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ヴィオレットの森の扉の魔女  作者: 神田柊子
第四章 境界の森

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眠ったままのブリジット

 五日後、ブリジットがダーツ辺境伯邸に戻ってきた。

 ロイクと打ち合わせて毎日朝と夕方に時間を決めて連絡し合うことにしていたから、ブリジットの到着は前日に知れた。

 到着予定の日は、朝からエマとタクトとカイも辺境伯邸で待機していた。

 ブリジットはセドリックに抱きかかえられて馬車から降ろされ、病室代わりの客間に寝かされた。

 眠っているブリジットは穏やかな表情で、カイが話していた通り、悪夢に苦しんでいる様子はない。飲まず食わずなのにやつれている風でもなかった。ただの病気ではないのはエマにもわかるが、魔族かどうかはエマには判断つかない。ブリジットの周囲には魔族はいなかった。

「おそらくは夢の中にいる」

 カイがエマにささやいた。

「呼びかけたら会えるかしら」

「先に状況を説明しよう」

 オーブリーがエマに声をかけ、客間の外に促す。エマはうなずいて彼に続こうとしたとき、ブリジットの手が上掛けから出ているのを見つけてそっとその手に触れた。

 瞬間。

「え?」

 ぐらりと押し倒されたように体が傾く。

 力が抜けて膝が崩れ、エマはその場に座り込む。

 ブリジットに触れた手が、ぎゅっと握り返された。ブリジットの目が覚めたのかと顔を上げたエマを、彫像のように秀麗な顔の緑の髪の男が見下ろしていた。その赤い目と、エマの菫色の目が合う。

「ブリジットが君を呼んでいる。招待しよう」

 胸に片手を当てる芝居がかったしぐさで、彼はエマの意識を連れ去った。


「え?」

 エマの声が聞こえ、タクトは振り向いた。

「エマ!」

 駆け寄ったときには彼女の体はゆっくりと傾き、ブリジットのベッドにすがるように倒れた。

「待て」

 駆け寄ろうとしたタクトをカイが制した。今日は虎の姿だ。

「夢魔とお見受けする。わが主『扉の魔女』をどうされる?」

 カイは中空を見つめ、硬い声を上げた。体中の毛がぶわりと逆立っている。タクトには見えない魔族がいるのだろう。タクトもカイの視線の先をにらみつけた。

「帰していただけるのだろうな」

 魔族の返事はタクトには聞こえないが、カイは会話できているようだった。

「承知した」

 そう答えたカイはすぐにエマに駆け寄った。タクトも続く。

「魔族がいたの? なんだって?」

 人型に変わったカイはタクトを無視して、エマを抱き上げた。しかし、彼女の手はブリジットが硬く握っていた。タクトが脇に置いてあった椅子を持ってきて、カイはエマをそこに座らせ、ベッドに突っ伏すような体勢にした。

 枕元で一部始終を呆然と見ていた辺境伯夫人サビーナがはっとしたように「ブリジットの隣りに寝かせてあげて」と言った。

「いいえ。近すぎると良くない」

 カイが首を振ると、サビーナはメイドに「長椅子を」と指示した。

 用意が整う間に、カイは説明した。

「夢魔の魔族がいた。令嬢がエマと話をしたいからエマを彼女の夢に招待したそうだ。令嬢が満足したらエマを帰す、と」

「ブリジットはその魔族に囚われているのか?」

 オーブリーの質問にカイは少し考えてから、

「夢魔は令嬢の希望を優先している印象を持った。夢の中に閉じこもっているのは、令嬢の意志かもしれない」

「ああ、やっぱり急な縁談が負担だったのよ」

 サビーナが嘆くのをセドリックが支え、従僕が運んできた長椅子はエマより前にサビーナが使うことになった。彼女の隣にジュリエンヌが寄り添う。

「夢魔をどうにかするよりも、令嬢が自ら目を覚ますようにした方が確実だ。だから、夢の中でエマが彼女と話ができるなら、その方が都合がいい」

 カイはタクトに言った。人型の彼がタクトの頭に乗せる手は重い。

「エマは大丈夫だ」


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