付く。体勢が崩れたことによってビーナスに囲まれたロキに剣が振り下ろされる。そのときだ。ズガガガガと、遠距離からのアディーの攻撃がビーナスの身体を襲った。


「ロキ! 大丈夫か!?」


 アディーが声を上げると、ロキは痛む背中を必死に堪え、立ち上がった。


「だ、大丈夫だ。ありがとう、アディー」


 言って、剣を握りしめ直すと、キッとビーナスの群れを貫き、口角を上げると、


「来いよ。俺が始末をしてやる」


 言って、床を蹴ると、剣を思い切り振り回す。左右斜めに斬りかかるロキの攻撃に、ビーナスたちは己の剣で受けようとするも、それを弾かれ、弾かれた隙に別のビーナスの剣を弾く。剣を落としたビーナスは慌てて拾おうとするも、ロキは身体を翻し、背中を向けたビーナスから次々と薙ぎ払っていく。


 ぎゃああ、と悲鳴が響き渡り、アディーの攻撃で群れを成しているというデメリットを突かれ、あっという間にビーナスの軍勢は血の海と化した。アディーが攻撃したビーナスは死んでいるだろうが、ロキの攻撃をしたビーナスは「うう……」と声を上げながら倒れていた。


「こんなものかよ。ただの人形じゃないか」


 ロキが、ミハエルを睨みつけ、放つ。ミハエルはぎりりと奥歯を噛み締めると、デスクの上のボタンを押した。


「んあああああっ!」


 ロキは悲鳴の先を見た。イロハが椅子に縛られ、痙攣していた。電気が流れているのだろう。バチバチと音を立てて、椅子が軋んでいる。


「んああああああっ! あぎ、あぎ!」


 猿ぐつわをされているイロハは、きっとロキの名前を呼んでいるのだろう。涙を浮かべ、ロキをじっと見ている。


「い、イロハ……!」


 手を伸ばし、ロキは駆け寄ろうとした瞬間、プチンと頭の中の糸が切れた。


「うああああああああ!!!」


 ロキは咆哮を上げると、目の色が変わった。今までの温かみを帯びた黒い瞳が、ぎらりと鈍く光る。ロキは剣を強く握るとミハエルに向かって駆け出した。


 そのときだ。部屋の奥から女の声が響いた。


「ロキ、やめなさい!」


 そこにいたのは、ビーナスのプロトタイプと、ミルコ。そしてサーシャの姿だった。


 ロキはそれを一瞥するも、構わずミハエルに向かって剣を振り上げた。ミハエルは「ひい!」と間抜けな声を上げると、その剣を横からプロトタイプのビーナスが弾いた。手には剣が握られていた。落ちていたビーナスの剣を拾ったのだろう。

 ロキは弾かれ、後ずさる。目標をプロトタイプに向けたロキは、剣を上段に構え、振り下ろそうとする。カキン、と剣同士がぶつかり合う音がして、プロトタイプがロキの剣を受けた。

 じりじりと剣を押し付けるロキ。プロトタイプのビーナスは悲しげな顔をしてロキを見つめる。


 ミハエルはへたり、とその場で尻もちをつくと、プロトタイプを見て、


「あ、アマテラス! な、なぜ、お前が!」


 ミハエルは目を丸くしてプロトタイプのビーナスを見つめる。未だ互いに引くことのない攻防の中、アマテラスと呼ばれたプロトタイプが、


「貴方。私はそこにいるサーシャに連れられてここに来ました。ずっと幽閉され、私は愛する子ども……ロキのことを手放してからというもの、貴方を憎んでいました。でも、貴方をここでロキに殺さすわけにはいきません。ミハエル。貴方はもう充分楽しんだでしょう。ロキを解放してあげてください!」


 アマテラスの叫びで、ミハエルは顔を歪める。


「お前に何が分かる! ロキが生まれてからというもの、お前はなにかにつけてロキ、ロキと……。私の存在など、お前にはもう無価値のように、私をいつも放っておいたではないか!」


 ロキは剣を一旦引き、もう一度アマテラスに斬り掛かる。アマテラスははっとして剣を受ける。弾くように剣を押し上げると、ロキの身体がノックバックする。


 アマテラスが、唇をぎゅっと噛み締めると、


「貴方はいつも研究、研究。何かにつけてそればかり。人間を囲い始め、どんどん変わっていく貴方を見ていられなかった。私にはロキしかいなかった。私を量産し始めていた貴方にも嫌悪感しかなかったわ。私の気持ちを分かっていなかったのは、貴方よ!」


 剣を握りしめていた手を離した。それからアマテラスはロキを見つめると、両手を広げた。


「ロキ。おいで。私の可愛い子」


 言って、優しく微笑むと、ロキはまだバーサーク状態で理性を失ったまま、アマテラスに向けて剣を振り下ろした。

 ズシャッと、アマテラスの右肩から左の腰に向けて放たれた剣によって、アマテラスは両手を差し出したまま身体から血が溢れる。膝を折りそうになったアマテラスは足をそっと前に出し、ぎゅっとロキの身体を抱きしめた。

 ロキは身体を硬直させた。


「ロキ。愛しているわ」


 耳元で囁かれるその声にロキはハッとした。夢で何度も見た母の顔を思い出した。ロキはだらりと腕が解かれていくのを見て、


「母さんっ!」


 と、アマテラスの身体を受け止めた。アマテラスは薄く笑うと、


「お父さんを許してあげて……」


 言って、血を吐いて目を閉じた。ロキは涙をはらはら流し、


「くそおおおおおおっ!! 母さん!!」


 言って、アマテラスの亡骸を抱きしめていた。

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